第5話 ブリーチング・ショッピング


「……もうすぐ着くぞ、備えろ」


目当てのショッピングモールが見えてくると、車内の全員が突入に備え始める。


車列は次々と駐車場に入り込み、入口のすぐ近くで停車する。


停車した猛士から降車した兵士達が各分隊に散開しながら複数あるショッピングモールの入口へ向かって歩き出す。


永田達も銃を構え四方を警戒しながら後に続いた。


彼らの分隊はショッピングモール東側入口の傍の壁に張り付く。


聞き耳を立てるが魔物と思しき気配はまだ感じない。


しかし、中に少なからずいる事は確信している。


「私がポイントマンになる、援護頼むぞ」


フィブルスのその言葉に後続の永田達が頷いたのを確認すると、ポイントマンであるフィブルスはガラスが粉々に砕け、開きっぱなしの自動ドアを通り先行した。


一階の入ってすぐの区画にはフードコートがあり、飲食店だったのであろう廃墟がずらりと並んでいた。


美味しそうな食べ物が載った広告には目もくれず、分隊は周囲をフラッシュライトで照らし警戒しながら中を進む。


本作戦の最重要目標であるB-11は今回彼らが進入した北側駐車場とは反対側の南側駐車場に放棄されており、しかもショッピング両脇の道路は倒壊した建物の瓦礫で塞がれていた。


瓦礫を迂回して進む方法もあったが、出来る限り遠回りを避けたかった彼らは店内を通過して直接南側駐車場へ向かう事を選んだ。


「……!」


フードコートを抜け、土産コーナーに辿り着いた頃、突然フィブルスが停止のハンドサインを出した。


それに従いその場で全周警戒を始める分隊。


何事かと永田がフィブルスの背後から顔を覗かせると、彼女は無言で正面の右斜め上を指さした。


二階へと続くエスカレーター。


その先に、がいた。


「スイーパー……20匹以上はいるな……」


二階に密集し蠢くその人型の魔物達の姿を見てヴィエは自身の64式自動小銃を一層強く握った。


「行くぞ……見つかる前に」


幸いスイーパー達は此方には気付いておらず、その辺を彷徨いているだけである。


今のうち、と分隊が歩き出すが、突然銃声がショッピングモール内に鳴り響く。


永田達による銃声ではなかった。


だがその大きな音はスイーパー達を一斉に活性化させ、近くにいた永田達はすぐに見つかった。


「別の分隊がおっぱじめやがった!」


「クソッ、コンタクト!!」


スイーパー達は奇怪な雄叫びと共にエスカレーターを駆け下り、永田達に襲い掛かる。


彼らも発砲を始め、先程まで静寂に包まれていたショッピングモールの中を幾多もの銃声が満たした。


「止まるな!!進め!!」


目の前に立ち塞がるスイーパー数匹をフィブルスがAK-Rの単連射で即座に射殺し、道を確保する。


分隊の一斉射撃で多くが斃れるが、その死体の山すら踏み越えてスイーパー達は向かって来ていた。


その数は、既に20匹など遥かに超えていた。


「何だこの数は!!」


「開戦時に、ここを避難場所に選んだバカが大勢いたみてえだな!!」


タラ二がRPK-74Mで制圧射撃を浴びせながら叫ぶように言った。


スイーパーとは、異世界から齎された魔物の中でも寄生虫型の個体。


現地語で『ヒルキトゥ』と呼ばれる魔物に寄生された人間種の総称である。


戦前、パニック時にショッピングモールに逃げ遅れた大量の人が逃げ込み、その中に感染者が紛れ込んでいたのだろう。


感染し、発症すれば最早そこにいるのは理性など無い獣そのものである。


「うわぁああぁああああ!!」


「っ!!アユラ!!」


最後尾にいたアユラにスイーパーが3匹向かっていき、襲いかかった。


K14は使えない為、9mm機関拳銃で応戦し2匹は無力化するも生き残った残り一匹がアユラを組み敷いた。


すぐ側にいたケラーダが咄嗟にレミントンM870の銃口をスイーパーに向けるが、アユラと射線が被ってしまった事で引き金を引けなかった。


彼のM870に装填されているサボットスラグ弾ではスイーパーの体を貫通し、アユラまで被弾してしまう。


その予測がケラーダの行動を遅らせた。


そしてその結果など、目に見えていた。


「あ゙あ゙ぁあ゙あ゙ぁッッ!!イヤぁっ!!痛ぁ゛っっ!!」


アユラの左腕の肉をスイーパーは食いちぎった。


今までに聞いた事が無い程のアユラの苦痛に満ちた悲鳴に、永田は弾かれるように動き出し、アユラに噛み付いているスイーパーの顔面を蹴り飛ばした。


壁に叩き付けられ体勢を崩したスイーパーの顔面に銃口を突き付け3発、正確に撃ち込んだ。


そのまますぐに左腕から大量の血を流すアユラに視線を移す。


苦痛と恐怖で完全に腰を抜かして動けなくなっていたアユラを、永田は背負い再び走り出す。


大部分の肉を失い骨が露出した血塗れのアユラの左腕を見てパライウが目を見開く。


「噛まれたのか!?」


の発症までまだ時間はある!!だけどフリエン先生の所へ一刻も早く戻らねぇと!!」


「クソッ……仕方ない、薬局の探索は中止、B-11を確保したらそれで帰還する!!」


あれから彼らは走り続け、遂に南側駐車場に放棄されたB-11へと辿り着く。


作戦では彼ら第一分隊がB-11の操縦をする手筈だった。


操縦席に座るのは装甲車の操縦経験があるタラ二。


砲手にケラーダが付き、他の者は後方の兵員室に乗り込む。


「他の分隊は!?」


「第一分隊より各隊、応答せよ!此方は既に目標を確保、合流し次第薬局の探索は中止しそのまま帰還する!」


フィブルスが無線で他の分隊に呼び掛けるが、応答は無い。


何度も、何度も呼び掛けても向こうから返答が帰ってくることは無い。


無線機の受信音すら鳴らないという事は、結果はすぐに予想出来た。


「俺たち以外……全滅……!?」


その瞬間、ショッピングモールの入口からまたスイーパーの鳴き声が聞こえてきた。


だがその数は先程の比ではない。


何事かと振り向く彼らが見たのは、ショッピングモールの入口や2階の窓からワラワラと雪崩の如き勢いで飛び出てくる悍ましい数のスイーパーだった。

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