第9話
「ハルト!!」
投げ飛ばされた鉄の刃。
「死ねや!!」
それを投げたモウン。
あいつ、不意打ちとか卑怯だろ!!(最初に不意打ちした男)
しかも手元が狂ったのか、俺でなくハルトに向かって飛んできている。
ハルトはまだ気付いていない。
このままではハルトが死ぬ。
「間に合え!!」
伸ばした手が、ハルトを押し出す。
よかった、これで無事に
「グワァアアアア!!!!」
「リンさん!!」
そして後から飛んできた土弾が俺の足を抉る。
あいつ、魔法使えたのかよ!!
「へ……へへ、もう魔力はギリギリだったが、一発間に合ったな……」
「ひ、卑怯だよ!!どう考えてもリンさんの勝ちだった!!」
「そりゃ違うなハルト。勝負はどちらかが降参するか、死ぬまでだ」
足を引きずりながら、モウンは投げた剣を拾う。
「退け。そいつを殺して俺の勝ちだ」
「ダ、ダメ!!」
ハルトが俺の前に立つ。
「そこまでしなくてもいいでしょ!!理事長先生、もう終わりでいいですよね!!」
ハルトの呼びかけにメインは
「……」
何も答えない。
「ッ!!」
「最後の警告だ。退け」
ハルトを突き飛ばしたモウンは、したり顔でこちらの顔を覗き込む。
「相当いったな。こりゃしばらく歩けねぇぜ」
「お陰様でな」
表立って冷静な顔をしてるが、実際めっちゃ痛い泣きそう。
少し体を動かすと中に入った石が体内に刺さり、激痛が走る。
「参りました。許して下さいモウン様って言えば許してやってもいいぜ」
「ごめんだな。お前に頭を下げるくらいなら理事長の奴隷になる方がまだマシだ」
痛みにより冷や汗が大量に流れる。
予言書の避けろはハルトにじゃなく、俺への言葉だったのか。
こりゃ一本取られたな。
「さて、じゃあトドメをさすか」
「ま、待て!!」
声にする方にはハルトの姿。
「ぼ、僕が相手だ!!」
震える手で剣を握るハルト。
「……まさかお前、俺が弱ってるからって勝てると思ってるのか?」
「勝つとか……負けるとか……そんなのどうでもいいよ」
ハルトはモウンを睨みつける。
「友達を傷つける奴を、僕が許せないだけだ!!」
不恰好な姿で走り出すハルト。
「そりゃ大層なことだな」
モウンが片手で剣を振ると、ハルトは力で押し負け倒れる。
「そんなに俺がいじめられて怒っちまったか。大丈夫だ、こいつさえいなくなれば俺らの友情は永遠だからな」
モウンの言葉に、ハルトは悔しそうな顔を浮かべる。
「お前なんか……お前なんか友達じゃない!!お前は僕の敵だ、モウン!!」
「……おいハルト。いくら俺が温厚だからって、少し調子乗ってるんじゃないか?」
二人は向き合う。
「そんなにあの頃みたいに戻りたいのか?」
「……そんな脅し、僕はもう怖くもないね」
そう言いながらも足は震えている。
「そんなもの……友達を失うよりも、全然怖くない!!」
その姿はまさしく、小さな英雄に相応しいと思った。
「ヒーロー気取りか?お前みたいなチビで、弱くて、情けない奴がどんなに吠えたところで俺に勝てるはずなーー」
「ドリャッセイ!!」
俺はモウンの頭を鞘で思いっきり殴る。
脳が激しく揺れたモウンはそのまま気絶する。
「……え?」
「よくやったハルト。めちゃくちゃ隙だらけだったぜ」
「え?……あ、うん。どういたしまして」
何故か上の空なハルト。
どうしたのだろう?
せっかく勝ったのに喜んでいない。
「これでこいつと俺らの格付けが済んだ。今後こいつは敗北者として惨めに生きていくことになるだろうな」
「そうかな?むしろ惨めなのはリンさんじゃない?」
「何を言ってる。勝者こそ正義だ」
ドヤ顔をする俺の耳に届いた言葉は
「勝者、モウン」
「え?」
メインは勝利者の名前を挙げた。
「……俺の勝ちじゃないっすか?生殺与奪は俺が握ってますよ」
「普通に反則だ。仲間の介入など不正に決まってるだろ」
「は、はぁ!!そんなルール言ってねぇじゃん!!」
「普通考えれば分かるだろ」
「普通殺し合いなんてさせねぇよ!!」
こいつ頭イカれてるだろマジで!!
「そもそも命の危機が迫れば私が未然に防いでいるに決まってるだろ。勝手に庇ってダメージを負ったのはお前の責任だ」
「ふざけんな!!説明不足だろボケが!!」
「あ?」
「ごめんなしゃい」
あの人の圧怖いんだって。
あれ人間じゃないだろ。
化け物の類いか何かだろ。
「なんだその顔は。何か言いたいことがあるなら言え」
「いえ……なんもないです……」
「そうか。まぁ私のような素晴らしい教師に何か言うことなんぞ感謝以外はないのだからな」
高笑いをするメイン。
一発殴りたいけど、多分そんなことしたら殺される。
「さて、次が控えてるんだ。お前らさっさと出て行け」
「あんた鬼か!!」
俺の足見ろよ!!
こんなに足がボロボロに……
「は?」
「どうした。まさか足に石でも刺さって痛いってか?」
「どうして……傷が……」
「ヒントはお前のよく知る人物だ。寒気がするよ。あんな怪物私は見たことがないのでな」
自信に満ち溢れた姿しか見せてこなかったメインが初めて恐怖の言葉を漏らす。
「よく分からないが、まぁ傷が塞がったならいいか」
俺は戸惑うハルトと一緒に傍に行こうとすると
「まだだ!!」
あいつも傷が治ったのか、声を荒げてこちらに寄ってくる。
「ふざけんな!!お前のせいで恥をかいた」
「生き恥晒してる奴がこれ以上恥を上塗りしたところで誤差だろ」
「ウギィ!!」
モウンは剣を取る。
「ぶっ殺す!!」
「おい、試合は終わりだ」
「は!?ふざけるな!!死ぬか降参するまでだろ!!俺はまだどっちもしてねぇぞ!!」
あ、こいつ自分が負けたと思ってるのか。
「傷が治っている時点で終わりだ。異論は認めん」
「おいおい諦めろよ敗北者。お前は結局俺に負け、俺に対して何もやり直せない雑魚なんだよ」
「……殺す」
あーあ
全く
俺は予言書を見ながら笑う。
「試合に負けて、勝負に勝ったわけか」
「テメェをぶっ殺す!!」
モウンは俺の足を攻撃した石弾の魔法を構える。
だがこの学園は教師の許可なしでの魔法は即
「おい貴様」
いつの間にかモウンの腕を掴んでいたメイン。
「今、私の言葉を無視して魔法を使用したな」
「だ、だからどうしたってんだ!!俺はあいつをぶっ殺すんだ!!」
メインを腕を振り解こうとするモウンだが
「え?は?」
「どうした。自慢の馬鹿力を見してみろ」
俺を苦しめたモウンの腕力を、メインはまるで赤子でも扱うように抑え込む。
「クソ!!離せ!!」
「私に命令するとはいい度胸だ。しょうがない」
メインは奴の頭を鷲掴みにする。
「離してやる」
そのまま地面に頭をめり込ませる。
皆が思った。
あ、あいつ死んだ……と。
「大目に見て謹慎処分だ。私の気分次第でまた通わせてやる」
地面に埋まったモウンからの返事は静寂だった。
「さて次の奴並べ。モタモタしてるとこいつと同じ目に合わせるぞー」
「「はい!!」」
凄いスピードで次の試合が始まる。
「おいそこのちっこいのとバカ」
「は、はい!!」
「俺はバカじゃないから違うな」
「授業が終わり次第私の場所に来い。もし来なかった場合殺す」
「いっけね、俺バカだって忘れてた。バカだから」
そして俺とハルトは観客側に回る。
「その……改めてありがとうって言いたいけど、まさかあそこまでなるなんてね」
「いい気味だ。お前もスカッとしただろ?」
「……いや、実を言うとあんまり」
「そうなのか?」
長年苦しめてきた相手があんな無様な姿見せたら俺は喜ぶけどな。
「僕は何もしてない。本当だったら僕が戦わなくちゃいけない相手だった」
「まぁ確かに」
「僕は勝負の舞台に立つ前に負けてたんだ。だからなんだろう……結局僕は何も成長出来ていない」
「そうか?俺にはそうは思えないけどな」
最後のハルトはモウンに立ち向かっていた。
あの瞬間ハルトは、確かにあいつと同じ舞台に立ったと俺は思う。
「スタートラインには立てたんだ。まだ走ってもいないくせにへこたれんな」
俺はハルトの肩を叩く。
「お前はこれから成長するんだ。邪魔者は消えた。胸張って前に進め」
「……うん、ありがとう。僕頑張る」
「おう」
「ところでリンさんどこ行くの?」
俺は一冊のノートをパタパタと振りながら
「ちょっと野暮用」
◇◆◇◆
「もしかしてだがお前、少し先の未来しか見えないんじゃないか?」
『……はい』
予言書の左のページに書き込まれる。
「おそらく右のページはかなり先の未来が書かれる。そして左のテンション高めは少し先の未来しか見えない」
『おっしゃる通りで』
答え合わせを終える。
「使えないな左側」
『私だって頑張ってるんですけど!!それに未来って思ってるよりも変化するし、あぁ文字制限ウザい!!』
なんか怒っている。
まぁ使えないとは言ったが、さっきの場面でハルトと俺のピンチを伝える点は優秀だ。
逆に右側は一切俺に味方をする気がない。
ただ淡々と事実を書き記している感じだ。
その代わり
「当たってる」
俺がモウンに負ける未来は現実となった。
だが少し変わったことがある。
「名前が変わった?」
確かこの前見た時は英雄殺しだった筈だが、今は
『復讐者に敗北する』
内容が変わっていた。
「復讐者ね……」
ま、あれで諦めるような奴じゃないのは知っていたがな。
でもこれで分かったことがある。
「未来は絶対じゃない」
よく分からないが、内容が変わったという事実は未来を変えることも可能だということだ。
だが、かなり難しいこともお陰で分かった。
「……」
俺は最後のページを捲る。
『この世で唯一の漆黒の髪を持ちし魔女は、怒りと狂乱により、世界を滅ぼすであろう』
『金色の髪を持つ聖女は、美しく、優しく、そして純粋であるが故に世界に絶望し、深く暗い光で世界を包むであろう』
『真白の髪を持つ戦乙女、己の殻に閉じこもり、やがて世界は武器と一つになるであろう』
俺はこの瞬間、もう一つの新たな誓いを立てた。
「未来を変えてやる」
そして世界は終わりへの日々への一歩を進めたのだった。
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