予言書が言うには、幼馴染達が将来世界を滅ぼすらしい

@NEET0Tk

プロローグ

『この世で唯一の漆黒の髪を持ちし魔女は、怒りと狂乱により、世界を滅ぼすであろう』




 突然だが、色々端折って俺は転生した。


 端折りすぎだって?


 しょうがないな。


 なんか歩いてたらめちゃくちゃイケメンの奴の下に魔法陣が現れ、突き飛ばしたところをイケメンのストーカーらしき女に偶然刺され、なんじゃこりゃしてたら居眠り運転に跳ねられた後、夢オチと気付いて二度寝したらここにいた。


 今度は何を言ってるか分からないって?


 贅沢な奴だな。


 とりあえず俺は転生した。


 だが、みんなが期待しているチートやら前世の才能なんてものはない一般ピーポーである。


 髪色は茶髪、顔はイケメンではないが、悪くはない。


 と言っても、まだ5歳の俺としてはまぁそんなもんだろという評価だ。


 いや、俺のことなんてどうでもいい。


 それよりも、天才聡明賢者の三拍子が揃った俺は、とある計画を立てていた。


 確かに何も持っていない俺だが、唯一精神年齢が高いというアドバンテージがある。


 ついこの前も


『お誕生日おめでとう、リン。ほら、リンの大好きなケーキよ』

『ヤッホーい!!いただき……おっと。もちろん、母上と父上にも食わせるぜ』

『さすが俺たちの息子だ』

『もう立派な大人ね』


 と言われる始末。


「まいっちゃうね」


 さて、話を戻そう。


 早熟である俺は、やはり周りの男児共と比べて大人であろうことは確実。


 そこで


「小さい時から美少女に唾をかける」


 これが天才である俺が思いついた答えだ。


「というわけで母さん、父さん、俺はまだ見ぬ美少女に出会うために旅に出るよ」

「可愛い子には旅をさせよ……行ってきなさい」

「男に別れの言葉はない」

「ありがとう二人とも」


 満を持し、俺は遂に家から出た。


「夕方には帰ってくるのよー」


 最後に母親のそんな言葉が聞こえた。


 ◇◆◇◆


 正直言って、美少女なんてそう簡単にいるはずがない。


 王都ならまだしも、ここは田舎の村。


 規模が大きいとはいえその差は歴然である。


 だから美少女探しと言ったが、本音はただの散歩である。


 ストレスが溜まるとこうして歩くのが日課だ。


「期待しちゃってるのかもなー」


 俺には才能がない。


 勉強も今は周りより出来ても、将来は分からないし、運動も毎日頑張っているが成果は感じられない。


 そして、この世界には皆の憧れ魔法というものがあるが、俺にはどうやら難しすぎた。


 初級魔法と呼ばれる簡単なものは使えるが、中級レベルになるとからっきし。


 転生しても、やっぱり俺は俺だった。


「ナイーブな俺カッケー」


 中身と反して軽口が飛び出る。


 それが俺の癖であり、長所であり


『お前なんかウザいな』

「うるせー」


 長長所でもある。


「あーあ、盗賊でも襲ってこないかなー」


 大量の盗賊が村に押し寄せ、村人達が襲われる。


 そして目麗しい美少女が襲われる瞬間、颯爽と現れる俺。


 そして、盗賊に向かってこう言ってやるのだ。


「そこまでだ!!」

「あん?」


 およ?


「誰だお前」


 幼い声。


「え?みんなのアイドルリン君とは俺のことだけど知らないの?」

「知るか!!」


 俺の目の前には幾人もの幼い男児。


 その手には


「まさかイジメか?」


 餓鬼らしくしょうもないことしてるな。


「やめとけやめとけ、そういう黒歴史は将来響くぞー」

「意味わかんねーこと言うなよ!!」

「おっと、お子ちゃまには難しゅうございやしたね」


 俺の言葉は分からないようだが、煽られてるのを察したのかイライラが隠せないキッズ共。


「そもそもイジメじゃねーよ!!これは正義の行いだ!!」

「正義?」

「こいつの髪変なんだ。きっと呪われてるんだよ」

「ふ〜ん」


 前世なら迷信だと吐き捨てていたが、異世界ともなれば呪いが本当に存在するのかもしれない。


 念のため、俺も確認するか


「お?」


 目線を奴らの後ろに集中させると、黒い髪が見えた。


「へー、黒髪なんてこの世界にいたんだな」


 この世界の人間は髪の色カラフルなのが常識だからな。


 こうして黒髪を見るのも久々だ。


 まぁそれは置いといて


「この程度でビビるなんてやっぱお子ちゃまだな」

「はぁ!?」


 分かりやすくキレたキッズは


「みんな!!こいつボコボコにしようぜ」


 集団で襲いかかってくる。


「ふっ、悪いが俺の格闘術でコテンパンにーー」


 ◇◆◇◆


「大丈夫?」

「これが大丈夫に見えるなら、お前の頭は俺より重症だろうな」

「大丈夫そうだね」


 俺は顔をミミズ腫れだらけにしながら地面に仰向けになる。


 この世界治安悪過ぎだろ。


「あの……ありがとう」


 髪で顔が見えないが、声的に女の子と分かる少女がお礼を口にする。


「ありがとう?ただ俺は餓鬼を煽って返り討ちにしただけだ」

「彼ら、最後は私じゃなくてあなたを見てた」

「へぇ」


 多分背丈的に同い年と思われるが、賢いな。


 いじめの標的を俺にしただけの話だったんだが、分かるんだな。


「だから……ありがとう」


 少女は再度、お礼を述べる。


「気にすんな」


 お陰で溜まってたストレスは霧散した。


「でも」


 だが


「もう私に関わらないで」


 また少し、快くないストレスを抱えた。


「私は呪われてるから。この髪、分かる?」

「分かるな」

「……そう。ならもうーー」

「綺麗な髪だな」


 この世界の基準は知らないが、前世日本人の俺からすれば普通、むしろきめ細かくて綺麗だと思った。


「……本気で言ーー」

「本気だ」


 残念、このマシンガントークのリンの異名を持つ俺が、他人に会話の主導権を握らせるとでも?


「いいじゃないか、特別って感じで。少なくとも俺は好きだし憧れるな」


 腫れた顔で情けなく笑いかける。


「でも……でも……」

「あぁ、もうめんどくせぇ」


 俺は座り、少女と向き合う。


「悪いがお前は俺を怒らせた。お前がいくらピーチクパーチクほざこうが、俺はもうお前と関わってやる。関わりまくって心の底から離れてくれって思うまで纏わりついてやる」


 だから


「だから、そんな顔するな」


 啜り泣く声。


「いいの?こんな……私と一緒で……」

「おうよ!!いいねいいね、呪われた少女と一緒なんて正に主人公だ」

「……」


 少女がポロポロの涙を零す。


「ふむ」


 人生=彼女いない歴の俺からすれば、いくら相手が少女といえど、どう対応すればいいか困るな。


 だから苦肉の策で


「てか顔が良ければ正直髪色なんて関係ないしな」


 最低な発言をぶちかます。


「……」


 少女の涙は引っ込み、口を半開きにした少女は


「ふふ」


 口に手を当て


「さいてー」


 一瞬見えたその顔は


「美少女じゃん」


 それは彼女と俺の出会いであり、そして


 ◇◆◇◆


『金色の髪を持つ聖女は、美しく、優しく、そして純粋であるが故に世界に絶望し、深く暗い光で世界を包むであろう』




「なんじゃありゃ」


 とある平地にて、ジャンケンの最強ランキングを制作していた俺はとある光景を目にする。


「どうしてなのでしょう」


 金髪の少女は嘆く。


「どうして……争いは起きてしまうのでしょう」


 その少女を前に、二人の少年がボロボロになりながら掴み合いになっている。


「アリスちゃんは僕のものだ!!」

「違う!!俺のだ」


 どうやらこの年で女を掛けて争っているらしい。


 なんとも青春な光景だが


「女の子嫌がってんじゃん」


 本当は嬉しいのかもだが、女心の分からん俺としては


「なぁお前ら」

「「「え?」」」


 突然の乱入者に、三人の驚きの声が重なる。


「俺はお前らの事情なんて知らんが、そうやって争っても全員が傷付くだけだ」


 俺は拳を前に出し


「ジャンケンで決着つけようぜ」

「「「ジャンケン?」」」


 キョトンとしている三人に、俺はルールを説明する。


「よし、じゃあ早速。ジャンケン」

「「ポン」」


 男の子二人は片方がパーで、もう片方がチョキを出す。


「決まりだな」


 俺はキメ顔をかました。


 俺がこの戦いを終わらせてやったのだ。


「あの!!」


 すると、私のために争わないでちゃんが話しかけてくる。


「ありがとうございます」


 こうして近くで見ると、確かに取り合う理由が分かる。


 幼いながらに将来の恐ろしさに本能的に震えた。


 むしろ争いが二人しかいないのは幸運……というより


「残った二人か」


 傾国の美女とか、魔性の女とか、子供でこれはあかんでしょって見た目だ。


 俺がロリコンだったら既に堕ちてたぜ。


 ちなみに俺の好みの対象は12〜17歳である。


「お礼なんていいよ」

「そんな、あなたは争いを止めてくれました」

「そう?」


 俺は目線を誘導する。


「え!!」


 少女が声を上げる。


「こんなので決まってたまるか!!」


 負けた方が怒りを露わにし、また襲いかかっている。


「そんな……」


 少女の顔が曇る。


「なぁ」


 多分成長すれば俺も惑わされるのであろうその美貌を惜しみながら


「争いを止めるなんて無理なんだよ」


 俺は突き放す。


「そんな!!いつか分かり合える日が……」

「理想論結構、だがこれが真実だ」

「……」


 せっかく血を流さない解決策があるのに、奴らは拳を選んだ。


 それが答え。


「夢を語るのは俺も好きだ。だけど」


 俺は毎日の積み重ねを思い出し


「現実ってのは非情だ」


 才能がない俺が英雄になんてなれないし、世界平和なんてものは生まれない。


「それじゃあ……私はどうすれば……」


 よーし、みんな思い出してみよう。


 俺の目の前にいる少女は俺と同い年くらいで、俺の年は今5歳。


 さすがにやばいと感じた俺は


「安心しろ、俺が今から世界平和を作ってやる」

「え?」


 俺は掴み合っている二人の頭を掴み


「愛だよ」


 ブチュ


「愛こそ世界平和への礎だ」


 そして奇跡は生まれた。


 俺は感動のあまり涙を流す。


 先程まで啀み合ってた二人が突然唇を交わした結果、混乱と動揺、そして後に湧き上がる怒り


「正解だ」


 共通の敵が現れたことを認識した二人の少年は


「ジャンケンで一番強いのは、本気のグ」


 ◇◆◇◆


「あれ?痛くない」


 殴られた筈の顔から痛みがなくなっていた。


「ごめんなさい」


 おっと、お礼じゃなくて謝罪か。


「私のせいで……」

「自意識過剰乙」


 俺は座る。


 喧嘩していた二人は共通の敵ができたせいか、仲良く二人で帰っていった。


 少女についてはまた今度決着をつけるらしい。


「な、平和だっただろ?」

「どうして……助けてくれたんですか?」


 少女は尋ねる。


「え?可愛かったから」

「え?」

「多分君が可愛くなければ俺はジャンケンだけさせて帰ってた。だけど、君が可愛かったから助けようと思った」

「それは……」

「そう理不尽であり、現実だ」


 5歳児相手にこの語彙!!


 さすが俺だ。


「だけど俺は好きなんだよ、そう言う矛盾」

「矛盾?」

「えっと、全然違う気持ちになること」


 説明むずいな。


「俺はさ、夢があるんだ」

「夢、ですか?」

「ああ。いつか漫画に出てくるヒーローみたいに、カッコよくて強い、そしてみんなを救える人間になりたいって」

「素晴らしいと思いますよ?」

「そうだな。でも実際の俺は弱くて、ダサくて、そして好きな人しか助けようとしない」


 それが今の俺。


「おかしいだろ?目指していると言いながら全くの逆」

「……」

「でも、憧れは止められない」


 頭で分かってても、心が止められない。


「お前のその平和を目指すってのはいいと思うぜ。夢はでっかくだ」


 俺は不思議と軽い体で起き上がり


「せめて目の前の人間くらい救えるといいな」


 おでこに指を当て「瞬間移動!!」と叫びながら俺は帰るのであった。


「名前……聞きそびれちゃいました」


 ◇◆◇◆


『真白の髪を持つ戦乙女、己の殻に閉じこもり、やがて世界は武器と一つになるであろう』





「この鍛えられた俺の腕を見せる時が来たようだ」


 村でチャンバラ大会が行われるらしい。


 幼少より体を鍛えている俺では対戦相手も可哀想と言う他ないだろう。


「リン君、次ですよー」

「お姉さん、しっかりと俺の勇姿を見といくれ。必ずあなたに勝利という花束をプレゼントしてあげよう」

「早く行ってねー」


 どうやら照れているらしいお姉さんを背にし、前に出る。


 そして


「あ」


 察す


「負けたわ」


 俺の正面に立つ少女。


 純白の髪色をした少女は、生まれ持った素質の違いを凡才である俺でも分かる程、クッキリと顕著に表していた。


「やめておいて」

「棄権しろって?」

「怪我しちゃうよ」


 少女は辛そうに喋る。


 確かに頭脳ならまだしも、身体という面で俺はそこらの子供と大して変わらない俺が勝てる筈もないのだろう。


 だが


「ムカつくな」


 俺は剣を構える。


「ぐっへっへ、こんな女の餓鬼にこのリン様が負ける筈がないんだよぉ」

「……」


 とりあえず負けるならありったけ三下ムーブを決めておこう。


「俺が勝てばその綺麗な顔を舐め回してやるぜ」

「……」


 少女が引いている。


 よく見れば周りの目も引いていた。


「嫌じゃ……ないの?」

「なるほど」


 多分これだけの鬼才、周りからの嫉妬は凄かっただろう。


 いくら可愛くても、男の自分が少女に負けることが許せないのは分からないでもない。


 ないが


「答えはNoだ」


 当然だろう。


「俺程挫折し、嫉妬し、そして復活した男はいないぜ」


 豆が出来た手で剣を握る。


 子供用で短く軽いが、それでも当たればかなりのダメージ。


「行くぜ!!凡人が天才を超え」


 ◇◆◇◆


「負けました」


 何故顔だけにダメージがいくのだろうか。


 世界は俺の顔に恨みがあるのか?


「みんな……辛そうだった」


 悠々と優勝した少女は、敗北者である俺の元に来る。


「どうして君は楽しそうだったの?」

「答えにならないが、逆に聞く。どうしてお前は辛そうな顔をする」

「え?」


 俺の問いかけに困惑する少女。


「だって」

「だってみんなが辛そうだからか?」

「……」


 俺の大好きな言葉狩りを決めてやったぜ。


「俺が楽しそうだったのは想像したからだよ」

「想像?」

「もしお前みたいな本物に勝てたら、俺は尊敬され、崇拝され、嫉妬されるだろうと」

「それは」

「なぁ当事者」


 目が合う。


 綺麗な目だ。


「周りの目は思ってるよりも良いものかもだぜ」


 少女が周りを見れば、確かに拍手をしている人々の姿が目に入る。


「優勝おめでとう」


 俺は拍手を浴びせる。


「未来の英雄と戦えたこと、光栄に思う」


 少女は今までの暗い感情ではなく、明るい感情に晒され、顔を赤くする。


「ねぇ」


 そして更に顔は赤くなり


「また……遊ぼ?」


 いくら強くても、やはりまだ子供だった。


 しょうがない、俺は大人だからな。


「ちょっと嫌かも」


 だって普通に悔しいもん。


 ◇◆◇◆


 これが、俺と幼馴染達との出会いであった。


 そして俺が


「何だこれ」


 あの予言書を拾うのは、もう少し先の未来である。







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