第4話 

「なんか知らないけどさ、誰にだって失恋はあるよ。確かに理事長は美人だけど、他にもいい人が」

「いない」


 ロストは断言するようにそう言った。


「あの人は……俺の光だ」

「ふ〜ん(興味なし)」


 大分立ち直ったのか、自分の足で歩き始めたロスト。


 一応Aクラスに連れてけと言われた俺は、わざわざAクラスまで足を運ぶ。


「ほら、着いたぞ」

「誰も頼んでなどいない」

「さいですか」


 相手にするのがめんどくさくなった俺は、そのままAクラスから離れようとする。


 そして


「あ」


 Aクラスの隣のクラスを見る。


「頑張れよ」


 少しの寂しさを残し、俺は自身のクラスに行こうと


「グヘッ!!」

「何カッコつけてんの?」

「シエル……」


 そこには白髪の少女。


「せっかく近くに来たのに帰るとか幼馴染の風上にもおけないよ?」

「別に幼馴染にそんな条件ないだろ。むしろ離れてても絆は消えないとかの方がぽくないか?」

「そんなわけないしょ?幼馴染だからって離れてたら普通に疎遠になるに決まってるじゃん」

「急にマジレスされても……」

「というわけでさっさと教室来る」

「ヘイヘイ」


 半ば強引に連れて行かれる。


「今夜の夕食を捕まえてきた」

「あら、随分と可食部の少なそうな獲物ね」

「あ!!リン君が来ました」


 中に入るとそこは教室と呼ぶにはあまりにも豪華すぎる場所だった。


 机はなんか大理石みたいなので出来てるし、壁もさっき作った?とばかりに白い。


 飾られている花は気品が漂っている上に、どこか教室中に薔薇の香りが漂っている。


「何ここやっば」

「豪華だよね。正直落ち着かない」

「そうですか?むしろいつも通りというか……」

「アリス」

「あ!!何でもないです!!」


 いや絶対何かあるやん。


 俺は大人だから聞き逃してあげちゃう。


「案の定というか、やっぱりお前ら三人か」

「幼馴染として鼻が高いわね」

「むしろお前らに鼻を折られた記憶しかない」


 場所が変わろうとも、相変わらず読書に勤しんでいるレイにある意味で安心感を覚える。


「けど三人で授業なんて寂しくないか?」

「それは大丈夫ですよ。例えばレイちゃんなら魔法を、シエルちゃんなら剣術をAクラスの方々と授業しますから」

「他の時間は?」

「自由行動だって。それぞれで自分の好きなことを伸ばす」

「まぁ自力であんな成績出せる奴らなら下手に他のこと教えないでいいってことかもな」


 天才という分野をトコトン伸ばす方に舵を切るのは貪欲で嫌いではない。


「ですが、これまで通りみんなで一緒に集まれる機会は少なそうですね」


 しょんぼりと顔を俯かせるアリス。


「大丈夫よ。お昼も放課後も、これまで通り一緒に過ごせばいいじゃない」

「そうだよ。環境は変わっても、私達の絆は変わらないから」

「レイちゃん……シエルちゃん……」


 いい話だなぁ。


「じゃあ俺は新しい友達と一緒に行動するわ」

「空気読みなさいよバカ」

「リンって頭の中ゴミでも詰まってるんじゃない?」


 酷い言われようだ。


「うるせぇな」

「……リン君は、私達といるのが嫌なんですか?」


 アリスは泣きそうになりながら尋ねる。


 美少女が涙しながら一緒に居たいと言ってきた。


 そんなこと言われたら男としてはこう答えるしかない。


「嫌です!!」


 キッパリと切り捨てる。


「……グスッ」

「え、あ、そんな泣く程のことでも……」

「最低ね」

「死ねばいいのに」


 泣き出してしまったアリス。


 どうすればいいのか分からない俺をレイとシエルが冷たい目で見てくる。


「ごめんなさいリン君。今まで……ずっと私迷惑をかけて……」

「いや違うんだって!!誤解だって!!」

「浮気がバレた男みたいね」

「実際三股してるようなもんじゃない?」

「外野黙ってろマジで!!」


 俺はアリスと目を真っ直ぐと見て


「俺がお前らと一緒にいるのが嫌なわけないだろ?」

「ですが……今リン君は……」

「俺が嫌って言ったのは今のお前らとって意味だ」


 俺はゆっくりとうずくまっていたアリスを立たせる。


「俺はまだまだお前らに追いついていない。それでも、俺は諦めない」


 俺の夢


 ヒーロになる夢


 村のみんなは笑ったが、彼女達は最後まで信じてくれた夢。


「俺は英雄になる男だ。だから自力でこの教室まで上がって来て初めて思えるんだ。俺はお前らの横に立っていいんだって」

「では私達と一緒は嫌じゃないということですか?」

「ああ」

「私達と一緒は楽しいですか?」

「勿論だ」

「私達のこと好きですか?」

「んん?あ、ああ勿論だ」

「ライクではなくラブですか?」

「ちょっと待て」


 アリスはキョトンとした顔をする。


 さっきの泣いていた子か?これホントに


「質問がおかしい」

「そうでしょうか?」

「絶対におかしい」

「自意識過剰じゃない?こんな可愛い女の子に囲まれて自分のことモテモテとか思ってる?」

「おいシエル。時に言葉はジャックナイフやブーメランに変化するんだぞ?」


 少し刺さっちまったじゃねーか。


「とにかく!!俺は俺なりにお前らに追いついてみせる!!」


 俺は教室の扉を開け


「首洗って待ってろ!!」


 後にした。


「やっぱりリンはどんな小説よりも面白いわ」


 レイは静かに本を閉じた。


「やっぱりSクラス蹴っちゃったか。リンらしいといえばリンらしいけどね」

「残念です」


 シエルは机の上に座りながら足をプラプラと揺らす。


「ある意味楽しみが出来たといえばプラスかも?」

「そうね。リンがここまで上がってくるまでの過程を楽しむのも面白いわ」

「二人ともそんな見せ物みたいに」

「違うわアリス。これは後にこう語り継がれるのよ」


 英雄譚


『少年は世界を救う。だがそれはあまりにも』


「本当のところは?」

「いい見せ物になりそうね」


 ◇◆◇◆


「ちょりーっす、遅れま」

「遅刻だ。早速成績に加えておく」

「……何してんすか理事長」

「席につけ。話はそれからだ」


 俺は自分の席を探す。


「まさか隣同士とはな」

「これからよろしくね」


 俺の席の隣はハルトだった。


「てかなんでCクラスに理事長が?」

「僕も知らない。リンさんが来る少し前に来て無言であそこに立ってるんだ」

「怖!!いるよな。無言で圧をかけ続けるめんどくさいタイプの」

「今日からお前らの担任になったメインだ。よろしくな」

「は?」


 あのバカは何を言ってるんだ?


「いやいや、あんたトップでしょ?何担任教師しようとしてんの?」

「質問は控えろバカ。お前の成績なんぞ私の手で一握りできるんだ」

「横暴反対!!横暴反対!!」


 メインはどこか楽しそうに笑い


「この一年、お前らをビシバシと鍛えてやる。私の授業は厳しいが、乗り越えた先に必ず成功があると約束しよう」


 皆が理解する。


 この先に進めば地獄が待っているのだと。


 そんな悪魔の取引に笑顔を返してやる。


「いいね」


 こうして学園の一日目は幕を閉じた。


 そして放課後


「ん?」


 俺は遂に運命を変え始めた。

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