第6話
俺は預言書を拾った。
預言書という大層な名前は、俺が暗黒の執行者(馬鹿)というあだ名で呼ばれていたからだろう。
そしてあれから預言書の言葉はそれ以上見えてない。
まるで時を待てと言わんばかりである。
あの時はまるで、俺に預言書だと信じ込ませるためだったのではないかとすら思えてくる。
「なぁ、お前って意思があったりするのか?」
一人部屋という長所を生かし、無機物に話しかける。
周りに人がいたら変な人だと思われてしまうな。
「え」
ペラペラと風も吹いていないのにノートが開く。
今回は右のページの文字が見え
『食堂でAランチを食べる』
……
「は?」
コンコンコン
「リンさんいる?」
「その声はハルトか」
扉を開けるとハルトがいた。
「どうしたんだ?こんな時間に」
「一緒にご飯食べに行かない?」
「あー、もうそんな時間か」
時計を確認すればもうとっくに夜になっていた。
「ああそうだな。行くか」
俺はハルトと共に食堂に向かうのであった。
◇◆◇◆
「広いな」
食堂はショッピングモールと勘違いしてしまいそうな程の広さだった。
「わざわざこんな広くする必要あるのか?」
「元々は違う用途で使うらしかったんだけど、予算が足りなくて仕方なく食堂にしたんだって」
「バカだな」
お陰で席は無限に余っている。
どこにでも座れるだろう。
「でもあそここんなに広いのに人がいっぱいだね」
「そうだ……な!!」
視線がこちらに向けられ、俺は咄嗟に身を隠す。
「どうしたのリンさん」
「危なかった。あそこにいるのはモンスターだ」
おそらく、いや確実に見つかれば若干一名がこちらに向かってくる。
そうなれば俺はおそらく平穏な日常を送れなくなるだろう。
将来英雄になる俺だが、その為にも無駄な時間は出来るだけ避けたい。
「悪いが俺はあそこの席に座ってるから、適当に注文しといてくれないか?」
「う、うん。分かったよ」
ハルトはそのまま注文しに行く。
俺は向こうから死角になった席に腰を下ろす。
「そういえば食堂なんだから男女混合に決まってるか」
失念していたな。
「それにしても……まぁ当然と言えば当然なんだけどな」
そもそも俺という個人にあの三人が構ってくれていること自体が奇跡みたいなものだ。
あれだけの人間がいるのであれば三人もきっと新しい人生を歩むのだろう。
今の俺には向こうが本当に大きく見えた。
でも
「いつか」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
ハルトが二つ分の料理を持ってくる。
「それにすればいいか分からないから、とりあえずAランチにしたよ」
「あ、ああ。もちろん大丈夫だ」
やはり預言書通りか。
だが少し疑問に感じる。
「なんか、違う気がするんだよなぁ」
「どうしたの?」
「いやこっちの話」
俺はAランチを食べる。
美味いなちゃんと。
「なんか無機物っぽいんだよな」
今までの預言書はもう少しこう、意志のようなものを感じた気がする。
こうフランクというか何というか
「気のせい……かもな」
「?」
考え事をしていたせいか中々食が進まずにいた。
結果
「僕先に片付けてくるね」
「ん?おう」
ハルトは席を立つ。
ここで発生するランダムイベント
「珍しいですね、リン君がこれを頼むなんて」
「ハルトが頼んだんだが、中々美味いな。時にはこういう新しいものを試す……の……アリス」
「はい、アリスですよ?」
いつの間にか横に立っていたアリス。
「やっぱり……気付いてたのか?」
「シエルちゃんが気付いて教えてくれました。あまり人がいると困るだろうから、お手洗いに行くフリをして行けとレイちゃんがアドバイスをくれて」
「クソ!!三位一体の連携が強力過ぎる!!」
バレたら多分来るだろうなと思っていたが、案の定現れたアリス。
最初に出会って以降、アリスはこうして何故か俺の後ろを追いかけてくるようになってきた。
最初は子供だから可愛いとは思っていたが、成長してもその癖は変わらず、こうして俺を見かけたらこちらにくるようになった。
「アリス、俺もお前と話したい気持ちは山々だ。だけど俺よりも話をしたい奴が沢山待ってるはずだぞ?」
俺は壁を見る。
向こうには人の大群がいるのだろう。
俺の場所にはただ一人
「そうかもですけど……嫌です」
「嫌かー。でもやっぱりみんな」
「リン君、覚えていますか?」
「え?何が?」
急に、覚えていると言われて覚えてると即答できる人間がいたら教えて下さい。
「昔リン君は世界平和は無理だと言っていました」
「ああ、あの時の」
「覚えていてくれたんですね」
アリスはニコリと笑う。
そういう急なのはやめて欲しいものだ。
「忘れるわけないだろ。インパクトが強すぎだ」
あんな漫画みたいな展開があるなんて思うわけないしな。
「それは私の台詞なんですが、まぁその話は置いておきまして」
アリスは俺が昔からやるように、ありもしない箱を横に置く。
「やっぱり私があの中にいればいつか争いが起きると思うんです。私はそういったものは好きではありません」
「知ってるよ」
「はい。ですが今までのように切り札を使えば迷惑をかけるかもしれません」
「切り札?迷惑?」
「ですので休憩です。少しだけ、側にいることを許してくれませんか?」
「いや許すも何も……まぁいいやもう」
アリスは俺の頭を急に撫で出す。
「普通こういうのって男がしない?」
「いいじゃないですか。リン君の髪はふわふわしてて好きなんです」
しばらく髪の毛をいじられる。
ハルト遅いなぁと考えていると
「はい」
パッと手が離れる。
「もう大丈夫です」
「そうか。あんまし無理するなよ」
「さっきその無理をさせようとしていたのがリン君ですが、そうですね。善処します」
アリスはどこか名残惜しそうに
「今度はリン君の方から来て下さいね」
そう言って歩いて行った。
「……はぁ」
ため息を吐く。
疲れたのに幸せな気持ちという謎の感覚が胸の奥を締め付ける。
「これも予想通りか?預言書さん」
俺は開いていたページに声をかける。
『あなたの大大大好きな幼馴染が来るよ!!よかったね!!ピースピース』
左のページにやけにテンションの高い一文が書いてある。
知らないが、多分こいつ恋バナとか好きそうだな。
ハルトが向こうに行った後に預言書を開くと新たに見えるようになっていた場所だ。
最早疑うまでもないが、一応試しに待っていたら案の定正解だったわけで
「本物だ。だけど少し雑だな」
そもそも見てからその未来がくるまで一瞬だし、幼馴染と言っても誰が、何人来るかも書かれていない。
その上
「大大大好き?預言書と言っても人の気持ちまでは理解できないらしいな」
大きな間違いまである。
こりゃ預言書失格じゃないか?
『外してないけど!!誰が来るか説明しない方がスリルあっていいと思ったの!!』
なんか返信がきた。
この預言書速攻でアイデンティティーを崩壊させにきやがった。
「だが、やはり意志みたいなのがある。生きているとは流石に思わないが、ただの預言書ではないことは確かだな」
高度に発達した人工知能?
いや、この世界ではそんな発達した科学力はない。
これは一体
『てかそんなこと言ってる場合じゃないよ!!今すぐ小さな英雄を追いかけて!!』
は?
小さな英雄って誰だよ。
「おいまどろっこしいぞ預言書。もっと正確な情報持ってこいや」
だがしばらく経っても返事は帰ってこない。
「小さな……か」
俺の知る限り預言書は多分、誰かの名前を言うことができないのか?
黒き乙女とか、幼馴染とか、そういう言葉でしか書かれていない気がする。
そして小さなという言葉、そして追いかけろ。
追いかけろというのは俺と一緒だった人物、つまりはハルトかアリスだ。
そしてわざわざ小さなという言葉をつけたということは
「ハルトに何かあったのか?」
俺は急いで席を離れ、ハルトの歩い行った方向に走りだした。
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