第8話

 ここで俺からのワンポイントアドバイスだ。


 剣を持つ時は摩擦の多い手袋をつけた方がいい。


 皮が抉れたり、振ってる間にすっぽ抜けることがあるからだ。


 ちなみに俺はつけない。


 言ってることが矛盾してる?


 だってシエルが


『そんなことしたら扱いが難しくなる』


 という天才特有の感覚を言っていたので、なんかカッコよくて俺も


『悪いな。そんなもん付けると剣が馴染まねぇんだ』


 という風な天才アピールをするためだ。


「言ってろ」


 ちなみに同じ煽りをした敵は少しキレてる。


 相手もなんか素手で剣持ってるし。


「そもそも俺の得意技は魔法だ。お前なんか剣を使う暇もなくぶっ倒してやるよ」

「え?お前その図体で得意なの魔法なの?」


 脳筋の魔法使いとか噛み合わね〜。


 あいつ趣味が読書とかだったりするのか?


「魔法って難しいはずなんだけどな」


 ま、いいか。


 俺とあいつとの距離はおよそ10メートル。


 俺があいつに接近する間に互いに撃てる魔法はせいぜい一発。


 魔法が得意だかなんだか知らんが、撃たせなきゃ俺の勝ちだ。


「ルールはシンプルだ。どちらかが降参するか、もしくは死ぬまでやれ」


 あの人本当に教師か?


 デスゲームの主催者じゃないよな?


「戦場はいつだって最初で最後だ。常に本気で、常に死ぬ気で、そんな心の擦り切れる毎日を生き延びた奴しか私は教育しない」


 メインは笑う。


「分かったら殺し合え。試合開始だ」


 世界一最悪なゴングが鳴った。


「先手必勝」


 俺は一気に走り出す。


 モウンはまだ戦いに心がシフトされていない。


 ここで目眩しの魔法を撃って、あとは隙だらけの体に剣を打ち込めば勝てるだろ。


 理事長はああ言ったが、さすがに真っ二つにしたら犯罪だし刃がない部分で殴るけど


「ね」

「クソ!!」


 俺は簡易的な火の魔法を放ち、モウンは咄嗟に腕でガードする。


 特に大したダメージにはならない。


 魔法は距離と時間で強さが比例する。


 相手との距離が有れば一方的に攻撃出来る時間が増えるし、時間をかければより強力な技が撃てる。


 逆に言えば接近さえしてしまえば殆ど無力。


 つまり


「俺の勝ちだ!!」


 なんだ、案外簡単に勝てたな。


 予言書も実はポンコツだったか?


 そんなことを考えながら放つ俺の剣は


「バカが」


 モウンの剣がぶつかる。


 な!!


「おっも!!」


 毎日のように鍛えた俺よりも強力な一撃。


 なんだこいつのパワー、明らかに異常だ。


「俺が得意なのは魔法じゃねー、接近戦だ」

「な!!」


 騙された!!


 こんなバカそうな奴に俺騙されたのか!!


「俺は生まれつき魔力を込めると全身の力が強化される勝ち組だ」


 これはあれか。


 アリスのやつみたいな特殊技能ってやつか。


「お前が必死こいてどれだけ鍛えたか知らんが、これが才能の差なんだよ!!」

「グッ!!」


 まずい、完全に押されている。


 こいつ、今まで自分が魔法を使えると常にブラフをかけていたのか。


 バカそうに見えて策士だったか。


「オラオラどうした!!さっきまでの威勢が台無しだぜ!!」


 重い一撃を何度も弾く。


 手が痺れ始め、体力と集中力が一気に削られる。


 距離を取りたいのに、取らせてもらえない。


「魔法は近くだと無力だ。こうして近づけばお前は魔法を使えないだろ」

「その通りだよゲス野郎」


 逆に魔法を封じられたのは俺だった。


 こうなると分かっていれば、俺の最善策は走り回りながら魔法を撃つことだった。


「終いだな!!」


 確かにこのままでは本当に負けてしまう。


 何か状況を覆す方法はないのか。


「ハッ!!」


 ここで俺は過去の出来事を思い出す。


 ◇◆◇◆


「勝てねぇ」


 倒れ込んだ俺は空を見上げる。


「これで0勝2438敗か……」

「よく覚えていますね」

「将来ストーカーになる気質があるわ」


 遠くの木の下でくつろいでる二人に好き勝手言われる。


「そもそもシエルの身体能力ってバグなんだよ。何で俺より華奢な体でそんな力が出るんだ」


 俺はシエルの細い腕を握る。


「そうやって女の子に気安く触るのどうなの?」

「え、ごめん。今俺を椅子にしてる人の台詞じゃないよな?」

「まーいいけど」


 とりあえず許されたので俺はシエルの腕を触る。


 研ぎ澄まされた筋肉だ。


 大きくはないが密度が凄い。


 鍛え込まれたものなのだと瞬時に分かる。


「リン、女の子の腕を触りながら真剣な顔するのはやめた方がいいと思うけど?」

「うーん、結局凄いということ以外よく分からんな」


 どうすればパワーで負けている相手に勝てばいいのだろうか。


「パワーで勝てないなら技術で補うしかないでしょ」


 シエルは俺から降りる。


「来て、見せてあげる。私にレイみたいな説明は出来ないから、頑張って覚えてね♡」


 ◇◆◇◆


 あの時見たシエルの技。


 あれを使えば勝て


「って、出来るわけないだろ!!」


 あの時シエルの見せた技、見えない出来ない分からないという人間を超越した動きだった。


 嘘だろ過去回想まで入れて何の意味もなかったパターンなんてあるのか!!


 い、いや待てまだ何かあった筈だ!!


 あの時確かその後に


 ◇◆◇◆


「うえ〜ん、シエルにボコられてメンタルがボロボロだよ〜」

「よしよし」


 シエルの神業を前に泣き出してしまう俺を、優しく介抱するアリス。


「……(憐れみの目)」

「……(可哀想なものを見る目)」

「あれ?おかしいな。癒されてるはずなのにドンドン辛くなっている気がする」


 人としての何かを失っていく俺。


「で?分かった?」

「分かるわけないだろんなもん!!人間に空飛べって言ってるようなもんだろ!!」

「私は飛べるわ」

「あなたは神だから別!!」


 何だよ空飛ぶ魔法とかあんのかよズルい!!


 俺だって空飛びながら魔法撃ちたい。


「そもそもリンよりもパワーがある相手なら、魔法を使えばいいじゃない」

「え〜相手が魔法も使えたらダメじゃない?」

「別に私はなんでも知ってるわけではないけれど、リンよりも鍛えた相手がリンよりも魔法が使えると私は思わないわ」

「そうだね。リンは飛び抜けた才能はないけど、逆に言えば貧出た才能もないから」

「初めて聞いたな貧出たとか」


 そうか。


「じゃあ俺の戦い方って万能タイプなんだな〜」


 ◇◆◇◆


 だ・か・ら!!


 魔法で勝ってても接近されたらダメだって話したよな!!


 しかも俺の回想、初手から恥ずかしい映像流れたけど何?


 俺あんなことしてたの初耳なんだけど。


 やべ恥ずかしい。


 三人に会う時俺顔真っ赤になるかも。


 ヤバいどうしよう打つ手がない。


 このままじゃ負けちまうよ。


「ヤバい負けちまう」

「……ハァ……ハァ……」


 さっきから敵も挑発する様に喘いでいる。


 剣の威力も下がってるし、完全に舐められてるな。


 クソ〜、最後の回想シーンだ。


 ここにヒントがなきゃもうダメだな。


 ◇◆◇◆


「結局それって接近されたら俺の負けじゃね?」

「接近されなきゃいいじゃない」

「逃げ足だけは速いんだし」

「バカにしてる?」


 そんな不名誉な褒め言葉いらないんだが。


「ですが危ない時は逃げなきゃダメですよ」

「あの二人にも同じこと言ってよ」

「えっと……に、逃してあげることも大切ですよ?」

「肝に銘じておくわ」

「大丈夫。手加減なら慣れてるから」

「よ、よかったです」


 なんか俺……辛ぇよ。


「だけど逃げるという手はいいと思うわ」

「何故に?カッコ悪いだけだろ」

「もし私がリンの才能を一つ上げろと言われたら、迷わずに私はその努力を進言するわ」


 努力?


「別に普通だろ。俺よりもシエルに方が剣を振ってるし、俺よりもレイの方が魔法を勉強してるし、俺よりもアリスの方が優しい」

「私いりました?」

「私が魔法について調べてる間にリンは毎日走っていることを私は知ってるわ」

「ただの体力作りだろ」

「ええそうね。ただの体力作り」

「されど体力作りってわけ」


 シエルは剣を構える。


「私との勝負今日で何度目?」

「えっと……まだ30か?」

「私も分かんないけど、多分この世界にそう多くないんじゃないかな?」


 私とこんなに切り合える相手は


 ◇◆◇◆


「あ、そうか」

「クソ!!おま……お前!!いつまで粘んだ!!」


 モウンの攻撃の手がドンドン弱まる。


 魔力で力をつけたはいいが、その分体力の消費が激しいのか。


 どうせその力にかまけて体力をつけなかったのだろう。


「才能があったところで、それを腐らせちゃ意味ないよな」

「テメ!!」


 キレたモウンはかなり力を込めた一撃を俺に与える。


 だが


「それじゃあダメだろ」


 シエルの技術はどれも一級品。


 俺にはさっぱりなものばかりだ。


 だが、何百、何千、何万と戦えばいくつかの技は覚えた。


 その一つに


「速いもの程横からの攻撃に弱い」


 上から振り下ろした刃を斜めに逸らす。


 小さくでいい。


 次第に、次第にそのズレが大きくなる。


 すると俺の肩に少し掠る程度のところまで剣の軌道は曲がる。


 するとあら不思議


「真っ直ぐ降ろしたはずなのに、斜めにいっちゃったな」

「何しやがったテメェ!!」

「マジックだよマジック。知らない?まぁバカだから知らねぇか」


 俺はガラ空きの胴体に蹴りを入れる。


 パワーの割にはかなり遠くに吹き飛ぶ。


 お陰で


「距離が出来た」


 知っての通り俺の魔法はへなちょこだが、時間をかければそれなりの火力が出せる。


 当たれば普通に叫び出すくらいの威力だ。


 そしてあいつにはしっかりとそれを味わってもらおう。


「食らえ。ムカ着火ファイヤー」


 俺は火球を放つ。


 モウンはそれに気付いて最初のように腕で防ぐが


「痛、痛デェ!!」

「素手で魔法受けるバカがいるかよ」


 めちゃくちゃ優勢に見えるが、実のところ俺もう剣握れない。


 あいつの猛攻で腕が完全に死んでいるわけだ。


 だがそんな弱みを見せるわけにはいかない。


「イキってた割に滑稽だなモウン!!ほれ近付いて見ろよ!!さっきと同じようにその腹に蹴りを入れてやるぜ!!」

「クソ……クソが!!」


 叫ぶモウンに魔法を撃ち込み続ける。


 一体どれくらいそうしていただろうか。


「終わった……か?てか死んだ?」


 遂にはモウンは動かなくなる。


「どちらにせよ、俺の勝ちだ」

「リンさん!!」


 駆け寄ってくるハルト。


「凄い!!まさか本当にモウンに勝つなんて!!」

「最初に言っただろ、俺は戦いに関しては自身あるって」


 まぁ実際かなりギリギリだった。


 もしあいつが逆上せずに、変わらず攻撃を続けていたら俺の剣は弾かれて負けていた。


 でも


「勝ったぜハルト」

「うん」


 ……そういえば俺、これが生まれて初めての勝利か。


 子供相手も基本集団でボコられるか、相手がレイかシエルだったし。


「俺、ちゃんと強いな」


 確信した。


 これなら学園でもやっていける。


「とりあえず疲れた。もう何もしたくなーー」


 何故か俺の目の前にノートが落ちている。


 ノートというか


「予言書」


 そしてページが捲れる。


 そこには一言


『避けて!!』

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