005 美女しかいない楽園③

 その100人の中には料理人のスレーナや配膳に関わった少女達も含まれていた。

 あの3人もあれだけの美少女だというのにファナディーナを含む一番前に佇む4人はそのレベルを遥かに超えている。


「全員を紹介する時間はありませんので四大姫のみ紹介しますわ。わたくしが【賢者姫】ファナディーヤでございます」


 黒髪の美女。それがファナディーヤ。


「【舞姫】リーウェル」


 ぺこりと礼をするのは桃色の髪の少女。真っ直ぐな目をしており、好奇心に満ちた表情で俺を見ている。


「【聖女】セラヴィー」


 目を逸らした白色の髪の美少女。白の布衣を着ており、聖職者に見える。


「【勇者姫】ネスティ」


 燃えるように真っ赤な髪をした美女。一番気が強そうだが目がうつろだ。


 四大姫と呼ばれるだけあってどれも尋常じゃないレベルの美しさだ。

 それぞれが世界で一番美しいと言っても納得してしまいそうだった。


「ゼオス様、我々は皆、貴方様に仕える覚悟がございます」

「は? 仕えるって意味がわからん!」


「この光羅宮は魔王が己の欲望を叶えるために作らせた園でございます。魔王以外の男子禁制。魔王が大陸中より奪い取ってきた選りすぐりの美女をここに集めてきたのです」

「とんでもねー悪党だな」


 そりゃ美女ばかりが集まるわけだ。

 美少女ハーレムを作りたかったんだろうか。とんでもねー手間暇かかったんだろうな。

 この場所を作って、自分以外を美女で固めて……ひょっと出てきた俺に殺される。

 魔王可哀想と言いたくなるがここの女達からすれば魔王こそが恨む対象だったのは間違いない。


「おい」


 俺は声を張り上げた。


「もう知ってると思うが、俺が魔王をぶっ倒した。君たちはもう自由だ。解放されたんだ。自由に去っていいぞ」


 もう魔王に怯えることもない。

 料理長のスレーナがびびっていたのも魔王の機嫌を悪くしたら命の危機に瀕していたからだろう。

 もしかしたら他の料理人が葬られることもあったのかもしれない。

 俺はそんなことしないからな。さっさと故郷に帰ればいい。


 ざわざわと美女達が騒ぐ。しかし一人として去るものはいなかった。皆変わらず、俺に向けて礼の体勢を崩さない。


「どういうことだ?」


 ファナディーヤに問う。


「魔王はわたくし達を手に入れるためにあらゆる手を使いました。姫の親族を皆殺しにして街の重鎮も等しく殺しました。つまりわたくしたちは帰る場所がないのです。この光羅宮しか居場所はありません」

「な……、マジか」

「無理に解放されたとして、わたくし達の行く場所は一つ。体を売って、男達の慰み者となることでしょう」


 それはまさしく奴隷宣言だった。

 100人全員がとんでもなく美しい。殺されはしなくても殺されるほど辛いことが待っているのは明白だ。帰る場所がないのだから。


「じゃあ……ここにいれば」

「魔王の後ろ盾のおかげでわたくし達はここにいることができました。しかし魔王が死んだ今、約20万の魔王軍の残党が光羅宮を狙っているのです。魔王の宝であるわたくし達を狙っているのです」


 つまり魔王の所有の美女達が欲しかったけど、魔王が怖くて何もできなかった。

 魔王が死んだ今、美女達を正々堂々奪うことができる。その先は間違いなく慰み者である。

 これだけの美貌。男共が逃すはずもない。


 ファナディーヤの言いたいことをここで理解する。

 なぜ俺をあの場で放置せず介抱したのかようやく理解できた。


「君は魔王を討った俺にここを守れと言いたいんだな」

「ご理解が早く恐れいります」


 ふざけるなと言いたい所だが……この子達に何の責任もない。

 美しいからという理由で魔王に連れていかれ、家族を殺された。それでも生活水準が維持できるならと思った矢先に魔王が殺されて、今度は身の危険が発生する。

 魔王が死んだのは俺のせいだ。俺が魔王を倒してしまったばかりにこの子達を危険に晒してしまった。


「もちろん無償で守れとはいいません。ゼオス様からすれば身勝手なお願いであることを承知です。ですから……わたくし達はあなた様に捧げます」

「……何を」

「身も心も。ゼオス様が望むのであれば……我々は全てを捧げます」

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