第4話  おもしろい物 

「トラックの奥にある荷物は音響屋さんの物ですか?」真人くんが不思議そうに聞いてくる。


「いや、あれも全部私の荷物なんだよ、ウッドデッキテラスの奥にある作業部屋へ運び込むんだ。重い物が多いから本当に助かるよ」


テラスに出られる作業部屋の大きな二重窓を開けると少し変わった内装になっている。壁には黒いスポンジのような吸音材がはり詰められている。リビングとの境には煉瓦が積み上げられ重厚を醸し出していた。


「荷物をおろしたら面白い物を見せてあげるよ真人くん」


「えっ、なんですか?」


「それは運んでからのお楽しみ」私はニッコリ立ち上がってまた荷物を運び始める。


「黒いケースがいっぱいあるんですね?」真人君は不思議そうに運んでいる。


最後に大きなケースが3個残った。


「この3個で最後だ、これらを1人でトラックに乗せるのは大変だったんだよ、真人君がいてくれて助かったよ」


真人君は少し嬉しそうに頷く。

私はケースの下についているキャスターのロックを外し、ガラガラと押してゲートの前へくる。

『ウイーン』パワーゲートが荷台と同じ高さになると、ケースを押してゲートに載せる。

『ウイーン』今度はゲートを下げて地面へ下ろし少し押してテラスの前まで運んだ。


「真人君、テラスの上へ上げるよ」そう指示して2人で大きなケースをテラスに引き上げる。そして窓から作業部屋へ運び込んだ。

残りの2個もなんとか部屋へ運び込んだ。汗だくになった2人はお互いを見て少し笑った。


「いや〜、ありがとう真人君、早速このケースの中を見てくれよ」私は金具のロックを外してケースを開ける。


「えっ!これは………」真人君は言葉を失った。


中から高級な木目のドラムが姿を表す。


「ソナーのドラムセットじゃないですか!俺初めて現物を見ましたよ」音がする程瞬きしている。


「早速組み立てようよ真人くん」私は得意顔でドラムセットを組み立てた。


シンバルも取り付けドラムセットは完成した。とても美しくて輝いている。


「やっぱり本物は違うんですね、俺が叩いていたドラムがオモチャに感じます」


「叩いて良いよ」スティックを取り出して真人くんへ渡そうとした。


「今日はやめておきます」そう言って手を横に振りスティックは受け取らなかった。


「じゃあ叩きたくなったらいつでも言ってよ」


「はい………」真人君は大きくため息をつく。


「さて、このケースの物を台の上に置きたいんだよ」私はもう一つの幅の広いケースを開ける。


中からダイヤルやメーターが所狭しと並んだ音響調整卓が出てきた。


「うわ〜!こんなミキサーは初めて見ましたよ、何がどうなってるか全く分かりません」呆気に取られている。


「せ〜の!」気合を入れ2人で台の上に上げた。


最後の箱からは大きな16トラックのテープレコーダーが出て来た。そのレコーダーをラックの横へ運びセットする。


「ありがとう真人君、これで後は何とかなりそうだ」私は嬉しそうに握手した。


真人君は少しだけ困ったような表情をした。

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