第2話

 学園とは


 学ぶ園である。


 何を学ぶかって?


「んなもん戦いだろ」


 この世界では平和は樹立されていない。


 人類が地上で支配している領域は3割。


 残りは魔物と呼ばれる凶悪なモンスターが闊歩している。


 なら人類が奴らよりも弱いかと言われれば、そうではない。


 魔物は自動で湧いて出てきており、その数は増え続ける。


 だが、何故か人が集まるとそこからは湧いてこないという性質があるため、人類は甘んじて地上の3割で止まっているわけだ。


 そして魔物は無限に湧き続けるため、それを処理する必要がある。


 そして俺らが向かう学舎こそ


「さぁ着いたぜ」


 正門の前には堂々と


『ようこそ、レゼリック学園へ』


 垂れ幕が下がっていた。


「ダサいわ」

「これはちょっと……」

「センスなーい」

「お前ら!!」


 いつもの如く遠慮のないコイツらの俺は憤慨する。


「確かに俺も初見は『ぷっ、これ考えた奴だっせ』とか思ったが、そういうのは口にするんじゃねぇ!!」

「ほう」


 俺の頭が何者かによって捕まれる。


「悪かったな、新入生。センスがなくてよ」


 後ろを向くと、教師の特徴である黒いスーツを着た女性。


 いや、それどころか


「こ、これは理事長様、このような田舎者であるわたくしめにどのようなご用件で?」

「そりゃお前、首席を連れて行こうとしたんだよ。お前は誰だ」


 首席?


 もしや!!


「お初、いずれ英雄になる男、リンと申すものでござる。以後お見知り置きを」

「そうか、私の名前はメインだ」

「それで、やはり首席というのは俺のことで間違いないですか?」

「大間違いだ」


 メインと名乗る女性は万力の如き手を俺の頭から外し


「お前がレイか」

「はい、初めまして理事長」


 レイの前に立つ。


「質問よろしいでしょうか」

「何だ小童」

「俺の知る限り試験は今日行われる筈ですが、何故レイが首席と?」

「簡単な話ですよ」


 代わりとばかりにアリスが声を上げる。


「この学園は知力、武力、特殊技能で入学します。ですが、やはり一部分に秀でている人にとっては厳しいものがあります。ですので、事前にその分野でのテストが受けられるのです」

「へぇ」


 そんなのあったんだ。


「説明ありがとう、アリス」

「あれ?どうしてアリスの名前を」

「そちらがシエルで合ってるか?」

「はーい」

「え?シエルまで」


 嫌な予感がする。


「さて、それでは行こうか」

「ちょっと待った!!」


 俺は声を上げる。


「ずっと前から好きでした。俺を選んで下さい」

「そうか。行くぞ」


 三人を連れて、メインはどこかに歩いて行く。


 去り際にレイは俺を一瞥し、シエルはずっと笑っており、アリスは今も心配そうに俺を見ている。


「ま、いっか」


 他人の心配より自分の心配だ。


「くー!!楽しみだなぁ」


 俺は一人で学園へと歩みを進めるのであった。


 ◇◆◇◆


「それでは筆記試験、開始」


 試験管の合図と共に、俺は解答用紙に文字を書く。


 この日の為に勉強した俺にとっては、あまりにも


「……」


 ちょっと難しいなぁ。


「そういえば俺馬鹿だった」


 とりあえず分かる部分だけ埋めて行く。


 そして


「終了」


 一斉にペンを置く。


「まぁまぁだな」


 結果はまぁまぁだ。


 思ってたより難しかったが、思ってたよりも解けたって感じだ。


「お前もそう思うだろ?」

「ええ!!」


 急に声を掛けたせいか、相手は面白いくらいに驚く。


「えっと……何の話?」


 俺の隣の席にいた少年。


 試験を受けているということは俺と同い年だが、身長や顔立ちがどこか幼げである。


「テストどうだった?何点くらい?」

「えっと……僕はまぁまぁだったよ」

「お前もか」


 俺は察する。


 こいつは仲間だと。


「いやー、俺ら絶対仲良くなれるよ。名前何?」

「ええ!!ぼ、僕はハルト」

「おう、ハルトか。よろしくな」


 俺は前世を陰キャと言っていたが、自分と似たような奴の前だと気持ちが大きくなる内弁慶でもある。


「というのは嘘だ。本当はお前が弱そうだから声掛けた」

「急に罵倒!!」

「小さいことは気にすんな。次は実技だ実技。俺は実技には自信があるんだよ」

「そうなの?僕はあんまし自信ないなぁ」


 何だかんだで話に付き合うあたり、こいつはきっといい奴なんだろうな。


「チッ!!」


 後ろから舌打ちのような声がした。


「ところでさ、あいつ知り合い?」

「彼はその……友達だよ?」

「そっかそっか、友達かぁ」


 俺の友達は三人しかいないからなぁ。


「俺らも友達だな」

「なんか凄い勢いだね」

「そりゃお前が弱そうだから」

「さっきから酷いなぁ」


 こうして俺とハルトは次の会場へと向かった。


 ◇◆◇◆


「ふっ、遂に俺の実力を見せる時が来たようだ」

「そういうのいいので速く終わらせて下さーい」

「いいだろう、俺が君の期待に応えてあげよう」


 実技試験は教師とのタイマン。


 魔法、剣、何でもいいので教師に一撃加えるか、5分経過で終了だ。


「悪いけど先生、カッコ悪いところ見せちゃうよ」

「そう言うのいいから、速く来い」


 男性教員がめんどくさそうに剣を向ける。


「じゃあ行きます」


 俺は走り込む。


「おお!!小物っぽかったのにやるな!!」

「侮ってもらっては困りますね」


 俺は教師に連続で斬りかかる。


「確かに思っていたより強いが」

「あれ?」


 いつの間にか剣が弾かれる。


「普通だな」

「そうですか」

「お!!」


 そして俺はこっそりと用意しておいた炎の球を教師の脇腹の当てる。


 と言っても、俺如きの攻撃でこの人にダメージは通らないだろう。


 それでも


「勝負あり」


 審判の合図により、決着がつく。


「強者慣れしてるな」

「毎日のようにあなたより強い人と戦っていますので」

「そうか。良い師を持ったな」

「いえ、友人です」

「同い年か?」

「そうですね。一緒にここに入学します」

「……名前を聞いても?」

「あぁ、その子の名前は」


 シエル


「よく……生きているな、お前」

「手加減してもらってるので」

「そうか……」


 シエルの名前を出した瞬間、教師の顔が一瞬で青ざめた。


「まぁいい、次があるからお前は下がれ」

「ありがとうございました」


 俺はスキップしながらフィールドから出る。


「ありゃ間違いなく合格だな。おそらく周りでは『あの◯◯に攻撃を!!』なんて噂されてたりーー」

「勝負あり」


 後ろから声がする。


「凄いよあの人」

「教師を一撃で……」

「あんな奴がいたのか」


 そこには赤い髪をした、イケメン高身長高収入(仮)の男が立っていた。


「応援ありがとー」


 男は王子スマイルで颯爽とこちら側に向かってくる。


「わぁ、とってもお強いですねー」

「……ども」


 俺の黄色い声援を受け流し、男は去っていった。


「……イケメン許すまじ!!」

「あ、リンさん」

「おうハルト、どうだった?」

「えっと、5分経って終わっちゃった」

「そうかそうか。ちなみに俺はなーー」


 俺は誇張に誇張を重ねた武勇伝をハルトに聞かれてもいないのに話した。


「またあいつ……」


 誰かを無視するように。


 ◇◆◇◆


「最後は特別技能です。これは稀に現れる不可思議な能力を測るものであり、点数はありませんが同じ点数の人よりも良い成績になれる程度ですのでご安心下さい」


 試験官の説明が入る。


「ハルトって何か右腕が疼いたりする?」

「怪我した時くらいかな?」

「そっか。前世の中2の時はわざと腕に怪我してたな」


 そんなわけで特別な力なんてない俺らは、当然の如くスルーになる。


「おお、結構いるな」


 試験会場に次々と入っていく人々。


 世界は広いと言うが、やはり俺の視野は狭かったようだ。


 俺の知る限りそう言う特別な力を使えるのは


「あ、そうだ。せっかく友達なったんだからさ、後で俺の友達紹介してやるよ」

「リンさんの友人か……その……なんて言うか」

「大丈夫大丈夫、集団リンチなんてしないから。俺の友人を一言で表せば」


『リンってどうしてそんなにアホなの?』

『リン君はデリカシーって言葉を勉強した方がいいと思います』

『キモ』


「悪魔だ」

「悪魔!!」

「俺の知る限りで最も美しい沼。正に地獄への入り口だろう」

「すみません、会うのは拒否させて頂きたいです」

「そうだな」


 それによく考えれば


「他の男に会わせたくねぇな」


 つい、本音が溢れてしまう。


「あ」


 最後の一人が試験会場に入っていった。


 それは、先程の赤髪イケメン。


「あいつ、何でも出来るんだな」


 これでバカとかだったら面白いけどな。


「昼飯、一緒に食うか?」

「いいの?」

「おう。今んとこ知ってるのハルトだけだしな」


 ◇◆◇◆


 そういえば


「あいつらと一緒に食わないのは久しぶりだな」

「あいつら?」

「さっき話した俺の数少ない友達」


 俺は弁当の蓋を開ける。


 中には俺の大好物ばかり。


「これが最後か」


 帰ったら普通に食えるが、学園に入れば寮暮らしとなる。


 そうなれば、しばらくは母親の味を食べる機会はないだろう。


「頂きます!!」


 味わうように弁当に食らいつく。


「じゃあ僕も」


 そう言ってハルトも食事に手をつける。


 別に食事中静かにしろなんて言うタイプじゃないが、今日は静かにご飯を食べた。


 そして


「ご馳走様」

「ごっそさん」


 同時に食べ終わる。


「いやー、美味かったー」

「美味しそうに食べてたね」


 弁当を綺麗に包むハルト。


「なぁハルト」

「何?」

「お前、いじめられてるのか?」


 ハルトの動きが止まる。


「何の……こと?」

「別に言いたくないならいいけどさ。俺の友達が昔、結構訳ありだったんだよ」


 まぁ今じゃむしろ


『黒髪が呪われてる?あなた無知なのね。そんなものはどこの研究施設においてもーー』


 髪について触れてきた人間を一瞬で論破する知性を手に入れてしまった。


『それに、私好きなのよ。この髪』


 そしてこの言葉を最後に言い放つのはお約束だ。


「同情?」

「あん?」

「同情して……僕に声を掛けたの?」


 ハルトは少し震えた声で尋ねてくる。


 だから俺は


「そうだ」


 ハッキリと答えた。


「ここで『そうじゃない!!俺は君が優しい人間だと思ったからだ!!』なんて言えばいいのか?残念だが俺にそんな気持ちはない」

「リンさん……」

「同情しかしないね。同情するってことは相手の気持ちに寄り添ってるんだ。つまり俺はお前の百倍優しい。おk?」

「お、おっけー?」

「そう、だから同情した俺は」


 パンパンに膨れた腹を見せながら


「お前の友達になってやる」


 ふてぶてしく言い放つ。


「そして俺には実は友達が少ないんだ」


 そして促す。


 俺の言葉にハルトは目を丸くした後


「なら、しょうがないね」


 鼻声で


「分かったよ。僕が、友達が少ないリンさんの友達になってあげる!!」

「はん!!いい度胸だ。なら、いじめられてるお前の友達になってやる」


 握手を結ぶ。


 あまりに歪なヘンテコ友情が生まれのだった。


『その少年、後に』

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