第2話  お隣さん

木の香りが強くする室内は入り込む光で丸太の節までよく見えている。

1階の間取りは3LDKと作業部屋が別にある。階段を上がると広いロフトが作られている。家の前には広いウッドデッキも付いている。


「ここが志音の部屋だよ」私はドアを開けて案内した。


「今日から1人で寝るの?」志音は少しさみそうな顔だ。


ベッドやテーブルなど大きな家具は、全てこの家に似合うものにしようという事で新しい物を買った。

既に業者から配達されていたので、一通り揃っている。

前に住んでいたマンションからは衣類や雑貨など身の回りの物を今日運んできたのだ。


「ほら、リビングのソファーやテーブルもいいだろう」私は自慢げに二人を見た。


「ママ、とーたんのセンスどう思う?」志音は室内を見回している。


「まあ………とりあえず合格ラインは超えたかもね」美夜子は口角を上げた。


「とーたん、良かったね合格がもらえて」志音も微笑む。


とりあえず持ってきた水筒からコーヒーを入れて一息ついた。


「そうだ、家を作るのにお世話になったお隣さんへ挨拶に行かなきゃ」私はゆっくりと立ち上がる。


用意してあった手土産を持ち、みんなでお隣さんへ向かった。

里山の景色はとても素晴らしい、木々の緑や草花が都会とは全く違う鮮やかさだ。

坂道を下ると5分程でお隣さんへ到着した。浅見アザミさんの家は広い庭があり良く手入されている。

ふとガレージを見て私と美夜子は固まった。

先程、志音が手を振ったモヒカンのバイクが駐車してあるのだ。


「ウソ……でしょう」美夜子が大きく瞬きしながら一言つぶやく。


恐る恐る玄関へ近づくと『ガラガラ』と引き戸が開いて優しそうなおじさんが顔を出す。


「こんにちは浅見さん、お世話になってます、妻の美夜子と娘の志音です」私は頭を下げる。


「こんにちは、ようこそこの里山へ、浅見です宜しくお願いします」正司ショウジさんは深々と頭を下げている。


「お陰様で今日引っ越しです」私も恐縮しながら深々と頭を下げた。


美夜子と志音も「これからお世話になります、どうぞ宜しくお願いします」そう言って頭を下げた。


「じゃあ引っ越し屋さんがきてるんかね?」


「いえ、自分達で済ませようと思い、トラックを借りて荷物を運んできました」


「それは大変だ、では息子に手伝わせましょう」そう言って家の方を向くと声をかける。


私と美夜子は顔を見合わせた。


「お〜い真人マサト!お隣さんの引っ越しを手伝ってくれ!」


「ああ……」不機嫌そうに出てきたのは髪を洗って拭きながら出てきたモヒカン青年だった。


「あっ!モヒくんだ!」また会った事に喜んでいる志音に私たち夫婦は苦笑いしかできない。


髪を洗ってモヒカンヘアーでは無くなった彼は意外に可愛い顔をしている。


彼は志音に近づくと少し屈んで「おっす」そう言って微笑んだ。


志音は少し背伸びして「おっす」そう言ってニッコリした。


緊張が一気に解れて、私たち夫婦は溶けたバターのような情けない笑顔になってしまう。


「こちらはあのログハウスへ引っ越しして来られる白河一樹シラカワカズキさんと奥さんの美夜子さん、そしてお嬢さんの志音ちゃんだ、引っ越しの手伝いをしてきてくれ」


「ああ、いいよ」そう言ってこちらを見るとペコリと頭を下げた。


4人はログハウスへと向かってゆっくりと歩き出す。

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