008 魔科学師ゼオスの実力①

 魔王軍がやってくるまでおおよそ2時間、どうしたものかと考える。

 光羅宮の外を出て空を見た。見上げる必要はなく、真っ直ぐ前を見ただけだ。


 この宮殿は随分と高所にあるようで魔王の栄光を象徴しているかのようだった。

 まわりは外街と呼ばれている城下町が並び、中央にそびえる魔王だけのハーレム宮殿、そういった感じだろうか。


 ファナディーヤに地図を持ってこさせた。


 南部は海が広がっており、東部西部は草原が広がっている。

 北部は険しい山々が立ち望んでいて、冬はそこを超えた雲が雪を降らすらしい。


 首にペンダントという形で下げているクロに声をかける。


「さてとどうしたものかな」

『敵性戦力は外街の護衛を併せて6000人ほどだそうです』

「こっちは」

『ファナディーヤ様を含めば2人ですね』


 戦力差から言えば絶望的なんだよな……。

 魔王だったらこの戦力差でも跳ね除けたんだろうか。


 後ろで地図を持ち、心配そうな顔をするファナディーヤに声をかける。


「100人の女子達の中に戦える奴はいないのか?」

「ゼロとは言いませんが期待はできません。わたくしもある程度戦えますが恐らく十神将には敵わないでしょう」

「向こうにも女の兵はいるんだろう? そいつらを味方につけられないのか?」


 ファナディーヤは俺の言葉に心底不思議そうな顔を見せた。


「魔法力の劣る女が戦場に出ることはほぼありませんわ。男が戦場に出て、女が家庭を守る。それがこの世界の常識ですわね」

「ルゲルという男が随分と女に対して高圧的だったのはその常識が悪いんだな」


「長年、女性は虐げられておりましたからね。女を性欲処理、子を産むものとしか思っていない男性も多いです」

「男尊女卑かよ」


「そうと言えますわね。ゼオス様のように比較的気軽に接してくださる方は非常に珍しいですわ」

「俺が元いた世界は男女平等、女子も強かったからな」


『男が横暴な分、女も男に立ち向かうという発想がないのかもしれません』

(それはありそうだな。俺の世界の女だったら男なんてぶっ殺すなんて奴も多かった)


 この際そこを考えても仕方ないな。


「今回、向こうは大群で押し切ってくるはずだ」

「はい。兵器などは使用してこないでしょう。する必要もないと思っています」


 ただ数で蹂躙し、魅力的な女たちを襲い喰らい尽くす。

 恐怖に怯える女達に対して喜びを感じているんだろうか。


「気にいらない」

「ゼオス様?」

「そこに愛はない。行くぞ、俺が奴らを蹂躙してやる」


 ファナディーヤはぺこりと礼をした。


「お願い致しますゼオス様。外街の門に馬を用意しておりますわ。よろしければお使いくださいませ」

「いらんだろ」


 俺はファナディーヤの手を掴む。

 魔力を全身に行き渡らせて、ふわりと宙に浮く。


「え? ちょ、え?」

「喋ると舌を噛むぞ。出る!」

「きゃあああっ!」


 飛行魔法を使い、外へ飛び上がる。

 そのまま敵軍の方へと突き進んだ。狙いは地図にもあった、外街の外を広がる平原の先の一本道の林道。

 大群がここを通る時、ここで必ず減速するはずだ。


 向こうが飛行魔法があったらこの作戦も台無しだが……。


「すごい! 機械でもないのに空を飛ぶなんてどういう原理ですの! わたくし、気になりますわ」


 賢者姫がこう言ってるんだし、恐らく飛行魔法は普及してないんだろう。

 ならば勝機はある。


 一足先に林道の出口で陣を取り、敵軍がやってくるのを待つ。

 平原に入られると広がられて討伐が面倒になる。一つにまとまってくれるならありがたい。


「ファナディーヤ。引っ張っておいてなんだが一緒に来てよかったのか。俺が君を置いて逃げるって考えなかったのか?」


 まだ時間があったので後ろでじっと俺を見ているファナディーヤに声をかけた。


「ふふっ、わたくしもいろいろと思うところがありますわ。ですが」


 ファナディーヤはじっと近づいて俺の手を掴む。


「あなたは他の男性とは違うように思えるのです。女が食事を作るなんて当たり前でしたから、ああやって心底嬉しそうに料理に対する礼を言うなんて考えられませんでしたわ」

「魔王はそっけなかったんだな」


「口に合わなければ直ぐにでも捨てる方でしたから。でも魔王様にあなたは勝ちました。だからわたくしはあなたに賭けることにしたのです」

「おまえが魔王を殺したせいでとは思わないのか?」

「わたくし、魔王が大っ嫌いでしたから!」


 その本心、とても綺麗に思えた。


 この人生、命ずるままに生きて、命ずるままに戦い、用済みとなって殺されかけた。

 だけど今、この子達は俺を必要としてくれている。

 守ってあげたいな……。それこそが俺の好き勝手に生きるに繋がっているのかもしれない。


(クロ、戦闘の映像を撮っておけ。いろいろなところで使えるからな)

『マスターは本当に美女に弱いですね』

(ふん、男は女に弱いくらいがちょうどいいんだよ。男尊女卑なんてくそくらえだ)


 馬の足音が近づいてくる。

 ルゲル軍の先遣隊がここに到着したようだ。

 顔が割れているファナディーヤを茂みに隠し、前に出るなと忠告した。


 俺は手を振って、200人ほどいる軍団をストップさせた。


「お〜〜い!」


「我らは偉大な魔王様の十神将、ルゲル様の軍であるぞ。貴様何者だ!」


 先遣隊の装備を改めて見てみる。

 装備は鎧というよりはローブに似ている。武器も剣や銃ではなく、全員杖を持っている。

 魔道士という話は本当のようだ。

 文明の低い世界だと近接武器を使うことが多いと聞くがこの世界の主戦武器は杖なんだな。


(クロ、データをとにかく集めろ。どうせこの世界で生きていくんだ。情報は多いに越したことはない)

『承知しました』


「この近くの村に住んでいるものです! 先の街を略奪するというお話を聞きまして、えへへ……おこぼれにあずかろうかと」

「ふん、卑しい奴め。しっし、邪魔をするでない」


「えへへ、良い情報があるのですよ。とんでもなく綺麗な女達の姿を見ました!光羅宮って所から逃げたようで、居場所知りたくないですか?」

「なんだと!」


 ざわっと先遣隊の先頭の十数名が騒ぐ。

 光羅宮の名前は魔王軍なら誰でも知っている話は聞いている。魔王が所有していた一級の美女達だ。飢えた男達には堪らない話だろう。


「その話、本当か?」

「ええ。ですが私1人だとさすがに難しくて、長い黒髪の美しい女が扇動していました」

「賢者姫か。女のくせに男並に魔法を使いこなす姫。村人ごときじゃどうにもならんだろうな」

「ルゲル様にご報告はされるのでしょうか」


 先遣隊の隊長は少し考えていたが首を横に振った。


「光羅宮の女はどちらにしろルゲル様やその側近しか食えんよ。わしらには外街の女しかまわってこん」


 やっぱりいい女は全部上のやつらが持っていくんだろうな。

 このルゲル軍の縮図が見えてくるようだった。


「でしたら逃げた女達をあなた様が奪えば……」

「逃げた光羅宮の女を我々で犯し、見つけた褒美をルゲル様から頂ける」

「その通りでございます!」


 先遣隊達の男はその話に大きく喜びをあげた。

 相当美味い話なんだろうよ。まったく……。


(クロ、どうだ?)

『メンタルチェック完了。先遣隊の全員、罪悪感がありません。女を襲うことしか考えてないようです』


 これだけの数なら最新型高性能兵器グロースツールの機能を十分に使うことができる。

 俺の世界ではすでに人の思考をある程度読み取ることを可能になってるんだよ。

 だからこそクロの力でこの200人ほどの兵の思考を読んでもらった。


(上が糞で下がまともってのが俺の世界の常識だったが、この世界は下も糞だったか)


 軍の一部分だけで全てを判断するのは良くないがまぁ……もうめんどくさいな。


「クロ、ランチャーモードに変更」

「へ?」


 先遣隊の隊長が呆けた声を出す。


「セット、ダークネスブラスター」


 最新型グロースツールである超高性能兵器【クロッカス】をランチャー形態に変更。

 魔力を込めて、砲身から巨大なビーム砲を出現させる。


 直射砲撃魔法を先遣隊にぶち込むことにした。

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