第12話

「……」


 心頭滅却すれば火もまた涼し。


 滝を浴び、俺の心は限りなく無へと近付いた。


 今なら……出来るよね?


「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 俺は印を結び叫ぶ。


「領域展ーー」

『ストップ!!それアウトなやつだから!!』


 プカプカと水の上に浮かぶ予言書からダメ出しがはいった。


「てかお前、紙のくせに水大丈夫なんだな」

『神みたいなものだし』


 必殺技を覚えようと森の奥へと足を運んだ俺。


 だが結局、必殺技なんてもの早々思いつくはずもなく、なんか寒いし帰ろうかなぁ〜とか考えていた。


「予言書的には必殺技を覚えることが確定していても、それがいつなのかが分からん。聞いても答えてくれないし、左はポンコツだし」

『ポンコツで悪かったですねー』


 既にノートの半分を雑談で使っている予言書。


 一体これは何なのか。


「なぁ、お前の目的ってなんなんだ?」


 尋ねても核心に迫る答えは返ってこない。


 果たして本当にこの予言書は俺の味方なのか。


 それとも俺を操ろうとしている何者かの仕業なのか。


 俺の力ではそれを解くことは未だ難しい。


「とりあえず今は、自分のことだよな」


 俺は水から上がり、体をタオルで拭く。


「必殺技、必殺技ね」


 そういえば結構昔、必殺技を考えたことあったな。


 確かあの時は



 ◇◆◇◆



「必殺技を覚えたい」

「必殺技ってなんですか?」

「必ず殺す技と書いて必殺技、だけどリンの言うところはおそらく、派手でカッコいいだけの技のことよ」

「なるほど、勉強になりますね」


 そんなわけで必殺技を考えることにした。


「やっぱり魔法と剣の融合技じゃないか?そっちの方がカッコいい」

「いいんじゃない?それなら私にもレイにも出来ないことだし」

「前提として剣に魔力伝導率の高い素材を使うべきね。壊れてもアリスがいたらどうとでもなるし」


 珍しく皆も乗り気であり、俺の必殺技は着々と進んでいった。


「全ての属性を乗せた剣。これで攻撃したら」

「ただの剣じゃ防げず」

「どれだけ魔法の練度が高かろうと、剣を止めることは出来ない」

「な、なんだか凄そうなものが出来ましたね」


 遂に完成した理論。


 もしこれを手にすることが出来たなら、間違いなく俺は更に上の段階にいけるだろう。


 なんて簡単な話はない。


「ちなみにこれらの素材っていくらかかるんだ?」

「そうね。アリス」

「あ、はい。最近ミスリルの値段が上がりましたし、これだけの技術となると、最低でも金貨100枚(前世価格で1億相当)は掛かると思います」


 勿論田舎出身の俺にそんな金はない。


 他のメンバーも勿


「ギリ……か」

「あれを売ったらいけるわね」

「お小遣いで半分出せますよ?」


 ねぇ貴方達何者?


 なんでど田舎に金貨100枚スッと出せる人達いるの?


 どちらにせよ


「却下だ。こんな高い金払ってまですることじゃない」

「それじゃあとりあえず、今の段階で試してみたら?」

「それもそうだな」


 俺は剣を持ち、魔力を込めた。


 とりあえず得意な火の魔力を流し込んでみると


「……全然ダメだな」

「やっぱり普通の金属じゃ無理そうね。伝導率も低い上に武器の消耗も激しそう」

「しかもそれ、リンは剣振れるの?」

「よ、余裕だぜこれくらい」


 俺は頭の中をグルグルさせながら剣を振るう。


 ここでワンポイントアドバイスだ。


 実のところ俺は魔法を中級まで使えるようになっている。


 いきなり中級と言われてもなんのこっちゃって感じだが、初級魔法が小学生の算数だとすれば、中級魔法は高校の数学くらいの難易度だ。


 ちなみに上級は大学院行くレベル、その上はマジで化け物の領域。


 そして剣を振りながら魔法を使うということは、簡単に言えば暗算で高校数学を解くようなものだ。


 それって人間に可能?って話だが、当然無理。


「あはははは、あれ見て、プルプル震えながら素振りしてる」

「一つの属性であれなら、他の魔法を使うのはまず不可能ね。正に理論上最強の技、机上の空論で終わりそうね」


 結局、俺の必殺技は魔法と剣術を高レベルまで取得した人間が、多額の資金を持ってして初めて実行可能という結論に終わったのだった。



 ◇◆◇◆



「あれが出来れば、きっとAクラスの連中とも渡り合えるんだろうけどな」


 夜も遅くなり、さすがに帰らないと色々まずいと思った俺は学園へと戻る。


 一朝一夕で何かを掴むとは思っていないが、何の進展もなしというのも結構心に響く。


「何かないだろうか」


 そんな焦燥感を覚える帰路にて


「ん?」


 俺はとあるキッカケと出会った。


「あれは……ロストか」


 学園の近くで見かけた人物は、理事長ガチ恋勢のイケメンであった。


「あいつ、こんなところで何を?」


 さっきまで滝行してた身で言うのもあれだが、こんな場所で一人でコソコソと何をしているのだろうか。


「あ、剣出した」


 学園では魔法の使用は禁止、その上理由なく抜刀することも禁止だ。


 一応学園内には魔法も剣も使用可能な場所があるが、わざわざ外に出てまで一体何を……


「ってまさか!!」


 ロストは剣を構える。


 すると徐々にその刀身が光り輝き、眩い光を放った。


 多分……というかほぼ間違いない。


 あれは


「最強の必殺技じゃねーか」


 そう、ロストは俺らが考えた理論上最強の技に到達していた。


 いや、正確にはあいつも同じく未完成なのだろう。


「……クッ」


 剣の光が一瞬で霧散する。


 ただでさえ剣に魔力を注ぎ込むのは至難な技である上、しかもそれを各属性行うという無謀さ。


 それを一瞬とはいえ可能にしたロストは、間違いなく天才の領域に足を踏み入れていた。


「ありゃ本物だ。あいつら程じゃないにしろ、Sクラスにいてもおかしくない人間だろ」


 多少身内贔屓があるにしろ、あの怪物達を目の当たりにし続けた俺が驚くほどの才能。


 だけど何故だが羨ましいという気持ちは湧かなかった。


 何故なら


「なぁ」

「な!!お前、いつの間に……というか、何故ここに……まさか!!」

「理事長は関係ねぇよ。残念だったな」

「……そうか」


 ロストは汗を気にしない様子で剣を仕舞う。


 普段から慣れているって感じだ。


「それで、何のようだ」

「用ってわけじゃないが、お前はなんでそんな辛そうに鍛えてるんだ?」

「……」


 ロストの目には夢だとか希望だとか、そんな前向きな感情が読み取れなかった。


 まるで自分を罰するような姿に、俺はつい声を掛けてしまったのだ。


「お前に話すことではない」

「そうか。じゃあ勝手に学園の外にいること理事長に報告するから」

「は、はぁ!?ふ、ふざけるな!!あの人にそんな醜態を晒せと言うのか!!」

「そゆことー」


 俺はケラケラと嘲笑う。


 もちろん密告すれば俺も怒られるが、知ったことではない。


 俺は他人の為に自分を犠牲に出来る男だからな!!(ただのクズ)


 ロストはしばらく黙り、俺に話す屈辱とメインへの愛を天秤にかけ


「大した……ことじゃない」


 俺を選んだ。


「俺はあの人に助けてもらった。俺にとって彼女は母親であり、親友であり……愛しい人だった」

「漫画かよ……」

「だがある日のこと、突然彼女は姿を消した」

「はぇ〜(思ったより深刻そうで感情を捨てた男)」

「それからあの事件が起きた。お前もこの学園に入ったくらいなら知ってるだろう、あれを」

「あー、あれねあれ、勿論知ってるよ。あれはヤバかった。うん、マジでヤバいね」

「そうだ。そしてその時悟った。あの人が俺を置いて行ったのは、俺が弱いからだって」


 ロストは悔しそうに拳を固く握りしめる。


 俺は鼻毛を強く握りしめ、ブチっと引き抜く。


「俺は強くならなければいけない。惨めに待ち続ける俺を、俺は一生許せない」

「なるほど、完全に理解した」


 結局こいつは


「思春期拗らせ男子ってことだな」

「…………は?」

「聞いといてなんだけど面倒そうだし、俺やっぱ帰るわ。ごめんな、邪魔しちゃって。それじゃ」


 こうして俺はロストを無視して学園へと戻った。


 え?薄情だって?


 いやいや、だってあんな重そうな話されちゃ俺も困るって。


 しかもあいつ冗談通じなさそうだし、絶対ソリが合わん。


 だからあれはしょうがない、しょうがないのだ。


『過去の亡霊、滅びの少女達と恋に落ち、そして世界を救うだろう』


 心臓の音が耳をつんざく。


 開かれたノートに書かれた内容は、あまりにも無情であった。


「嘘だって……言ってくれよ……」


 俺の中に暗い感情が溢れかえった。

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