第4話 毎日起こる教員不祥事

 夏休みが始まって早々、慰労会と称して、職員全体の飲み会があった。我々教員にとっては、飲み会も仕事の一つである。居酒屋の二階を借り切って行われた飲み会は、水内の乾杯の音頭から始まった。

「昨今、我々の仕事に対して信頼感の薄れるような事件も多々耳にしますが、この学校において、神楽中の職員の皆様方におかれましては、そんなことは絶対にないと固く信じております。人間である前に、教師であると言うことを忘れずに、これからもお互いに邁進していきましょう。それでは、乾杯!」

 今日の研修内容を受けての水内の挨拶は、一瞬場の空気を固くした。

私の働いている都道府県は毎年、教員の不祥事が相次いでいることで、ひそかにネット上で有名になっていた。私が講師時代を含め勤務し始めてから数年経ったが、毎年一人は確実に逮捕されていた。多いときは二人逮捕された年度もある。部活動での体罰から始まり、飲酒運転、児童買春、電車内での盗撮、ネット上に民放ドラマを無断で公開、居酒屋で傷害事件を起こし逮捕、昨年度はスニーカーに小型カメラを仕込み、女子生徒の着替えを盗撮し逮捕された高校教師まで現れた。

度重なる不祥事に頭を悩ませている教育委員会は、この夏休みを利用して、県内の小中高校を回り、不祥事防止を職員に呼びかけていた。今日は神楽中学校に教育委員会の学校指導課から職員が二人来て、不祥事防止と、職員の規範意識の向上を切に訴えていった。

私の同期でも、教壇から消えた奴がいた。教え子に対し、ストーカー行為を繰り返し、警察に逮捕され、最終的にそいつは、懲戒免職を食らった。

初任者研修の頃から気色悪い奴だなぁとは思っていた。発言したら論点のずれた回答をしてくるし、それを指摘したら逆切れして喚きだすもんだから、最終的には誰も彼の周囲にはいなくなっていた。

「よく教員採用試験に合格したよな。」

「倍率が低い、数学科だからじゃない?」

「いや、県議会議員に金を積んだんかもよ。普通は面接で落とされるでしょ。」

同期の仲間の評価はこんなもんだったから、逮捕されて懲戒免職になったという話が飛び込んできたときは、やっぱりね、という反応が殆どだった。

筆記試験と適性検査、一度や二度の面接試験だけじゃ、何もわからない。親が校長というだけで、一発合格できた人もいれば、中には本当に政治家に頼んで教員になれた奴もいる。そんなので教師になれるんだから、異常な人も混じっていてもおかしくない。


教師は決して聖職者ではない。

最近、よくマスコミで言われる言葉だが、その言葉の定着を促したのは、間違いなく、我々教育公務員の行いだ。

子どもの前では良いことを、最もらしい口調で言っているが、職員間は意外に冷たいのが昔からの現実である。特に講師の人に対しては、本当に冷酷に対応する職員もかなりの数いる。

子どもにいじめをするな!と訴えながらも、職員室では陰湿ないじめがあるのも真実である。教師に鬱病患者が多く発生するのは、生徒対応ばかりが原因ではない。大半は教員間の人間関係に苦しみ、体を壊し教壇を去っている者がほとんどだ。

そんなことを考えながら、ジンジャーエールを飲んでいたら、水内とふと目が合ってしまった。水内はすぐさま視線を反らし、横の女性職員とにこやかに話し始めた。

 二十年という月日が流れても、まだまだお互いの間には、川はふてぶてしく横たわっていた。しかしながら水内が視界に入っても私は昔のように、わざわざ橋をかけて川を渡るようなことはしなかった。

 学校はご存知の通り、某居酒屋チェーン店よりブラック企業である。時間外労働は当たり前、子供のためなら夜中だって出動する。多忙が川渡りを開店休業状態にさせていたのかもしれない。また良い大人になって、真剣に川渡りが馬鹿ばかしくなっていたのも事実だろう。いつしか、そんなことに夢中になっていた中学時代を思い出すこともなくなっていた。

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