第4話「リベンジ挑戦、失敗!」

「お、音無おとなしさん、今……何て?」


 俺には、何が起こったのか全く分からなかった。




 冷奈れいなが……降参?

 ……俺、もしかして、負けたの?




「降参します、って言ったんです」


 冷奈れいなは、冷たい眼差しで俺を睨みながら、言う。


「ま、まさか……事前に、降参するように、あいつに言われたのか!?」




 俺は、悪い頭をフル回転させて考えた。

 狗郎いぬろうは「ゲーム中に『降参しろ』なんて命令はしない」と言った。

 ゲーム前に「ペナルティの時に降参しろ」と命令しておけば、その言葉は嘘にならない。

 これだ!この作戦だ、きっと!




「おい、俺がそんな……」

「違います」


 狗郎いぬろうの言葉を遮って、冷奈れいなが答える。


「じゃあ、なんで……」

 絶望に暮れる俺の顔を見ながら、彼女は口を開いた。




「私、小麦粉アレルギーなんです。パンは欠片かけらも食べられません」







 こうして俺は、狗郎いぬろうの奴隷になった。







「頼む!」




 俺は、狗郎いぬろうの足にすがりつきながら頼み込んだ。


「うるせえ!すがりつくな、うっとうしい!」

「今の結果は、音無おとなしさんの事を知らなかったからだ!もう一度だけ、やらせてくれ!」

「あのなあ!」


 狗郎いぬろうは、足を振りほどいて言う。


「知らねえのも含めて『勝負』だ!何度もお情けでチャンスをやってたまるか!」

「くっ……」

「ああ、それか、条件付きなら、もう1回やってもいいぜ」

「えっ?」


 少しほころぶ俺の顔を見下ろし、狗郎いぬろうは意地悪な笑顔で口元を歪める。


「奴隷への命令ありなら、いいぜ。もっとも、お前の選ぶ役は、俺が全部指定するがな」


「そ、それは……」

「じゃあな。もう俺に、くっついてくるなよ。これは命令だ。守らなかったら、今度はヨット部からペナルティをくらうぜ」




 狗郎いぬろう冷奈れいなの髪をつかんで引っ張っていくのを俺は、ただ眺めるしかなかった。


 一度だけ俺の方を振り向いた冷奈れいなは、悲しげな目をしていた。







 『スレイヴ・ヨット』で必要なのは、サイコロでいい目を出す運じゃなく、パートナーのことを『知る』ことだった。


 サイコロの目は、どんなに頑張っても駄目な時はある。

 その時、パートナーはどのペナルティなら耐えられるのか、自分がすべきことは何かを考えなければならなかった。


 俺がすべきことは、制限時間を費やそうとも、小麦粉を使っていない食パンを探しに行くことだった。




 今更気づいても、もう遅い。




 奴隷になってしまった今の俺じゃ、リベンジのチャンスすら与えられないんだ。







 俺は絶望と後悔の中、化学室へ続く階段の途中で、膝を抱えてうずくまっていた。







辛気しんきくさいモノが階段にいるわね」




 女性の声に、俺は顔を上げる。




 金髪ロングの美少女が、俺を見下ろしていた。




「見ていたわよ、さっきの勝負。リベンジ、したいんでしょ?」




 彼女は、少し低めの良く響く声で、俺に声を掛ける。




「私をパートナーにしなさい。あなたを勝たせてあげるわ」

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