第7話:エルフのテント村
「さて、公園に来たわけだが。アンナ、あのテントの群れだな?」
「超嫌なんですけどぉ。あいつらと会話するとか、頭痛薬一瓶は欲しいですぅ」
数日ほど警察や軍、法務省に労働省と、エルフを詳しく知っていそうな関係各所に問い合わせ、奴らについてひたすら聞き込みをしたが、結局直接森に乗り込んだ俺以上に詳しい人は居なかった。
という訳で嫌がるアンナを文字通り引きずって、エルフが不法占拠している帝都中央公園のテント村を訪れている。
前の冬にアンナが公営住宅に押し込んだってのに、また抜け出して来たんだなこいつら。
「捜査局に情報提供断られたから、直接調べるしかないって言ってんだろ。ほら行くぞ」
「だってぇ、話通じないんですよぉ!! 変な魔法薬使ってラリってますしぃ!! 煙吸ったらどうするんですかぁ!!」
”奴らにしか効果がない薬が非常に多い”という理由でエルフ魔法薬学は果てしなくマイナーな学問だし、専門家でなければ何をやっているか知らなくて当然だろう。
俺なんかその研究で学位を取ったが、あまりにもニッチすぎてケラヴノス製薬の面接に落ちたくらいだし。
それでも意外と役に立つ日は来るもので。
「煙を吸う魔法薬でラリってるってことは、公園のシラカンバから作った
アンナの話から、すぐに候補が頭に浮かぶ。
シラカンバと呼ばれる真っ白な樹は、エルフの森では非常に希少なもの。
ただ帝都ではどこにでも生えているし、奴らの欲しがる樹液も樹皮も質がいい。
そう説明する俺を、彼女は不思議そうな顔で見つめてきた。
「なんか係長、やたら詳しくないですかぁ?」
「一応、魔法薬学部卒だからな。あれは俺らで言う麻薬だよ。当然森では禁止されてるし、一時期あいつらの森に散布してやろうかと思って研究し直してた。ザフラにバレて顔の形変わるまで殴られたけど」
「あのぉ、森燃やすより酷くないですかぁ?」
まさにそれで、アンナが森に放火すると言った時に強くは言えなかった。
ただ、流石に恥ずかしいのではぐらかす。
「ともかく、取り締まりに来たんじゃないから敵意はなし。穏便に慎重に誠実に、あいつらが帝国文明の何を求めて、何に憧れてきたのかを聞き出すんだ」
「……わかりましたぁ」
「俺だってエルフは好きじゃない。でも、ここにいるのは帝都に来たくて来た奴らだ。同情と理解の余地はあると思うけどな」
「まぁ係長がそう言うならぁ。仕方ないですねぇ」
不満そうに頬を膨らましていた彼女だったが、一応納得してくれたようで。
行きたくないと座り込んでいたベンチから立ち上がってくれた。
「ってわけで、向こうに合わせてちょっとガラ悪く行くんだけど、あんまり怖がらないでね?」
「うちの家族のが怖いですよぉ」
「それもそうか……」
そして、麻薬なんかやっている連中は危ないからと忠告すると、アンナはなんともないと胸を張り。
てくてくと歩いていくと、中から馬鹿騒ぎが聞こえるテントの幕を開いた。
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