第3話
「もう成績が出せるのか?」
「うん。魔法の技術で高速で採点を可能にしてるんだって」
「魔法ってすげーな」
昼食の後、俺とハルトは成績の張り出される場所に向かう。
「えっと、確かクラスはF〜Aだったな」
「そうだね。それと、超常者達にのみ与えられるSクラス」
「超常者か」
超常者というのは簡単に言えば世界のバグ。
人とは一線を隠した才能を持つ者だけが選ばれるものだ。
「今年もいるといいね」
「そうだな」
Sクラスは毎年必ずいるわけではない。
学園側が
『こいつヤバすぎ』
と認めた者にのみ、与えられる。
「多分、てか確実にいるよ」
「なんか断言するね」
「そりゃお前」
何度も見てれば察しがつく。
「本物ってのは俺らみたいな凡才でも分かっちまうもんさ」
だから俺は、本物にはなれない。
「お、着いた着いた」
成績が張り出された場所には、既に多くの人で溢れていた。
だがそれを考慮したのか、かなりの高さに成績が載っていた。
「おい見ろよあれ」
「あれってどういうこと?」
「マジかよ……」
すると不思議な声が聞こえてくる。
「なんか騒ついてね?」
「確かに、何かあったのかな?」
とりあえず俺は
「やぁ君」
「だ、誰!!」
近くにいた女生徒に声を掛ける。
「おっと、安心して。ただのしがない変態だよ」
「助けて!!」
「あの、彼の冗談ですので」
「あ……」
ハルトを見た瞬間、女生徒の警戒心が一気に下がる。
「可愛い」
「え!!」
女生徒の目が肉食のものになる。
ハルトの警戒心が上昇した。
「俺の質問に答えたらこいつをプレゼントするよ」
「リンさん!!」
「何でも聞いて!!」
好戦的だなぁ。
「なんか周りが騒ついてるみたいだけど、何かあったの?」
「それがね」
女生徒は指を差す。
「一番上」
その指先を見ると
「ほう、凄いな」
そこには学力で100点を取った猛者。
「名前はロストか」
カッケー!!
ハルトもカッコいいけど、何か顔が少年だからなぁ。
「確かに凄いが、そんな慌てる程か?」
いつの世にもそう言う天才はいるもんだろ。
「その隣を見てよ」
「……マジかよ」
学力の隣の実技の一番上には
「ロスト…」
「そして特別技能でも」
そこには百の文字。
「こりゃ……騒ぎになるわな」
そして俺はその正体に気付く。
「やっぱり本物か」
赤髪のイケメン。
「それより私も質問していい?」
「なんだ?」
女生徒が逆質問してきた。
「ロストっていう人の上、何故か全て空白なの」
「ホントだ。なんだありゃ」
「あなたも知らないのね」
「悪いな」
「いいの。それじゃあ私はこれで」
「おう、ありがとな」
そうして名も知らぬ女生徒はハルトを抱え、どこかに去っていくのであった。
「助けてぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
俺は難聴系主人公の為、最後の断末魔は聞かないでおいた。
「おう、揃ってるな」
すると突然声がする。
この声は
「私は理事長のメイン。一番偉いということだけ覚えてろ」
突然現れた青髪の女性ことメイン。
やっぱあの人濃いなぁ。
「私はお前らを歓迎しよう。ここは完全な実力主義だ。長所を伸ばすもよし、短所を消すもよし、自身の思うままに力をつけろ」
何故か自然と背筋が伸び、言葉が耳に入る。
「だが覚えておけ。ここでの目的はただ一つ」
メインはニヤリと笑い
「強くあれ」
それがこの学園のルール。
「腕っ節、魔法、知略に武器、あらゆるものを持ってして敵を穿て。それがお前らの目指す先にある」
メインは後ろの成績表に視線を集める。
「そして、今回お前らがそれぞれの分野においてのトップを紹介する」
皆の騒めきが広がる。
今回のトップは間違いなくロストと呼ばれる人物であると分かっているからだ。
「おっと、なんだこいつ」
メインは気付く。
「ロスト……ロスト……あぁ!!」
メインは何かを思い出し
「どうでもいいや」
そして
「これが今回の首席どもだ」
空白の欄が開かれる。
『レイ 学力300 武力0 特殊技能0』
『シエル 学力0 武力300 特殊技能0』
『アリス 学力0 武力0 特殊技能 測定不能』
正に桁違い。
「百点超えてるんだけど」
俺の感想はこれくらいであった。
「さて諸君。お前らの目指すべきはここだと言いたいが、私も鬼ではない」
メインはどこか楽しそうに
「お前らにこいつらは絶対に抜けない」
断言する。
「だがまぁ、そうだな」
メインは一瞥し
「このロストって奴くらいなら勝てるんじゃないか?」
「適当かよ」
俺はポロリと口から言葉を漏らす。
「おい」
「……まさかな」
自意識過剰だよな。
「勘違いじゃないぞリン。お前今、私の悪口を言ったな?」
何でバレてんの?
「お前は後で私の場所に来い。説教だ」
そしてゲリラに始まった成績発表は幕を閉じた。
「あ、俺Cクラスだ」
そして俺は現実逃避していた。
『リン 学力40 武力55 特殊技能0』
◇◆◇◆
「痛い!!」
「さて」
いきなり体罰をかましてくる教師の風上にも立たない女、メイン。
「おっと、まだお仕置きが必要か?」
「メイン様のような素晴らしい女性を俺は見たことがありませんわ」
「よし」
拳骨2発目で許される。
「さて、私がお前をここに呼んだ理由はわかるか?」
「実は俺には隠された力があり、それを理事長であるメイン様が見抜いた。これで合ってますか?」
「間違いだ」
メインはため息を漏らす。
「実はお前にはSクラスへの特別編成の許可が降りている」
「……」
「私としてはーー」
「お断りします」
「……Sクラスに入れば未来は安泰だ。確かに君に力はないかもしれないが、それでもその権威が有れば……いや、すまない」
「いいんです」
メインは一枚の紙を取り出し、燃やす。
「さて、お前は何クラスだったんだ」
メインは話は既に終わったとばかりに、新しい書類に何かを書き始めた。
「そりゃ理事長、俺レベルになると敢えて手を抜くことによって、わざと低いクラスに入るんですよ。そしてAクラスの連中に目をつけられ『あいつ、何者だ!!』って展開に」
「Cか」
「はい、Cでした」
クラス表らしきものに目を通すメイン。
「どうだ、上手くやっていけそうか?」
「理事長って俺のお母さんですか?まぁこんな美人な母親ならやぶさかではありませんが、俺としてはもっと優しい方がーー」
「あん?」
「お母様」
「気持ち悪い。お前なら例え地獄だろうと楽しく過ごしてるんだろうな」
「へへ」
「嫌味も効かないか」
メインはもう帰れとばかりに手で払い除ける仕草を取る。
「メインさん」
「何だ」
「ありがとうございました」
「気にするな」
そして俺は理事長室を後にした。
「あ」
「……」
部屋を出ると、例の赤髪のイケメンとすれ違う。
「ヤッホー、また会ったね。もしかして俺らって運命で繋がってる!!やだ!!俺はノーマルよ!!」
「お前」
どうせ無視されると思っていたが、反応が返ってきた。
「どうしてあの人に呼ばれた」
「……あの人っていうのは、美人でスレンダーなモデルみたいだけど、言葉は常にジャックナイフのあの人?」
「そうだ。だが、誰よりも優しいお方だ」
「……すみません、そんな人知りません」
「おい」
3発目
「ロストか」
「お、お久しぶりです、メインさん!!」
イケメンの目がキラキラしたものになる。
「何の用だ。お前らは今からそれぞれのクラスへと向かう筈だが」
「それは……」
なーんか訳ありそうだな。
「じゃあ俺は失礼して」
「まぁ待てリン」
「グヘ!!」
襟を引っ張られる。
「悪いがこいつをAクラスまで連れて行ってくれ」
「えー、めんどく」
「頼むな」
そう言い残し、俺とイケメンは置いて行かれた。
「えっと、それじゃあ一緒にAクラス行こうねー」
「どうして」
ロスト?と呼ばれるイケメンは悔しそうに拳を握る。
「どうしてなんだ……メインさん」
「あの……なんか黄昏るのはいいけど、早く行きませんか?」
「どうして……」
「はぁ」
仕方なく俺はロストの手を引っ張り、Aクラスへと向かった。
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