第3話 厄災の傷跡


未整備区画に突入した車列は低速を維持しながら時折ある瓦礫などの障害物を躱しながら進む。


嘗てここにあった都市の繁栄は、今もその痕跡を残し当時の様子を思い起こさせる。


そこらのビルに貼り付けられたボコボコに破壊された保険会社や病院の広告。


切れ端だけが残ったパチンコ店の幟。


今や砲撃と空爆、自爆ドローンの攻撃で半分が瓦礫の山と化した、創業10周年で特別セールをやっていたのであろうショッピングモール。


焼け焦げた人間種と亜人種の雇用機会の均等化を公約に掲げていた政党の選挙ポスター。


ヴィエを除く彼らは戦前の記憶を持たない為、想像でそれを思い浮かべている。


「昔は人も沢山いたんだろうなぁ」


草木に取り込まれかけているビル群の姿を見て永田が呟く。


「そりゃいたさ、買い物客や表情の死んだサラリーマンにホームレスを飽きる程見かけたぜ」


同乗していたヴィエがそれに答えた。


「あれ、ヴィエさんってここに住んでたんですか?」


アユラの問にヴィエは頷く。


「ああ、戦前は地元じゃ結構デカい建設会社で働いてた。えーと……ほら、あそこのビルの建設は俺も関わってた」


「へー!あんな大っきいビルを建てられたんですね!」


その言葉にヴィエは顔の外骨格を揺れ動かし、複雑な表情っぽい顔を見せた。


「戦前はこれでもかって位亜人が雇用面で優遇されてたからなぁ……俺はそん時人間はあんま好きじゃなかったけど、それでも人間が可哀想に思えて来る程の格差があった」


「そんなに……」


「あまりに酷え格差でな、路上生活者が全国で溢れかえる程いて日本は年間自殺者数ぶっちぎりで世界1位。酷い年には人間種の3人に1人は重度の精神疾患や自殺願望を訴え、実際に死んだ奴も大勢いた」


「うへぇ……全然想像つかないな」


戦前の種族格差の酷さを語るヴィエに自身の銃、RPK-74Mをメンテナンスしていたタラ二が振り向く。


「ま、戦前ですらんな有様だったし世界大戦起きても起きなくてもどの道日本終わってたんじゃねえかな」


「んじゃ、今の俺達の暮らしって恵まれてる方なのかね……」


「ああ、社会システムは崩壊したが代わりに僅かばかりの豊かさを手に入れたのさ」


イェフレクの問いにヴィエはそう答え、他の者達も納得したように頷く。


すると、車列が停止した。


《前方に障害物を発見、これより撤去作業を行う。 各車、全周警戒》


先頭車両から出てきた兵士達が道路を塞ぐ瓦礫の撤去作業を始めた。


他の車両は上部銃座含め全ての乗員が周囲の警戒を行っている。


幸い、障害物は折れた電柱の一部と廃車が数台程度で亜人種の膂力ならば撤去にそこまでの時間は掛からなそうに見えた。


猛士の銃眼から左方を警戒する永田は、今の所まだ敵の気配は感じなかった。


《こちら4号車、偵察ドローンを展開する》


念には念を、と4号車から小型のドローンが飛び立った。


ドローンは周囲を囲むビルを飛び越え、その先へと向かっていく。


それから直ぐに緊急の報告が入った。


《3時の方向、距離約250m。ハウンドが20匹位に…ハウンド・リーダーが5匹、既に気付かれてるぞ!》


《もうすぐ撤去作業が終わる!全車、戦闘態勢!》


フィブルスから無線機越しに命令が出ると永田はQBU-191の槓杆を左手で引き、初弾を装填する。


「アユラは後方に下がって狙撃地点の確保!ケラーダ、銃座を頼む!後は交差点右側の道路に展開、迎撃準備急げ!」


猛士から凄まじい勢いで降りた彼らは、アユラとケラーダを除いて道路上に一定の距離を開けて並び立つ。


もう既に複数のハウンドの足音が道路の向こうから聞こえて来ていた。


「来るぞ!!」




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