星降る夜のセレナーデ
紫恋 咲
第1話 田舎へ
「ねえあなた、この車大丈夫?」妻の
「大丈夫だよ多分………」私は眉を寄せてハンドルを持つ手に力を入れた。
「とーたんの大丈夫は信用できないよママ」娘の
「そうね、パパの大丈夫は危険よね〜……」母と娘は顔を見合わせて頷く。
「やっぱり引っ越し屋さんに頼んだ方が良かったんじゃない?」美夜子は唇をすぼめた。
知り合いから借りたトラックは『ガタガタ』と頼りない不協和音を響かせ田舎道を走って行く。
黄色く色付いた稲穂はまるで命令されたかのように同じ方向へ首を垂れている。
空は青くカラ元気を出していて、10月だと言うのにまだ暑さが絡み付く。
エアコンの効きが悪いこのトラックは蒸し暑くて、志音は窓を開けた。
突然『バタバタバタバタ!』けたたましく重低音を響かせ、一台のバイクが追い越してトラックの前へ割り込む。
見ると若い青年が運転している、しかもヘルメットはぶら下がっていて被っていない。
彼の頭は風にも負けていないガチガチに固められたモヒカンヘアーだ。
直ぐに走り去ってくれれば良いのだが、トラックの前をまるで先導するように走っている。
「とーたん、あの髪は?」志音が不思議そうに聞いてくる。
「あれはモヒカンっていうんだ」私は何となく答える。
志音は窓から顔を出して「モヒカンく〜ん」叫んで手を振った。
「モヒカンく〜ん!………モヒく〜ん!!!」さらにニッコリと手を振った。
バイクの青年がジロっとこちらを睨む。
美夜子は慌てて窓をしめる。
バイクは速度を上げてやがて見えなくなった。
「ふ〜……志音、ダメでしょう、知らない人にいきなり手を振っちゃあ!」
「だってママ、髪が面白かったんだもの」志音は笑った。
娘の志音は小学6年生だ、喘息で学校を休むことが多かった、だから一年留年している。本来なら中学一年のはずだ。
東京の生活は空気が志音に良くないと言うことで、この秩父に家を建て引っ越すことにしたのだ。
ツインテールの娘は母親似でとても可愛い。最も親の欲目と言うやつかもしれないが。
トラックはやがて山道を登り始め、エンジンは苦しそうに悲鳴を上げた。
さらにクラッチが擦れて焼けた匂いが運転席まで匂ってくる。
「とーたん、なんか変な匂いがするよ?」
「そうだね〜、でももう少しで到着するから」そう言ってアクセルを踏み込む。
木々のトンネルを抜けると眺めの良い山里の景色が広がる。
トラックは息を切らしたようにログハウスの前へ到着した。
「着いたぞ〜、どうだ志音カッコいいお家だろう?」
山里の景色がパノラマのように広がる場所に建てられらログハウスは、濃い緑に寄り添われ家族を待っていた。
「丸太ばっかりでクマさんのお家みたい」
「まあ中に入って見てごらんよ」私は玄関のドアを開ける。
「ふう………無事に辿り着けて良かったわ」美夜子は溜息混じりに漏らす。
「いらっしゃい、ようこそ森の木の家へ」私は2人を中へ案内した。
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