第9話  アルバイト

翌日テラスにいると、耕耘機を後ろに乗せた軽トラックがバックで駐車場へ入ってくる。


「こんにちは、畑を耕しに来ました」タオルを首にかけ真人くんが元気にやってきた。


「ありがとう、助かるよ、何せ畑は初めての経験なんでね」私は頭をかきながら少し笑った。


「大丈夫です、小さい頃から家の手伝いで慣れてるんで」そう言って軽トラから耕耘機を手際よく下ろし、1時間ほどで畑を耕してくれた。


テラスには美夜子がコーヒーを用意してくれている。


「真人くん、コーヒーが入ったよ」私は彼を手招きした。


「お疲れさん、あっという間に綺麗な畑になったね、私も手伝いたかったけど、邪魔になりそうでね………」コーヒを進める。


「ありがとうございます、しっかり耕したんであとは下地を作らないといけないですね」真人くんは畑を見ている。


「色々と教えてくれるかな」私は真人くんにお願いした。


「任せてください、きっと美味しい野菜が取れる畑になりますよ」真人くんは自信ありげだ。


テラスは土の香りと緑の香りが混じり合い里山の香りが強くした。



「あのう………アルバイトが必要なんですか?」真人くんが不思議そうに聞いてくる。


「そうなんだ、実は助手が必要でね」


「俺でも出来るでしょうか?」不安そうだ。


「真人くんはバンドをやってたから、一般の人より楽器のパートや役割が解ってるので助かるよ」


「本当ですか?だったら是非やりたいです」嬉しそうに瞬きして頭をペコリと下げた。


そこへサンドウィッチをトレーにのせ、神妙な顔で落とさないように志音がテラスへ出てきた。


「志音、真人くんがアルバイトにウチへ来てくれるぞ」


「えっ!志音と遊んでくれるの?」


「たまにはね、真人くんはお仕事で来てくれるのよ」美夜子が微笑みながらお茶を運んできた。


「志音ちゃんと遊ぶのはお金はいらないですよ」真人くんは笑った。


「あら、それが一番大変かも知れないわよ」美夜子は笑っている。


志音は頬を膨らませた。


「真人くん、作業場が片付いたよ」そう言ってテラスから中へ案内した。


中はレコーディングスタジオになっている。真人くんは音が出るくらい瞬きした。


音響調整卓(ミキサー)の周りには沢山のエフェクターが並んでいる。組み立てたドラムセットの周りにはパーカッションなども並んでいる。数本のエレキギターやベース、電子ピアノやシンセサイザーも並んでいる。

そして録音する業務用テープレコーダーが威圧感を放っていた。


「凄い…………………本当に音楽を作る仕事なんですね」


「えっ、冗談だと思ってたのかい?」


「いえ、そんなことは無いですけど……初めて見たんで……俺本当に役に立つんですか?」不安そうだ。


「大丈夫、直ぐに使い方が分かるよ、バンドが何をやってるから体が知ってるからね」私は微笑んだ。


真人くんはゆっくりと後退りしながら小さく「はい……」と答えた。

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