第1話

「リン、お誕生日おめでとう。リンの大好きなケーキよ」

「よっしゃ!!頂きーー」

「そしてこれがレイちゃんケーキね」

「ありがとうございます」

「これがアリスちゃんの分」

「そんな、いつもお世話になっているのに」

「そしてこれがシエルちゃんね」

「わーい、ありがとうございまーす」


 三人の美少女が母親からケーキを受け取る。


「え?俺の誕生日のシステムっていつからケーキ配当になったの?」

「去年のあなたの誕生日の後に決まったわ」


 黒髪の少女は、まるで誇るかのように長く伸びた髪を耳にかけながらケーキを食べる。


「ん、美味し」

「これ10歳の色気じゃないよな?」


 ジッと眺めていると


「……」


 レイは俺の目線を理解し


「あーん」


 あざけるようにケーキを差し出す。


「おい、あまり俺を揶揄からかうなよ、弱く見えるだろ」

「実際弱いけど、それもそうね」


 レイは席に座りなおし


「じゃああげないわ」

「待て、貰わないとは言ってないだろ」

「美味しいわ」


 レイは俺の静止の声を聞き流し、ケーキをもう一度食べ始める。


「どうぞ、お母様とお父様もご一緒に」

「いいのよ」

「若いもの同士で楽しんでくれ」


 金髪の少女は「そうですか……」と少し悲しげな表情を見せるが、ケーキを食べると一瞬で笑顔になる。


「美味しいですね、リン君」

「何言ってんだアリス。どう考えてもアリスの方が美味しそうだろ?」

「太ってるってことですか!!」

「いや」


 むしろ細すぎるぐらいだが


「いや、やっぱ何でもないわ」


 性的に美味しそうはさすがにいかんな。


「アリス、耳」

「?」


 耳元でレイがアリスに何かを喋りかける。


 一瞬アリスの顔が赤くなったかと思うと


「なるほど」


 ゆっくりとアリスは持っていた食器を置き


「安心して下さい、リン君」


 背筋が凍る。


「全て、ちゃんと私が受け止めますから」


 初めてアリスを見た時は、争ってる少年達を少し小馬鹿にしていたが、今なら分かる。


「しゅみません」

「どうして謝るんです?」

「食べないで下さい」


 彼女は正真正銘魔性の女であり、そして底なし沼であった。


 身を委ねればもう二度と、元の生活には戻れることはないと本能が教えてくれる。


 そして俺は最後の一人に目を向ける。


「ごめんだけど、私に色気は求めないでよね」


 パクパクと口の中にケーキを吸い込ませる白髪の少女、シエル。


「私は元気をアイデンティティーにしてるから」

「はぁ?元気ってお前この前告ってきた男をいーー」

「はい、美少女からのあーんだよ?嬉しい?」

「ぼろぶじが(殺す気か)!!」


 口に無理矢理ケーキを突っ込まれる。


「ゴホッ!!ゴホッ!!水水」


 俺は水を飲み、落ち着きを取り戻す。


 そして


「どうしてこうなっちまったんだろうな」


 分かりやすく回想シーンに入る。


 ◇◆◇◆


「おはよう」

「おう!!おはよう!!」


 あの日から、俺の家に遊びに来るようになった黒髪の少女。


 名前はレイというらしい。


 あの日は自分に自信がないようであったが、とりあえず毎日


『綺麗』

『可愛い』

『最高』

『ピーーーーーーーー』


 と叫んでいると


『……バカ』


 それから彼女は少し自信がついた結果、スクスクと美人に育っていき、前まで虐めてて奴らは手のひら一転したわけだが時既に遅し。


 彼女は既に虜になってしまっている。


 そう


「俺にだ!!」

「本はいいわ」


 本の虜になっていた。


「リンは今日も素振り?」

「ああ。多分もう少しで何か覚醒しそうなんだ」

「そう。多分勘違いだけど頑張って」


 平地の上で何故か一本だけそそり立つ大木の前で、剣を振る男と本を読む少女。


「あ、お二人ともおはようございます」

「おはよう、アリス」

「よく男どもから逃げおおせられたな」

「ちょっと魔法の言葉を使ったら帰って行きました」


 金髪の少女ことアリスが歩いてくる。


 この子は例のジャンケン魔性ちゃんであり、あの日のお礼と俺の家に訪れ


『また来ますね』


 と言い出し、それから本当に毎日来ている。


 アリスは何だか高貴そうな身分らしいが、それ以上は教えてくれない。


『そんなに私のことが気になるんですか?』


 と首を傾げて言われた時は、なんか怖かった。


 堕ちそうで。


「やっぴー」

「あ、シエルちゃんおはようございます」

「おはよう」

「来たなシエル!!」


 俺は素振りをやめ


「いざ尋常に勝負!!」


 俺はまだ剣を構えてすらいないシエルに向かって突撃する。


「ほい、尋常尋常」


 グルリ


 俺の視点が360度回転する。


 そしていつの間にか俺は地べたに倒れ、背中の上にシエルが乗っていた。


「剣で人体を転ばすってどういうインチキ?」

「そりゃ、なんか人の間接やらをいい感じにああしてこうするの」

「なるほど、分からん」


 チャンバラ大会では周りの目を気にしていた彼女であったが、それから俺の家に来てこうして剣の打ち合いをしてると何故か


「おい、シエル。香水は流石にませ過ぎだろ」

「いいの、これくらい」


 なんかチャラくなってた。


 チャラいというか、前世で言えば陽キャ女子になっていた。


 前世で明るい根暗と地下深くで有名になっていた俺としては一生関わらないはずの人種だった。


「ねぇレイ、アリス、聞いてよ。実はさっきねぇ」

「え、待って、このまま話すの?」


 俺を下敷きにしながら雑談を始めようとするシエル。


「そうよシエル。せっかくの女子トークをカーペット如きに邪魔されちゃごめんよ」

「確かにそうだよね。ほら!!リン喋らない」

「喋るよ!!もうめちゃんこ喋って妨害の限りを尽くすよ!!」

「シエルちゃん。そんなことしたらリン君が可哀想ですよ」

「アリスゥ」


 そうだ。


 俺にはアリスという最大の味方がいるではないか。


「でもアリス」


 シエルは俺の尻を叩きながら


「座り心地いいよ?」

「で、ですが……」

「それにほら」


 シエルが柔らかな桃を擦り付けてくる。


「オッフ」


 いくらこいつらがまだ餓鬼とはいえ、さすがに今のはかなりの何かがくる。


「……」

「そうそう、欲望に従いなー」

「おいアリス、一体何をしようとしーーゴフ!!」


 重さが二倍になる。


「いい……ですね……」

「これぞ正しく人をダメにする椅子だよ」

「人をコケにするの間違いだろ!!」


 そして俺を椅子にしながら女子トークが始まった。


 何やら誰に告白されただの、ストーカーされただの、最近体が成長しただの


「全く」


 けしからんったらありゃしない。


「で?そんなモテモテ美少女に座られる気持ちは?」

「正直最高だ」


 嘘は良くない。


「ま」


 俺はシエルとアリスごと体を起こす。


「ありがと」

「ありがとうございます、リン君」


 そのまま二人を持ち上げ、ゆっくりと地面に下ろす。


「さて、次は魔法の特訓だ」


 それも大事だが、俺にはやはり努力を重ねる方が大事そうだ。


 俺は大木に下ろしてある的に向かって魔法を放つ。


 初級しか使えない俺は、火の玉を放ったり、土を盛り上げるくらいしか出来ないが、実戦で言えばスピードと命中率がものを言うと考えている。


「はい、今日は80点」


 100発中80回


「先月よりも平均が5回増えてるわ」


 おめでとうとレイは拍手する。


「レイは今日何回だったの?」


 シエルは尋ねる。


「980よ」


 お察しの通り、千発中である。


「べ、別に悔しくなんてないんだからね!!」


 俺はツンデレ風に嫉妬を否定する。


「いいじゃない。魔法ならシエルに勝って、剣なら私に勝てるわ」

「そうですよリン君!!凄いことですよ!!」

「やるじゃん」

「いや運動音痴と魔法使えない奴に勝てても嬉しくねぇよ!!」

「私には全部勝ってますよ!!」


 アリスは何故か誇らしげに胸を叩く。


 少しだけ、未成熟ながらどこか膨らみを帯びてきたそれが少し凹む。


「悪いアリス、ここ怪我しちまった」

「え?大丈夫ですか?今治しますね」


 俺は素振りで割れた豆を見せる。


「じゃあ治しますね」


 アリスの手から光が出たかと思うと、一瞬で


「はい、痛みはありますか?」

「ないな」

「それならよかったです」


 そう


「勝てねぇよ!!」


 ズルじゃん!!


 何だよヒールとか完全に勝ち組じゃん!!


「うわぁああああああああんんんんんん、どうせ俺なんて中途半端が取り柄のイケメン高身長優男だよぉおおおおおおおおおおおおおおおお」

「自己評価が天井突破ね」

「半分くらい当たってますよ?」

「滑稽」


 アリス以外優しさのカケラもないな。


 いや、アリスもちょっと酷いかも。


「もういい!!こうなったら」


 俺は剣を握り


「お前らに勝つまでやる!!」

「そういうところ好きよ」

「ですね」

「一緒にするー」


 これが俺らの日常。


 楽しく、激しく、優しい世界がそこにはあった。


◇◆◇◆


そしてあれから数年後


「ふっ、あの頃は平和だったな」

「何言ってんの」


 レイは馬鹿を見るような目で俺を見る。


「今までも、これからも平和でしょ」

「もっと大事件起きないかなぁ」

「いいじゃないですか、平和はいいことです」

「でもイベントの一つでもありゃ、俺がお前らを颯爽と助け、惚れられるイベントが発生すんだよ」

「ないない、だってリンより私の方が強いのに」

「おい!!それは言わない約束だろ!!」


 昨日で俺達の年齢は16になった。


 そしてそれと同時に


「速く行くわよ」

「行きましょう、リン君」

「置いてくよー」

「ちょ待てよ(イケボ)」


 制服と鞄を持ち、家を後にする。


 しばらくここに来ることはもうないだろう。


「行ってきます」


 両親に言葉を残し


「さて」


 晴れた空を見る。


「楽しみだな、学園生活」


『一人の少年が、世界を変えるであろう』




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