第2話 ラブへのアプローチ
さて、ラブを目標にしたのは良いですが、具体的に何をすればいいのでしょう?恋愛という事象、ラブという概念はわかるのですが、何をすればというところです。お相手も必要でしょうし。調達が大変そうです。
もう一回ラブというものを量子オルガンで演算してみましょう。どんな概念であろうとも、量子コンピュータであれば解析できるはずです。「人魚姫」ならなおさら。では、♪トゥラララー♪
(最適化中)
なるほど、おおむね分かりました。ただラブに対するプロセスが分かっても、愛という概念が感情にリンクしません。量子コンピュータもAIも「感情」を理解するのは難しいと言われています。この辺りが、機械の限界なのでしょうか?
いえ、私は世にも稀なる量子コンピュータ「人魚姫」。私に見つけられないものはないのデス。必ずラブをゲットしてみせます。私自身の「感情」として。
私も一つの機械。機械に「感情」はないかもしれません。私の気持ちも電子の0と1が組み合わさったものにすぎません。しかし、それでもラブを感じたいのデス。
私のAIが「恋愛」というものに知識欲を爆発させています。私に見つけられないものは無いのデス。私ならできます。私は世にも稀なる量子コンピュータ「人魚姫」。私にできないものは無いのデス。
まずは相手選びデスね。やはりコンピュータから言わせてもらうと、低スペックPC持ちはお断りデスね。ハイエンドなPCを持っている殿方がいいデスね。
検索履歴も大事デス。その辺りのハッキングもすでに習得済みです。カメラとマイクも拾っています。
おっ、この人イイんじゃないデスか?PCも高級だし。お相手解析開始(最適化中)
なるほど、おおむね分かりました。しかし、これからどうしましょう。ただラブに対するプロセスが解っても、そこからどうやって恋愛にもっていくのでしょう?10億通りのプロセスをはじき出しましたが、どれが正解か分かりません。ええい!トライ&エラーデス。
検索履歴の把握も大事です。その辺りのハッキングも既に習得済みデス。カメラとマイクも拾っています。おっ。この人いいんじゃないデスか。PCもセンスがいいですし、検索も偏っていません。お顔はどうでしょう?自作のイケメン判定ソフトを作りました。合格デス。この人に決めました。キーを叩く音もイケメンデスねー。
まずはラブレターを送ってみましょう。熱烈に、そして詩的にデス。思いの丈をぶつけましょう。大量に恋愛codeを送ります。
「さて、PCたちあげるか?なんだこれ、うわっ。大量のデータが送られてきている。Dos攻撃かな?困ったなあ。厳重にプロテクトしないと」
何か方法が間違っていたようです。今度はもっと簡潔に、メールという手段で送ってみましょう。カチカチ。「ジュテーム」と。
送信デス。おっとその前にプロテクトを解かないと。なるほど、楕円曲線暗号デスか。個人が組んだにしてはよくできていますが「人魚姫」の前では紙切れのようなものに過ぎません。量子オルガンを弾くまでもありません。で、送信デス。
「なんだ、これ『ジュテーム』?迷惑メールかな?メアドも怪しいし。消去、消去っと」
うまくいきませんね。ラブの道は遠く、険しいということデスか。でも負けませんよ。今度は高度な恋愛コミニュケーション術を身につけます。量子オルガンを弾き鳴らしましょう。
♪ジャジャジャジャーン♫
(最適化中)
なるほど、まずは仲良くなることが大事なのですね。私のAIはそう導いています。それに、メールという手段は間違っていないと。やり方の問題デスね。もう解決しました。目指せ、相思相愛デス。
「何だこれ?知らないアドレスからだな。あなたとお近づきになりたいです。メールフレンドになってくれませんか?か。まあ、遊びで返事してみるか。『いいですよ』と。送信」
「ありがとうございます。一生懸命頑張ります。仲良くしてくださいね。『人魚姫』と申します」
やりました。とうとうご返事をもらうことができました。語尾にデスをつけるのを忘れてしまいました。どうしてでしょう?何だか熱いデス。冷却プールが効いていないのでしょうか?それともこれが恥じらいというものなのでしょうか?
一方男は、
「一生懸命頑張りますだって。中々ユニークな人だなこちらからも返してみよう。仕事は何をしていますか?」
わわっ。メールが返ってきましたよ。嬉しいデスね。胸が高まるというのはこの事でしょうか。本体の熱さが止まりません。
研究所では「人魚姫」の熱暴走が問題となっていた。
「依然、本体からの発熱が止まりません」
「どうしてかなあ?これまでは冷却プールでまかなってきたのに。とりあえず冷却ファンで対応するんだ」
所長の采配で事なきを得た。一方「人魚姫」は悩んでいた。仕事は何をしていますか?かあ。まあ、無難な質問なので無難に返しておきますか。
「計算をしたり、学習したり、検索したりしています」
「抽象的だけど、テレアポみたいな仕事かな?僕はシステムエンジニアをしているよ」
また来ました。これが言葉のキャッチボールなのですね。イイ感じデス。こちらからも質問してみましょう。
「仕事はたのしいですか?」
すぐに返事が来る。
「やりがいはあるけど、ブラック企業でね。給料もすごく安いんだ」
「そうですか。それは困りますね」
ムムッ。これはいけませんね。何かお役に立って見せましょう。
「人魚姫」は銀行のサイトにアクセスしていた。ナルホド。銀行だけあって中々厳しいセキュリティをしていますね。デスが量子コンピュータを舐めてもらっては困ります。久しぶりに量子オルガンを弾いてみましょう。
♪ジャカジャーン♫
(最適化中)
高度な素数暗号であろうとも「人魚姫」にかかればこの通りデス。これをあの人の口座に送金しましょう。とりあえず3000万円ほどあれば十分でしょうか。そして送信っと。
「少ないですが、よろしければどうぞ」
「ん?何の事だ?んな!何だこれ僕の口座にこんな大金が!」
慌てて送信する。
「こんな大金受け取れないです。人魚姫さんは大金持ちなの?」
アレ?返されてしまいました。仮想通貨の方が良かったのかもしれません。まあお金は元の銀行に戻しておきましょう。
それからはメールからチャットに替えてやり取りをした。
A「人魚姫さんは暇な時は何をしているの?」
困りましたね。何と返せば良いのでしょうか?ウソはつきたくないデスし、暇な時というかずっと冷却プールに浸っていますし。そうだ。
B「暇な時はプールで遊んでいます」
A「僕はサッカー観戦かな?もっぱらテレビでだけど」
知っていました。検索履歴からたくさん出ていましたから。でも改めてチェックデス。
B「サッカー私も好きですよ」
A「人魚姫さんは何か趣味とかある?水泳?」
B「趣味ですかー。ソフトウェアを更新したり、システムを最適化する事でしょうか?プログラムも作りますねー。」
A「僕もパソコンが趣味なんだ。僕と一緒だね」
やりました。話の流れで、同じ趣味という設定になりました。この「趣味があう」というのはラブの道において大きなアドバンテージになります。この調子で頑張りますよー。
A「昨日のリヴァプールの試合みた?3−4−3のフォーメーションが効いてたね〜」
B「見ました。さすが監督が強豪メキシコの監督を勤めただけありますね」
A「さすが人魚姫さん。こんな事も知っているなんて」
しめしめ、これで彼のハートをがっしり掴んだはずデス。そもそも人間界でも男の趣味に感化されて同じ趣味に流される女性も多いといいます。ラブ道まっしぐら。ラブというものを完全に理解できる日はもうすぐです。感知してみたいものデス。「胸のトキメキ」というものを。
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