第12話 休日の出来事
翌日からモヒくんは家にバイトとして来てくれるようになった。午前中は畑の作業をして午後はスタジオの機材を覚え始めたようだ。お昼と3時には長めの休憩をとり私と遊んでくれる。山里の日々は少しずつ動き始めた。
土、日はモヒくんが休みだ。ママは忙しいし、とーたんは昨日遅くまで仕事したらしくまだ起きてこない。
退屈になった私はモヒくんに遊んでもらおうとお隣さんへ出かけた。
里山の景色は透明感が増して綺麗だ。空気は東京より新鮮な感じがする。
坂道を降り、モヒくんの家が見えた。モヒくんはバイクに乗ろうとしている。
「モヒく〜ん!」私は大きく手を振る。
モヒくんは気がついたようでこっちを見てくれた。その瞬間道の横にある茂みから鹿が私の方に向かって来た。
「きゃ〜!」私は怖くなって悲鳴をあげその場にしゃがみ込む。
『バタバタバタ』バイクの音が急足で近づいてくる。
「大丈夫かい志音ちゃん」私を抱き上げてくれた。
鹿はバイクの音に驚いて逃げ出したようだ。
「モヒくん、怖かったよ〜」私は涙目になってしまう。
「しっかり背中につかまってるんだぞ」そう言ってバイクの後ろに乗せると家まで送ってくれた。
私は蝉のようにモヒくんの背中にしがみつく。家へ帰ると洗濯物を干していたママが駆け寄ってきた。
「志音どうしたの?」
「うん、モヒくんちに遊びに行こうとしたら途中で鹿が出てきて怖かった。でもモヒくんがバイクで来てくれて助けてくれたの」私はバイクから降りる。
「そうなの、真人くんありがとう」
「子供の鹿だから大丈夫だと思うんですが、突然出てきたら誰でも驚きますよね」少し笑っている。
「どうしたんだい」とーたんも眠そうに起きてきた。
パパとママを見たら少し安心した、しかしその瞬間咳が出て来た。
「ゴホン!ゴホゴホ…………ゼイゼイ……………」私は息が苦しくなりその場にしゃがみ込んだ。
「大丈夫か志音、とーたんは私を抱きかかえて家の中に入りソファーに寝かせてくれる。ママは吸入器を出して咥えさせてくれた。
モヒくんは玄関から心配そうに見ている。
しばらくして落ち着いた私は起き上がるとモヒくんの所へ来た。
「ごめんねモヒくん、何処かへ行く用事があったんでしょう?」切ない顔をした。
「大丈夫、大した用事じゃないから」微笑んでくれた。
「志音、もう少し横になってなさい」
「はい…………」私はソファーに戻り横になった。
「真人くん、ありがとうね」とーたんはモヒくんにお礼を言っている。
モヒくんはバイクに乗り出かけて行った。
「志音ちゃん、最近発作が出ないからと言って油断しちゃだめよ」ママは優しく私の髪を撫でいる。
私はただ頷いた。
とーたんは背中をさすりながら「しっかり喘息を治そうな」そう言った。
私はただ頷いた。
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