第8話 縁側会議
数日経つとログハウスの中は整理され、心地良い居住空間となっている。
私はテラスに置かれた椅子に座り、横にある畑を見ていた。
ログハウスを建てるとき、隣の畑だった土地も買う事にしたのだ。
しかしその畑は随分放置されてるようだった。
これから冬になって行くのだが、畑を始めた方が良いのか思案している。
自給自足は夢だが、何も経験は無いしどこから手をつけて良いのか分からない。
「はいコーヒーよ」美夜子がテラスに出て来た。
「ありがとう」コーヒーを受け取って少し啜った後、私は美夜子に畑のことを相談してみる。
美也子はしばらく考えると「とりあえず浅見さんに相談してみたら?」そう言って畑を見ながらコーヒーを飲んだ。
「そうだね、それが良さそうだ」私はゆっくり頷いた。
早速お隣さんを訪ねた。「こんにちは浅見さん」
浅見さんは庭の手入れをしている。少し黄色になり始めた山紅葉が秋の深まりを感じさせた。
「引っ越しは一段落しましたか?」正司さんはニッコリ微笑んだ。
「お陰様でなんとか片付き、無事に生活できるようになりました」私は会釈する。
「それはよかった、まあお茶でも」正司さんは作業の手を休めると、日当たりの良い縁側へ招いてくれた。
心地よい縁側に腰を下ろすと早速相談してみる。
「家の横にある畑をなんとかしたいと思うのですが、何も経験がないんですよ」
「そうですか、10月は気温が下がって来るけど虫や雑草も落ち着くので初めても良いんじゃないですかね」
「そうですか、どんな物を植えたら良いんですか?」
「そら豆やサヤエンドウなどの豆類や、小松菜やほうれん草もいいですね、後は白菜もいいでしょう」
「それは良いですね」私は一瞬、成果を想像して嬉しそうに頷く。
「はい、お茶をどうぞ」奥さんの佳子さんがお茶菓子と一緒に縁側会議へ参加した。
「でもしばらく放置された畑だから、まず耕して下地を作らなきゃあね」佳子さんがアドバイスをくれる。
「それじゃあ真人に耕耘機で耕すように言っておきますよ」
「それは申し訳ないですよ」私は思わず恐縮する。
「良いんですよ、あいつは仕事もしてないんですから」少し眉を寄せた。
「真人くんはとても良い子じゃないですか、あんな息子さんが居て羨ましいですよ」私はお茶を飲みながら言った。
「昔はいい子だったんですがねえ、高校になった頃からバイクに乗ったり喧嘩したりと一端の不良ですわ」正司さんは頭をかきながら苦笑いしている。
「兄の賢治は真面目で信用金庫で働いてるんですが、真人はどこへ行っても直ぐに辞めてしまうんですよ、困ったもんですわ」正司さんは少し肩を落とした。
私は少し考えると、ある提案をしてみることにした。
「もし本人が良ければ、真人くんにしばらくウチでアルバイトしていただく訳には行きませんか?」
「それは有難いですが、あの調子なので迷惑をかけると困りますなあ」正司さんは唇をへの字にして思案している。
「お父さん、折角ああ言ってくださってるんだからお願いしたらいいんじゃないですか?」佳子さんは頷いた。
「それでは真人くんに話してみて、もし本人が納得してくれたなら是非お願いします」私は頭を下げる。
「それでは真人に言っておきますのでよろしくお願いします」正司さんは頷いた。
「私の仕事の助手や畑仕事、もしかしたら志音の遊び相手もお願いするかもしれませんが」
「志音ちゃんの遊び相手なら出来るかも知れませんね」佳子さんが笑った。
「それが一番しんどいかも知れませんよ」私も笑った。
縁側会議は無事に終了した。
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