第10話

「俺らなんで呼ばれたんですか?」


 模擬戦が終わり、言われた通りメインの元に向かった俺とハルト。


「簡単なことだ。あれの処罰について貴様らの意見を聞こうと思ってな」


 メインは資料を取り出す。


「成績は下の下だが、身体能力を向上させる特殊な力を持っていることで優れた戦闘能力を持っていた」


 確かにあの強さは本物だった。


 だが


「それ以上に素行の悪さが目立つ。隠れてコソコソとしていたようだが、それで私の目を欺けるわけがない」


 一瞬だけ、メインの持っている資料が見えた。


 そこには学園の生徒のこれまでの素行が書かれたものでびっしりと埋まっていた。


 怖い。


「元々私はああいうイキった奴が嫌いでな。学園に入る前に落としてやろうと考えていたんだ」

「え?あなたが一番イキってま痛た!!」

「なんか言ったか?」

「理事長ほど謙虚で奥ゆかしい方を見たことがありません」

「よく分かってるじゃないか」


 何がよく分かってるだ。


 あんたは自分の客観視すらできないくせによ。


 そして二発目のゲンコツを入れられる。


「だがハルト。お前は以前から奴に色々と難癖をつけられていたようだな」

「……はい」


 プルプルと震えるハルト。


 こうして見ると、肉食獣と小動物にしか見えないな。


「私はイキってる奴も好きじゃないが、弱い奴も同じくらい嫌いだ」

「……」


 ハルトは少し悔しそうに下を向く。


「リンがあいつと戦うと言った瞬間、私の中でハルトとモウンは退学にさせることが決定した」

「な!!何もそこまでしなくてもーー」

「話を最後まで聞け」


 理事長は俺の言葉を遮る。


「だが今回の行動で少し見直した。退学にするには惜しいと私は判断した」

「本当ですか!!」


 ハルトの表情が一気に明るくなる。


「すげぇ、こんな自己中なだけの人がめちゃくちゃいい人に見えてしまう」

「だが、私はそれ以上に奴に輝きを感じた」

「奴って……まさかモウン?」


 あいつのどこに輝きなんてあったんだ?


「最後までお前を殺そうとする殺意、絡め手を使う知能、私には奴をこのまま何のチャンスも与えず退学させるつもりはない。だが、他の連中の成長を妨げるのもまた事実。そこでだ」


 理事長は一枚の紙を見せる。


 そこには名前を書く欄が二つ。


 片方にはモウンの名前が書かれていた。


「負けた方がこの学園を去るという内容だ」

「……」

「デスゲームかよ」

「もちろん強制はしない。だが、この機会を逃せばあいつとの因縁は永遠に続くだろう」


 メインはニヤリと笑う。


「どうする。受けるか?」


 俺だったら


『誰が受けるかバーカ』


 と言うところだが、果たしてハルトの返事は


「受けます!!」


 迷いなく名前を書き込む。


 ま、そうだよな。


「なんだ、友人が退学するかもしれないのに悠長だな」

「むしろここで止める方が友達失格でしょう。それに、ハルトが勝てば俺はめちゃくちゃ気持ちいいので」

「さすがクズだ。ちなみに裏工作したら貴様も退学だからな」

「な、なんのことでしょう?」


 ヤッベ、バレてた。


「大丈夫だよリンさん」


 ハルトは顔を上げる。


「僕、勝つから」

「……おう。頑張れ」


 俺が最初に話しかけた時はナヨナヨした野郎だと思っていたが、短期間で随分とカッコよくなりやがって。


 へへっ、俺も負けてられねぇな。


「よっしゃ、そうと決まれば早速特訓だ!!昼休憩の内に走り込み行くぞ!!」

「うん!!」


 早速とばかりに俺達は部屋を出ようとしたところ


「おい、誰が帰っていいと言った」

「「え?」」


 暴虐無人メインによって引き止められる。


「まだ話あるんです?さすがにダル……昼食食べる時間すら無くなりますよ?」

「……しょうがない、じゃあ帰ってもいいぞ」


 メインはハルトの首根っこを掴む。


「貴様はな」


 そして部屋から追い出される。


「……お、俺も帰らせてもらえるんですよね?」

「それはお前次第だ。私の機嫌を損ねたら、一生この部屋で壁を見続ける人生を送るだろうな」


 なにそれ怖い!!


 とりあえずゴマ擦りモードにシフトするか。


「か、肩でもお揉みしやしょうか?」

「ん?いい心掛けだ。特別に許可しよう」

「は、はい〜」


 あれ?


 私に触れる資格が貴様にあるか!!って言われると思ったんだけどな。


 ま、まぁ言っちゃったもんは仕方ないし肩揉むか。


「す、凄い肩凝りですね」

「私は何でもそつなくこなす完璧美人に見えるだろうが、さすがに疲れは溜まるもんでな」


 いや実際そういった評価なのは間違いないが、それ自分で言う?


 慎ましさとか覚えた方がいいんとちゃいますか?


「……ん」

「あ、あの……」

「なん……だ」

「その……あまりエッチな声を出さないでもらえます?」

「お前が勝手にそう聞こえただけだろう。それよりも続けろ」

「りょ、了解でーす」


 俺はメインの肩揉みを続ける。


 その間、何故か理事長は官能的な声を出し続ける。


 普段から俺があの面子に囲まれていなければ危なかったかもしれない。


「お!!ここですね!!」

「んあっ」

「いい感じにほぐれてきましたよ」

「もっとだ、もっと激しくしてくれ」

「そんなもの欲しそうな声を出されたら俺、やっちゃいますよ?」

「ああ。お前の全部を……私にぶつけてくれ」


 袖を巻き、布の擦れる音が鳴る。


 そして俺は大きく息を吸い


「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁ……ぁ……こ、こんにちは」

「焦って損した……」


 いつの間にか部屋にはシエルとアリスがいた。


 何故かシエルは息を切らしていて、アリスは不思議そうな顔をしている。


「シエルちゃん、急に走り出してどうしたんです?」

「いや……ただの勘違いだから。それ以上何も聞かないでくれると嬉しいかも」

「二人ともどうしてここに?」

「リンこそ何してんのよ」

「肩揉み」


 俺は肘でメインの肩を押す。


 昔からシエルにしたり、アリスにしてもらったりで大体気持ちいい場所は分かっている。


 将来金に困ったらマッサージ師となる予定だ。


「さて、揃ったな」


 先ほどの喘ぎ声が嘘かのような態度を取るメイン。


 さっきの絶対わざとだな。


「まぁ若干一名呼んでいない者もいるが、誤差だ」

「俺ですか?」

「違う喋るな」


 当たり強。


「貴様の特殊技能はしっかりと起動していた。さすがだ」

「恐れ入ります」


 アリスはまるで令嬢のように丁寧なお辞儀を披露する。


 やっぱり昔からそうだが、アリスって妙に育ちがいいな。


「今後もあれを使ったいくつかの実験や試験に取り組みたいが、頼めるか?」

「もちろんです。それで皆さんの役に立てるのなら」


 やっぱりあれはアリスの力か。


 昔から俺の怪我を治してくれていたが、あんなことも出来たんだな。


 遠くから……触れずに……ん?


「あれ?アリス昔から治すには直接触れないとダメだって言ーー」

「リン君」

「え、あ、はい」


 アリスの顔がちょっと怖い。


「次、怪我しても治しませんよ?」

「すみませんでした」


 なんで〜。


 俺何か変なこと言ったかな?


 てかみんな圧かけたら俺が屈すると思ってない?


 いや屈するんだけど……せめてもう少し優しく扱って欲しい。


 これじゃペットの躾じゃないか。


「だが私も生徒にタダで働かせるというのは良心が痛む」

「この人に良心あったんだ……」

「そこでだ」

「ちょ何!!」


 腕を引っ張られる。


 警戒してた頭じゃなかった。


「景品を用意しておいた」

「優しく扱うどころか物扱いされちゃったよ」

「こいつのAクラスへの授業の参加を私が許可する」

「何故に!!」

「お前にも良い提案をしているつもりだ。強くなりたいのであろう?」

「ま、まぁ……」

「Aクラスの授業であればより多くの内容が学べる。なに、恥をかきたくないのなら座学のみの参加でもいい」


 正直めっちゃ嬉しい。


 より高いレベルの授業を受けることが出来るのなら、俺は更に強くなれるだろう。


 夢への手段は効率的にが俺のモットーだ。


 でないと俺は一生追いつけない。


 だが、結局それは三人の力の恩恵を受けているだけなのではないか。


 俺はやっぱり自分の力で上に


「と、考えているのだろう」

「理事長?」

「悪いが私はお前をという鎖を呑気に放つ程、阿呆ではない」


 メインは俺の目を見つめる。


「本来クラス替えは年に一度しか行われないが、来月の模擬戦で自身がAクラスの実力があると証明しろ」


 この人マジで……


「自分の力で勝ち取ったものなら、文句はないだろ?」

「あんた本当に好き放題ですね」

「ここでは私がルールだ」


 踏ん反り返る。


「全員の利害が一致する最善策だ。しくじったら殺すからな」

「まぁ……頑張らせてもらいますよ」


 そう口で言いながらも、俺は内心かなりテンション上がっていた。


 Aクラスに挑める。


 自分の力を試せる。


 それだけで俺の心が躍った。


「楽しみだな」


『未曾有の危機が訪れる。其方の選択が、大切な存在を深く傷つけるだろう』

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