百合エロゲの世界に転生したけど、私は百合が見たいだけなので全てのルートを回避して傍観者になることにした ~なのに何故かメイドから告白されて押し倒されています~

笹塔五郎

第1話 どうしてこうなった

 ――どうしてこうなってしまったのだろう。

 私、リーリア・アルファートはただ困惑していた。

 ここは私の通う学園寮の自室で、今はベッドの上にいる。

 外はすでに太陽が沈み始めていて、部屋は少し薄暗くなっていた。

 本来であれば明かりを点けているし、ベッドでくつろぐには早い時間だ。

 ――私の部屋ではもう一人、一緒に過ごしている少女がいる。

 彼女の名前はアシェル・クーディ。同じ学園に通っていて、同じクラスで、寮の部屋も同じだが、ただの同級生というわけではない。

 アシェルは幼い頃から私と共にいる従者……アルファート家に仕えるメイドだ。

 アルファート家は貴族の家柄であり、仕える者はそれなりにいるが、私にとってアシェルは特別だ。

 言ってしまえば、ずっと私の傍にいてくれる人であり、身の回りの世話から護衛まで兼ねている。

 学園に通ってはいるが、彼女はすでにそこらの騎士には負けず劣らずの強さを持っている。

 私が安心して学園にいられるのは、彼女の存在があってこそだと言えるだろう。

 アシェルのことは信頼しているし、これからもずっと私の傍にいてくれると思っている――だが、その『関係性』が今、歪もうとしていた。


「私は……ずっと貴女のことをお慕いしておりました」


 だって、彼女は私をベッドの上に押し倒して、頬を朱色に染めながら、そんなことを口にしているのだから。

 その言葉を受けた私はというと、驚きのあまり言葉を失っていた。

 ただ、頭の中では思考が巡っている。――どこで間違えたのだろう、と。

 こう言ってしまうと誤解されるかもしれないが、私は別に彼女のことが嫌いなわけじゃない。

 告白された事実は本来嬉しいものだし、お互いに同性ではあるけれど……むしろ私としては歓迎だった。

 長い黒髪を後ろに束ね、整った顔立ちをしているアシェルは紛れもない美少女だ。

 ずっと一緒にいて、私だって似たような気持ちを抱かなかったかと聞かれたら、それは嘘になる。

 でも、私は少なくとも『この世界』では誰ともそういう関係になるつもりはなかった。

 そのはずなのに、正直に言ってしまえば全く予想しない相手とのフラグを立てていたことになる。

 いや、そもそも彼女とは幼い頃から常に一緒にいたのだから、その状況こそがフラグ建築だったと言えるのかもしれない。

 そういう意味では、気付けなかった私のミスと言えるだろう。

 静寂の中で、私はようやく言葉を発する。


「ええっと、その……アシェル、あなたの気持ちは嬉しいよ」

「では――」

「待って、私は……あなたの気持ちには応えられない」


 私の言葉を受けて、わずかにアシェルの表情が揺らいだ。

 けれど、あくまで平静を装っていて、大きく動揺することはない。


「やはり、そうですよね。私はあくまで従者。そのような身の上で貴女に告白するなど……」

「いや、いやいや! 違うの! 身分がどうとかで断っているわけじゃなくて……」

「では、同性は受け入れられない、と?」

「ううん、むしろ嬉しいけど」


 はっきりとした理由を告げられず、ただのらりくらりとかわすような受け答えになってしまう。


「……リーリア様は必要以上に他人と仲良くなること避けているように見えました。そんな貴女を傍で見ていて、私は貴女を孤独にしたくなかったんです」

「別に、孤独だなんて思ってないよ。こうしてアシェルがいてくれるし」

「はい。でも、今以上の関係を求めるのは……やはり間違っていることですか? 私が貴女に告白することは、きっと間違っていることです。この気持ちはずっと秘めておこうと思っていました。今日だって、本当は言うつもりなんてなかったのに……でも、我慢できなくなってしまったんです」


 淡々としているようで、アシェルの感情が伝わってくる。

 彼女はいつも冷静で、口数は多い方ではない。

 けれど、今日は随分とよく話す。

 少なくとも、『リーリア』と『アシェル』がこのような関係になった記憶は、私にはない。

 つまり、今起こっていることは――『転生者』である私にすら分からないことなのだ。

 ちらりと、視線を上に向ける。

 私の両手はアシェルの片手に押さえつけられていて、力を込めても抵抗できない状態だ。

 いくら頑張っても勝てないことが分かっているから、無闇には抵抗しない。

 ただ、アシェルは自由な方の手をゆっくりと私の身体に這わせ始めた。


「っ、アシェル……? それは『ダメ』だよ……?」


 はっきりと拒絶の言葉を告げたつもりだが、彼女の表情は変わらず手も止まらない。もっと強い言葉で拒絶すれば、あるいは――脳裏には過ぎるが、私には無理だった。

 私自身、この予想できない展開に困惑してどうしたらいいのか、判断できなくなってきているのかもしれない。


「私には……リーリア様に受け入れてもらう方法が、一つしか思いつきません」


 この流れはまずい――頭の中では理解できているのに、逃げられない。

 私にはこの後どうなるか分からないが、彼女が何をしようとしているのかは分かってしまうのだ。

 だって、ここは『百合エロゲ』の世界――メイドに押し倒された『主人公』がされることと言えば、間違いなくえっちなことしかなかった。

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