006 美女しかいない楽園④

 考えさせてほしいとその場はいったんおさめた。そして翌朝の光羅宮。

 贅の限りを尽くした魔王のためだけの楽園。

 どうやら本当に魔王と100人の美少女しかいない宮殿らしい


 ここにいる俺以外、全員がとびっきりの美少女。

 邪な考えを持つ男達から守ってほしいと願う。


『その報酬に性行為を了承するとは……マスターもおモテになりますね』

(茶化すな。大群の男の慰み者にされるよりは一人の男の所有物になる方がマシって所だろう。あれも覚悟の上での提案だ)


『お受けするのですか? マスターはひっそりと暮らすためにこの世界に逃げて来たのでしょう』

(問答無用で逃げてもいいんだが……、わりと葛藤している。半分は贖罪。半分は……100人の美少女の存在に心引かれる」


『マスターは女好きですもんね。休みの日は風俗に行ってばかりでしたから』

(戦う以外で金の使い方をしらねーんだよ)


『マスターであれば恋人も作れたでしょうになぜ金で買える女ばかりと交わってたんですか?」

(おまえ本当に機械かよ。人工知能もここまでくるとうぜぇな)


 その真相はわりと単純だ。

 俺は信じた人に裏切られたくなかったんだ。ああやって仲間に追放されたように、愛した女に裏切られたくなかったんだよ。

 だから金で解決できる女だけを抱いた。


「ゼオス様」


 ファナディーヤがやってきた。


「ご機嫌はいかがでしょうか」

「悪くない。寝心地も良かったし、朝飯も美味かった。ここの環境はすごくいいな。魔王のせいで君達の人生が歪んでしまったのは同情するが」


「ここにいれば100人の姫達がお相手させて頂きます」

「お相手ったって……魔王が散々食い散らかしてんだろうに」


 ファナディーヤは首を傾げ、納得したように頷いた。


「でしたらゼオス様にとって朗報です」

「え?」

「100人の女子達は皆、この光羅宮に来て手を出されておりません。皆、初物ですよ」

「は? それだけの美貌で手を出されてないってありえねーだろ」


 何のためにハーレムを作ると思っている。やるためだろう。

 ファナディーヤなんてもう……女の魅力が詰まりきっている。

 口に出すわけにはいかないが、彼女に魅力を感じない男などいるはずがない。


 ファナディーヤは首を横に振った。


「魔王は精毒病を患っていましたわ。ゆえにでしょう」

「何の病気なんだ」

「……え? えーとその……」


 ファナディーヤは顔を赤くして答えを口にするのを避けた。

 え、なんでそこで語るのを止めるの。


『非先進世界でたまに見られる病の一種です。精液に毒が混ざって性行為した相手が命を落としてしまう危険な病気です』

(こっわっ! そんな病気あるかよ。さすがの暴君もそんな病気振りまくことしなかったというわけか)

 ファナディーヤが回答を避けるのはその性的な言葉を口にするのが恥ずかしいんだな。

 よし、是非とも美女から性的な言葉を言わせたい。


「で、なんだよ精毒病って。詳しく教えて欲しいもんだ」

「ゼオス様はいじわるですわ。言葉のニュアンスで把握されるでしょう?」


 もうと言ってファナディーヤは顔を隠してしまった。実に可愛らしく、たまらない良さがある。

 しかしファナディーヤのやつ。今まで冷静な表情を変えずに言葉を発していたけど初心な所があるんだな。

 案外アレか。知的美人に見えて意外に親しみやすい感じなのかもしれないな。


 しかし魔王が本当にそんな病気だったらここにいる女は性的な行為は受けていないというわけか。


「魔王がその病気だったのは間違いないのか」

「は、はい。正室のお妃様がその影響で亡くなられています」


「じゃあ君達は魔王に何もされてないのか?」

「お酒注いだり、話をしたり、芸をしたり……そんな所ですね。ですが魔王が亡くなられた以上覚悟も必要でしょう。遅かれ早かれですわ」


 本来であれば魔王に食い散らかされていたはずだが奇跡的に清純なままでいられたというわけか。

 だからこそ不特定多数の男の慰め者にはなりたくないってのはよく分かる。


『マスターどうされるのですか?』

(正直迷っている。この世界の人間じゃない俺があまり関わりすぎるのはな)


『すでに魔王を殺してしまったのにですか?』

(うるせぇよ)


『今度こそ自分勝手に生きると決めたと理解しております。自分の想いに正直になってはどうでしょう』

(おまえ本当に機械かよって思うよなほんと)

『最新のAIですから』


「ファナディーヤ様!」


 がらっと扉を開けられる。随分と慌てた様子の女の子がいた。

 この子も100人の中の姫の一人だろう。ゆるふわヘアーでとんでもなく可愛らしい。体つきもめちゃくちゃ好みだった。


「ヘリュー、何事です。ゼオス様の前で行けませんわ」

「も、申し訳ありません。ですが……、外街にこれが届けられたようです!」

「これは魔王軍の……。思ったより早かったですわね」


 ファナディーヤは何やら金属のたまのようなものを手に顔を歪めていた。

 あまり良い話ではなさそうだ。


「どうした」


 ファナディーヤは少し気落ちしたように笑う。


「思ったより早く魔王軍が動くそうです。十神将の一人、疾風のルゲルからの通話要求がありました。魔王が亡くなったことはすでに魔王軍には知れ渡っていますわ」

「十神将?」


「魔王バルドゥーン軍の幹部達を十神将と呼びます。全員が一級の魔道士であり、彼らの手によりたくさんの国が攻められて滅ぼされてしまいました」


「それで美しい女は捕まって魔王の姫にされてしまったってわけか」

「その通りですわ」


 魔王が突然死んでしまい、残された幹部達で争い始めるって感じかもしれないな。

 幹部達の狙いは魔王の宝。つまり光羅宮の姫達。下手な財宝よりも価値があるといえる。


 そして魔道士

 この世界での軍人。魔王レベルの人間がゴロゴロいるなら……少し苦戦するかもしれん。

 どんな攻撃を使ってくるのかまったく分からない。

 魔王との戦いも速攻終わらせてしまったからな……。魔王の魔法を見ずに終わってしまったのを若干悔やむ。


「ヘリュー、姫達を呼び集めて下さいませ。今の状況を認識する必要がありますわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る