第10話  志音の苺畑

真人くんとテラスへ出てきて、テーブル席へ座った。


「ねえ、畑で何を作るの?」志音がテラスに出て来ると聞いてくる。


「インゲンやほうれん草、白菜なんかも出来るらしいよ」私はニッコリした。


「ふ〜ん、そうなんだ」志音は薄い反応だ。


それを見た真人くんは「イチゴも植えられるよ、5、6月くらいに収穫して食べれる」微笑んで志音をチラ見する。


「えっ!イチゴが食べられるの」志音の目がキラリと輝く。


「ああ、今から苗を植えると食べられるよ」真人くんが頷いた。


志音は突然テラスから飛び降りて畑に行くと、近くにあった棒で四角に線を描き「ここは志音のいちご畑!」満面の笑みでそう言った。


私と真人くんは肩を震わせて笑った。


「なんで笑うの?」志音は口を尖らせている。



「一樹さん、畑に色々植えてもここら辺では鹿や猪にみんな食べられちゃうんですよ、だから周りに柵が必要なんです」


「そうなんだ、どうしたらいいんだろう」私は思案する。


確かに里山の畑は何処も柵がしてある事を思い出した。


「俺、柵の材料を買ってきて畑の周りに作りましょうか?」


「そうしてくれると助かるなあ、材料は何処に売ってるんだい?」


「ここから秩父に下りて行くと太田に一番近いホームセンターにありますけど」


「そうか、では買ってきてもらえるかな?」


「分かりました、早速行ってきましょう」


「お金を渡さなくちゃあね?」私が言うと、「志音が財布を持って一緒に行く!」慌てて中に入ると小さなリュックを背負って出てきた。


美夜子もテラスへ出てきた。


「吸入器はちゃんと持った?」美夜子が心配そうに志音を見ている。


「大丈夫、きっと喘息は出ないよ」自信ありげだ。


「真人くん、志音が一緒に行っても大丈夫?」


「俺は問題ないですけど………」判断に困っている。


「まあ大丈夫だろう、もし喘息が出ても志音が自分で何とかするんだぞ」私は志音に諭す。


「大丈夫だよ、とーたん」志音は何度も頷く。


志音は軽トラックの助手席へ嬉しそうに乗って手を振っている。


「パパ、志音に甘すぎるんじゃない?」軽トラックを見送りながら美夜子が一言漏らす。


「今まで自由に何処へも行けなかったからな」私も軽トラックに手を振った。


「そうね…………」

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