第11話 大冒険
「志音ちゃん、大丈夫かい、窓を開けようか?」俺は喘息が心配になっている。
「うん、少しだけ開けてくれたらそれでいいよ」嬉しそうに俺を見た。
俺は少しだけ窓を開けると換気する。志音ちゃんは嬉しそうに景色を見ている。
軽トラックは川沿いの道を軽快に走っていく。心地よい風が狭い車内へ入り込み、志音ちゃんの前髪を少し揺らした。
「私とーたんやママと一緒じゃなくて何処かへ行くのは初めてなんだ、大冒険だよ」嬉しそうに話した。
「そうなんだ……………」俺は何を言ったら良いか思いつかず、言葉が出ない。
「モヒくんは本当に不良なの?」
「えっ?」
「だってタバコを吸わないじゃん」不思議そうに俺を見ている。
「俺、タバコは体に合わないんだ」
「そうなんだ、良かった。タバコを吸う人とは車に一緒に乗れないんだ、喘息が出やすいから」
「そう言うことか」俺は納得する。
「本当は私中一の歳なの、でも喘息で学校に行けない事が多かったから……………」
「そうなんだ、大変だったんだね」
「でもここに来たら喘息が出なくなったんだ、だからこれから楽しい事がいっぱい待ってるかも」
「きっと楽しいことがいっぱいあるよ」俺は少し心がチクッとした。
ホームセンターへ到着すると柵の材料を買う。志音ちゃんが嬉しそうに支払った。
車に材料を積み込もうとしたら志音ちゃんが金魚を売っている所で立ち止まった。
「金魚可愛い………綺麗………」座り込んで見ている。
「材料を積み込むまで見てていいよ」声をかけると嬉しそうに頷く。
帰り道で「金魚を飼いたいなあ…………あの金魚1匹だけ売れ残ったんだって」ポツリともらした。
「家に使ってない水槽があるからあげるよ」
「本当?」志音ちゃんは目を輝かせた。
「家では犬や猫なんかは飼えないの、喘息のせいで…………金魚なら飼えるかなあ……」
「どうだろう…………」
志音ちゃんは帰ると直ぐに一樹さんへ話した。
「ねえとーたん、金魚飼ってもいいでしょう?ねえお願い」両手を合わせて拝んでいる。
「どうだろうねママ」心配そうに聞いている。
「まあ金魚だったら大丈夫だと思うけど…………」美夜子さんは眉を寄せ少し考えている。
「モヒくんが使ってない水槽をあげるって」俺を見た。
「もし飼っても大丈夫なら遠慮なく使ってください」
「じゃあ………金魚を飼いますか、でも念の為外で飼うんだよ」
「やった〜!金魚が飼える」志音ちゃんは大喜だ。
「じゃあ今すぐ買いに行く」そう言って確認するように俺を見ている。
「真人くんは予定があるかも知れないよ」一樹さんも俺を見た。
「俺は大丈夫ですよ」ゆっくり頷く。
「やった、モヒくんありがとう」志音ちゃんはまた嬉しそうにリュックを背負う。
金魚と浮き草、エサを買って帰って来ると、そのまま家へ寄って水槽を持ってくる。
テラスの隅に台を置いて水槽を設置した。金魚を入れると動物や鳥に悪戯されないように網で覆う。志音ちゃんはずっとニコニコしながら見ている。
終わって帰ろうとすると志音ちゃんが近づいてきて「ありがとうモヒくん」そう言って深くお辞儀した。
「またね」そう言って俺は軽トラに乗り込み家へ向かった。
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