第3話「初勝利、失敗!」

「ヨット部は、部員数総勢500名。私はその部長、判田はんだ審助しんすけ。通称『審判シンパンダ』です」

 メガネの男は、肩に乗せた小さいパンダのぬいぐるみをでながら自己紹介した。




「通常の『ヨット』のルールは、ご存じですか?」

「まあ、一応」


 友達と、やったことがある。

 プレイヤーはサイコロを5つ振り、出た目と選んだ役に応じた得点をゲット。

 それを決められた回数だけ繰り返し、合計得点が高いプレイヤーの勝ち。

 こんな感じだったはず。


「では、あとはパートナーを」

「パートナー?」


 俺は首をかしげる。


「ええ。『スレイヴ・ヨット』は、プレイヤーとパートナーのペアで挑みます。そして1ターンごとに、得点が低いペアのパートナーがペナルティを受けます」

ペナルティ?」

ペナルティの内容は、得点が高いペアのプレイヤーが決めます。ヨット部が用意した一覧から選ぶ形です。勝利条件は、3ターン後の合計得点で敵ペアにまさること、もしくは、敵ペアのパートナーがペナルティを5分以内に実行できなかったり、『降参』を宣言したりすることです」


「ふーん」


 ペナルティ次第では、1ターンで負ける可能性もあるのか。


「選べるペナルティの内容は、そのターンの得点差により変わります。1ターンごとの結果にも、細心の注意を払ってください」




「そもそも、パートナーいるのか?」

 狗郎いぬろうがダミ声で俺に問う。




 もちろん、いない。




判田はんださん、パ」

「嫌です」

「まだ何も言ってません」

「私をパートナーにしようってんでしょ?嫌ですよ」




「この女を貸し出してやってもいいぜ」


 狗郎いぬろうが銀髪美少女の頭を左手でポンポンしながら提案した。


「安心しな。ゲーム中に『降参しろ』なんて野暮やぼな命令は出さねぇ」

「命令?」

「……負けたペアは2人とも、勝ったペアの奴隷になる。奴隷は、主人の命令を必ず聞かなきゃならねえ」

「……そ、そっか……」


 恐れるな、俺。もう手遅れだ。


「自分も奴隷にならねえよう、せいぜい頑張るんだな」


 そう言い捨てると、狗郎いぬろうは銀髪美少女の背中を押した。


 よろめきながら俺のそばに来た彼女は、無言で俺の顔を見上げる。




「あ、よろしく。えっと……」

音無おとなし冷奈れいなです」

「よ、よろしく、音無おとなしさん」







「『スレイヴ・ヨット』に、振り直しはありません」

 狗郎いぬろうの案内に従い、両ペアがテーブルに着くと、審判シンパンダが説明を始めた。


「1回振って出た5つの目に対し、役を決めます。役はワンツースリーフォーファイブシックス、ヨットの7種類。ワンからシックスは、該当する目の合計が得点になります。ヨットは5つの目が全て一致したときの役で、目に関わらず得点は50点」


「まあ、聞くよりやった方が分かるだろ。さっさとダイスを振れ」

 そう言って、狗郎いぬろうは5つのサイコロを無造作に放り投げた。


 薄いテーブルの上で止まったサイコロの目は。


 1、6、4、6、6。


 それを見て、狗郎いぬろうは手元のクリップボードに何かを記入し始める。

「ほら、お前も投げろ」


「選んだ役はボードの用紙に記入し、同時に開示します」

 審判シンパンダが説明を加える。


 相手の得点を確認してから自分の役を決めるのは、禁止ということか。

 しかし、この目なら選ぶ役は『シックス』だろう。

 3つの6が点になるから、得点は6×3=18点。


 俺も、審判シンパンダから渡された5つのサイコロを振る。

 

 6、3、1、5、5。


 ……最高点で、『ファイブ』の5×2=10点。

 どうあがいても、音無おとなしペナルティがいく。

 勝負の前にルールブックを見たが、選べるペナルティ内容は5点ごとに変わる。

 『ファイブ』の10点を選ぶと、点差は18-10=8点。6~10点帯のペナルティだ。

 一方、『シックス』の6点だと、点差は18-6=12点。11~15点帯のペナルティになる。この枠だと『指定した相手とキス』のような、厳しいペナルティがある。絶対に避けたい。


 俺は用紙に『ファイブ』を記入する。




 役の開示。


 俺:『ファイブ』10点。

 狗郎いぬろう:『シックス』18点。




「はっ。やっぱり、それを選んだな」


 狗郎いぬろうは、ニヤニヤしながらペナルティ一覧を開く。




「では鎌瀬川かませがわさん、ペナルティを選んでください」

 と、審判シンパンダ。


「決めた、これだ」

 10秒もせず、狗郎いぬろうペナルティを選んだ。

ペナルティ37番、『食パン3枚一気食い』」


 3枚か。

 俺なら余裕で食い切れるが、女の子だとどうだろう?


「食パンは、自前で用意しますか?ただし、ペナルティが選ばれた瞬間から制限時間5分のカウントは始まっています。ヨット部の食パンもありますが、種類は1つだけです」

 そう言うと、審判シンパンダは化学室の棚から食パンの入った袋を取り出す。


 そうか、パンの用意も含めて5分以内か。今から購買に走っても間に合わない。


「じゃあ、それで」

 俺が答える。




「では、どうぞ」


 審判シンパンダは、食パンの入った袋を俺の隣に座っている音無おとなし冷奈れいなに渡した。

 彼女は、袋のパッケージをじっと見つめる。




「始めてください」




 頑張ってくれ、音無おとなしさん。

 次のターンからは、相手より高得点を取ってみせる!







「降参します」




 冷奈れいなは、袋の中のパンに手をつけることもせず、言った。







 えっ?

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