第4話 掃除屋のプリジア
「さーてさてさてぇ、掲示板はどんな感じかな?」
期待に胸を膨らませつつ、あたしは壁に掛けられた大きな銀板の前に立つ。
ここは街の行政区にあるギルドの役場。
この掲示板に上がっている『クエスト』を選ぶところから、あたし達の仕事が始まるのだ。
あたしは手前に置かれた
「
すると石板の上で、いくつかマスの目状にまとまった文章が浮かび上がる。
それぞれ文章の一行目には十桁の数字が記されていた。
「ふーむふむ、今日は鍛冶屋のロレッソさんトコの置時計修理と教会の柱時計の点検、それから銃士隊長の懐中時計調節に魔導機関車の時刻表整理もあるなぁ」
(時刻表?)
「そ、時刻表」
(そんなのも時計屋のやる仕事なのか?)
「そーだよ。正確な時間に列車が到着しないと、乗る人も駅員さんも困るでしょ?」
(いや、それこそ駅員がやればいいんじゃねーの?)
「まぁよその街ならそうしてるかも知れないけどねぇ」
(よその街なら?)
「うん、ここのは終着駅だからね……と」
そう言って、あたしはピノとは反対側の腰に下げた布袋から手の平より少し大きめの黒い石板を取り出し、
さっき読み上げた依頼内容の一行目の数字だ。
それから、また一言だけ
「
すると一瞬、手持ちの黒い石板に書いた番号が光を放つ。
それに呼応するように、銀板でも同じ番号のマスの文字が光り、そして消滅した。
「これで良しっと」
あとは、これをリーチェさんとこ持ってくだけ。
あ、リーチェさんはギルドの受付のお姉さんね。
(ああ、あのおっぱいの人か……)
おい、お前……
(痛い痛い痛い!)
あたしは無言でピノの長っ鼻を強く握りしめる。
(くそー、人の唯一デリケートな部分を……)
デーリーカーシーいっ!
ピノは、もうちょっと女の子に気を使う!
(わかったわかった……って、そういえば、お前急に心の声で話し始めたな。なん……)
そう言いかけたピノの疑問は、次の瞬間には解消される。
「おっはよーございまーす!」
いつもの時間通り元気よく中に入ってきた少女は、あたしの顔を見るなり笑顔で声をかける。
「あ、リーナちゃん、おはよう!」
「おはようプリジア。今日も元気だね」
「もっちろん、オイラは街の掃除屋さんだからね!」
「たしかに、街の隅々まで掃除するから相当体力ないと大変だよね」
「まーねー。でも、やり甲斐はあるよ。オイラが街を綺麗にしてるんだって思ったら、なんか誇らしいし」
ニシシと、鼻の下を
モップのような銀髪に隠れ気味な両の眼に光る
控えめに言って最高に可愛い。
(このユリコン娘が……)
なんか言った?
(別にぃ……って痛ぇから鼻ツネるな!)
ほれほれほれ、悔しかったら反撃してみ?
(このチビ……)
「ねーねー、それって例の人形?」
あたしがピノの鼻をいじっているのを興味深そうに見ながら、プリジアが訊ねた。
「そ、ピノっていうの」
「へー、
「まあねぇ」
「ちょっとナデナデしてもいい?」
あたしは腰のフックを取り外すと、つま先を少し伸ばしながら「はい、どうぞ」とピノを彼女の前に差し出す。
「オイラは掃除屋のプリジアさんだよ。よろしくねーピノくん」
(ああ、よろしく)
挨拶を返すピノだけど、ワシワシと頭をなでるプリジアには多分聞こえてはいないだろう。
(おい、いつまでやってんだよ。うっとうしい……)
などと、文句垂れるピノを無視して心行くまで撫で回す彼女。
こうなるのも仕方はない。
なぜなら、このピノと会話できるのはあたしだけなのだから。
(おい、チビッ子。こいつを止めろ)
チビッ子って誰かな?
(わかった、わかったからピッコリーナ、こいつを止めてくれ……)
仕方ないなぁ……
「プリジア、そろそろ良いかな?」
「あ、リーナちゃんごめん」
申し訳なさそうに苦笑するプリジアからピノを受け取ると、あたしはフックで腰のベルトに固定する。
「じゃあ、あたしはリーチェさんのトコで受付してくるよ。プリジアも頑張ってね」
「うん、ありがとー。また後でねー」
手を振りあってから、あたしは奥の受付所へと向かった。
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