007 楽園の危機

 再び魔王の姫達が全員集まった。

 俺が休んでいた部屋の側で初めて100人の姫を見たあの部屋だった。

 あの部屋自体が寝室から見下ろせる所にあり、こうやって時々全員集めて鑑賞していたのだなと思う。

 ファナディーヤは俺をあそこに連れ込んだのも含みがあったんだろうか。


 しかしまぁ、どいつもこいつもスタイルがよく顔が整っている。女好きにはたまらない楽園だなと感じる。

 ファナディーヤは前に出た。


「ふぅ……」


 緊張しているのか? それとも。

 その内にファナディーヤは声を張り上げた。


「疾風のルゲルとの通話宝珠を展開しますわ。この通話を見てどうするか……皆、行く先を考えてくださいませ」


 通話宝珠と呼ばれた金属のたまが光り出す。ファナディーヤが魔力を注いでいるようだ。

 魔力の質自体は俺がいた先進世界とそう変わらない。

 クロに聞いた通り、俺とこの世界の人間の遺伝子の基礎構造はほぼ一緒なのは間違いない。


 宝珠が光って少しの時間の後、光がモニターのようなものを映し出した。

 その先には中年のいかにもという顔をした男の姿が見える。


『魔力で反応する映像装置のようですね。魔力でチャンネルを作って通信が可能なようです。画質も悪そうですし、ちゃっちぃですね』

(それは仕方ないだろ)


 あの宝珠は貴重なもののようで恐らく使い切りというところか。

 この世界の文明レベルが見えてくるものがある。


「お〜〜〜、賢者妃……ファナディーヤじゃないか! 久しぶりだなぁ」

「ええ、ルゲル様。貴重な宝珠を使って何用でしょうか」

「おぅ、本来は魔王様に戦果を報告するために使うからなぁ」


 あれがルゲルという男か。見た感じ、魔王ほどの迫力は窺えない。小物にしか見えんがどうだろう。


「だが魔王様は死んだ」


 ルゲルという男に悲しむ様子は見られない。


「あの方が族程度に殺されるとは到底思えんが……事実であると聞いている」


 あの戦いは遠目から見ても決着がわかるものであったが、あの際近付いてきたのはファナディーヤだけだった。

 他の兵は俺の顔を知らないし、魔王がどのようにして倒されたのか遠目でしか知らない。

 ファナディーヤは恐らく俺を匿ってることを知らせていないのだろう。


「ゆえに俺がお前達を匿ってやることにした」

「それは他の十神将の皆様に同意を得られているのですか?」

「緊急の会議ではお前達の処遇をどうするかという話もあったぞ。今まで通り庇護するか、金がかかりすぎるから解散させるか」


 ルゲルはぐるりとまわりを見渡した。


「性奴隷として扱うか」


 まわりの雰囲気が一変したように思えた。

 魔王が所有している美女達の集団。喉から手を出しても欲しいというのがよくわかる。


「では他の十神将の方々が集まってから処遇を」

「その必要はねぇ!」


 ルゲルの強い言葉が部屋に響き渡る。


「ラッキーだぜ。俺様の軍が外街から一番近い場所にいるんだ。他の奴らがどやかく言う前に俺が全員味見してやるっ。魔王様の大事大事な宝をな!」

「下衆なことを……」

「いいねぇファナディーヤ。最初におまえを犯してやるよ! そのキレイな顔を俺のテクでヨガらせてやるぜ」


 随分と性欲に塗れたことを言う。

 この通信も加虐心を見せつけるためのものか。美女達の怯える顔を見たいって気持ちがあの男の顔から伝わってくる。反吐が出る。


「お、そこにいるのはマナリアじゃねぇか」


 ルゲルは見知った女の子の顔を見つけ、おもちゃを見つけたように顔を綻ばせた。

 名前の子は100人の中の一人でまだ10代前半くらいの子だった。恐怖に体を強く震わせる。


「貧乏な村の出身のおまえがそこでいい暮らしが出来るのは見つけてやった俺のおかげだぜ」


 ファナディーヤの話ではここにいる姫達は皆、魔王軍によって強制的に連れてこられた子達だ。

 贅沢な暮らしだったのかもしれないが強制連行された以上、望まぬ暮らしであったのは間違いない。


「おまえの姉も美人だったけど、100人の姫の中に入れなかったのが残念だったなぁ。たっぷり犯して楽しませてもらったぜぇ。死んだ姉を押し退けてそこに入った気持ちはどうだ? 楽しいかぁ!」


「いやああっ! ああっ!」

「マナリア!」

「マナリアちゃん」


 マナリアという女の子の悲痛な叫びが耳を貫く。トラウマを刺激する言葉だったのだろう。

 まわりの子が慰めるが、落ち着く様子は見られない。

 連れてくる際に家族を皆殺しにすると言っていたか……。あの男がその元凶であればトラウマ級のものだ。


「もうすぐだ! おまえら、俺様のために今の間に股洗っておけよぉ! ひゃはははは」


 ルゲルの通信はそこで途切れ、宝玉は光を失った。

 使いっきりのものなのかもう2度と光ることはなかった。

 場の空気は完全に沈んでしまっている。これから徹底的に蹂躙されることを予告されたのだから当然か。


 前に出て、ファナディーヤに声をかけた。


「魔王軍はいつこの場所に来るんだ?」

「位置情報が正しければ2時間ほどだとおもいますわ」


「戦力は?」

「一切なしです。元々光羅宮を守っていたのも魔王軍ですから。今やルゲル軍5000人と合流しておりますわ」


 戦力がまったくないのはきついな。

 さらに聞くと、外街というのは今いる光羅宮を取り囲む街の名前らしく、言えば城下町みたいなものらしい。

 あくまで外街は歓楽街らしく、防衛設備は一切ない。

 この光羅宮という美女ハーレムの宮殿は一種の檻なのかもしれない。魔王軍の威光によって守られていただけだったか。

 それを俺が消してしまったばかりにこの子達に危険が及んでいる。


「逃げ場もないんだな?」

「姫が外街から逃げられないように見通しをよくしていますからね。逃げ場などありませんわ」


 運良く外に出たところでそれだけの美貌は隠し切れるものじゃない。捕まった後の行き着く先は決まっている。


「実際のところルゲル軍が来たらどうなる? 全員奴隷にされるのか」

「四大姫は上位の十神将で分け合うことになるでしょう。元々貴族階級の子は保証されると思います。ただ平民階級の子は奴隷とされますわね」


 100人の女子達も上下関係があるらしい。ファナディーヤ達4人が最上の姫とするようだ。


「ですが全員、貞操の危機を覚悟した方が良いですわね。あのルゲルという男は上位の十神将にコンプレックスを抱いており、序列も低いゲスな男ですわ」


 この機会を逃すと上位の奴らに極上を奪われるってことか。

 そりゃ何が何でも犯そうとするだろうな。


「死んだ方がマシと思うなら死を願う子もいると思いますわ。けど死して尚穢されるでしょう」


 その美貌だ。死んでてもいいからって男はいるだろうな。

 とにかく胸糞悪い話といえる。そして状況は絶望的だ。


 ファナディーヤは真っ直ぐとした目で俺を見た。


「奴らに対抗できるのは魔王を倒すことができた俺のみ。5000人超えの兵相手に一人で戦えというのか?」

「……。無理を承知での願いですわ。魔王も一騎当千の実力でしたから……不可能ではないと思っております。言葉の通り、あなた様に全てを捧げますから!」


 ファナディーヤは懇願するように語る。

 後ろには縋った目で俺を見る美女達の姿があった。


 あんな映像をわざわざ全員に見せて、危機的状況であると認識、100人全員一帯意志を統一させて懇願する。

 極めて断りづらい状況を生んでいる。

 全てわかってやっているのか。なかなかの策士だ。


『マスター、ファナディーヤの心拍数が増大しています。内心かなり動揺しているかと』


 よく見ると手は震え、汗も滲み出ている。

 ファナディーヤも相当怖いのか。そうだよな、当然だよな。まだ17歳くらいの子が割り切れるはずもない。

 彼女は代表として前に出ているからそれを隠しているんだ。


「メシ」

「え」


 その声にファナディーヤはか細く反応した。


「メシ食わせてもらった借りを返してやる。それでいいな」

「あっ!」


「ファナディーヤ。俺は誰が敵かわからん。君にも来てもらうぞ」

「あ、ありがとうございます、ゼオス様!」


 ファナディーヤは初めて心から喜んでいる顔を見せた気がする。

 さて……自由に生きれると思ったのにさっそく縛られちまったな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る