彩佳2 10日 16時
雨だった。出発の日だと言うのに、天気が私を歓迎していないような気がした。
昼過ぎに家を出て、傘を片手に大きなトランクを引きずりながら、海把区の駅に向かうと、改札の前には八頭司美雪の姿があった。彼女は前日、旅行気分であるかのように電話を掛けて、私に最終確認を取った。だから着飾ってくるのだろうと勝手に想像をしていたのだが、意に反して美雪は、いつも通りの動きやすそうな格好をしていた。私の方も、別に大学に通っていた頃と相違ない装いだったのだけれど。
美楽華区へは数駅、時間にして二十分程度かかった。それほど遠いというわけでもないのに、見知らぬ駅を通過していくと、自分がどこに連れて行かれるのかという緊張が頭をもたげた。地下鉄の湿気と薄暗さが、更に私を不安にさせた。
美楽華区の駅を降りて地上に出ると、真っ先に視界に飛び込んでくるのが、バカでかいエスカレーターだった。大きなビル群が見える区の上層にはここから向かうんだよ、と美雪が説明した。私はその鈍色の空に向かって伸びる巨大な鉄の建造物を見て、以前どこかで知ったマスドライバーの様子を思い出してしまった。
包帯を巻いている方の手で傘を差して、私達はエスカレーターに乗った。萎縮してしまうくらいうるさい駆動音が目立った。周囲はコンクリートに囲まれていて、申し訳程度のライトが足元を照らしていた。華やかさはまるで感じなかった。恐る恐る動く段差に足をかけて、身体を乗せた。運ばれていく。意外にもスピードが速く、何かあったところで乗り口の方へは戻れないという事実が怖かった。
それでも、流れていく面白みのない景色に飽き始めた頃に、上層へ肉体がたどり着いた。
美楽華区の、上層だ。
私の住んでいる地区に比べると、整然としており、監視の目が行き届いているが故の小綺麗さを感じずにはいられなかった。
あたりは巨大な建造物がいくつも等間隔に並んでいる、機能的な都会だった。それらは店だったり、住居だったり、なんでもない廃墟だったりした。住民も、きっちりと歩道の左右を測ったように歩いている。車もビルの合間を抜けて、危険でない速度で走っていた。
雨が急に掛からなくなるくらいに、上空にはビルからせり出したコンクリートが目立っていた。アーケードのような感じだと思った。屋上から見る景色は、きっと想像もできないほど奇妙なのかもしれない。
「すごいね」
美雪はそれだけ漏らして、傘を閉じた。雨に濡れるのは、車道を走る車だけ。
私もそれに倣った。靴先に、雫が垂れた。
「ええ……海把区と、ぜんぜん違う」私は見回す。海把区も最初に訪れた時は面食らったものだが、ここはその驚きとは全く異質だった。「なんか……ディストピア的っていうか」
「いろいろなところに行けるから、私はこの仕事、好きだな」美雪はそう笑顔で口にした。
美雪に案内されながら、同時に依頼内容を説明された。昨日に彼女からのメールで大まかな概要だけは知らされていたが、私は面倒だったのでろくに目も通していなかった。
依頼というのは簡潔だった。
端的に言えば、暗号解読だった。もとは茅島さんと私で担当する予定だったそうだが、なるほど、こういう頭脳労働は、茅島さんには向いているような気がする。妙なほど頭の回転の良い彼女であれば、私の存在なんていてもいなくても、暗号をたちどころに解明してしまうに違いなかった。
美楽華区の前の区長が、亡くなって直後に発見されたという暗号だった。その解読が何につながるのか、美雪にも知らされていないらしく、彼女の口からは一向に説明されなかった。極秘、というつもりなのかもしれない。区長が絡んでいるということは、政治的なデリケートさも、そこにはあるはずだった。
それにしても、政治が絡んでくるとなると、急に社会的な重圧や責任を感じてしまう。不安になったわけではないが、私は気になったことを彼女に尋ねた。
「ねえ、依頼って……いつもは悪い機械化能力者の調査でしょ? 暗号解読って、そんな便利屋みたいなことも、あんたたちの施設はやってるの?」
「ああ、それは多分、下層の方……ふくみたと精密女が向かった依頼の方に関係するんだよ」美雪は当然訊かれるであろうと予測していたのか、すらりと答えた。「あっちの依頼内容は……金持ちの家に殺人予告があったんだよ。犯人が機械化能力者かどうかはわからないけど、警察が嫌がって、その仕事がうちに回ってきたってわけ。暗号解読は、そのついでに上司が請け負ってきた、要するに雑用みたいな仕事だよ」
殺人予告と聞いて、また私は心配になる。
茅島さんと私を一緒にするのを避けるために、彼女は下層の依頼に振り分けられた。これでなにか危ない目に遭えば、間接的に私のせいということになるような気がした。
向こうに何事もなければいいが、そもそもの話、こちらの暗号も解読できるのかもわからなかった。
「……暗号なんて、私に解けるのかな」
美雪はけらけらと笑って、リュックに入っているパソコンを手で叩いた。彼女は、本当に長期の旅行にでも出掛けるつもりであるかのように、大荷物をしていた。
「まあまあ、いざとなれば、コンピューターを使えばなんとかなるよ。彩佳は、まあ適当にやればいいよ」
「適当って……」私は言い知れぬストレスを覚える。
「なんでバイトの彩佳のほうが真面目なんだよー」
「美雪は不真面目なんだよ」
「バレた?」
美雪はビルとビルの間を曲がった。私はただ、何も考えずにそれに着いて行くだけだった。もう自分が、この街のどこに立っているのか、駅やエスカレーターはどっちだったのか、まるでわからなくなった。
美雪は暇そうに、傘を振り回す。
「私はまあ、裏方っていうか。ふくみや精密女が表立って色々やってくれるから、私はそれに甘えてるんだよ。そのほうが楽でしょ。機能だって、精密女ほど直接的じゃないから、極まってくると、やることがなくなるんだよね。だから、気を張っててもしょうがないよ。彩佳なんて、機能もないただの普通の人だし」
「……それが」
言おうとして辞めた。
それが、茅島さんを危険に近づけているんじゃないの?
「……なんでもない」
「ふくみが気になる?」
エスパーであるかのように、美雪は私の考えていることを読んだ。普段は察しが良いわけでもないのに、たまに当てずっぽうで、私の核心をついてくる時がある。それが、私には気に入らなかった。
下層の依頼。殺人予告。その護衛。つまりはボディガード。
精密女なら心配はない。あの女の戦闘能力は、民間人という分類が嘘みたいに思えるほど強力だった。ほとんど兵器の域に近い。彼女にこれほど適した仕事もないと私は思う。
でも、茅島さんにそんな力はない。私よりは場数という観点に於いて、例えば人を蹴るのにだって躊躇がないけれど、結局は普通の、二十代の女だった。
私は、美雪の質問に答えないで黙った。
黙っていると、いつの間にか目的地の近くに来ていた。
そこはこの区最大の資産家が住む、フリーフォール館と呼ばれる、奇妙な屋敷だった。
時刻は既に十七時となっていた。
私がまず気になったのは、そのフリーフォール館の特徴的な外見だった。
見事なまでに半円形の、巨大なボールみたいなものが、開かれた庭の中心に存在していた。一体それはなんなのか、美雪の説明がなければ理解すら出来なかっただろう。彼女の話を聞くに、どうもこれが館そのものらしかった。
「ここがフリーフォール館」美雪は驚きもしないで言う。「依頼者、槇石さんの家だよ」
整列されたビル群の間に、急にそんな巨大なボールが安置されている光景を、上空から眺めるとさぞかし気持ちが悪いだろうなと私は思った。もしかすれば夢の中にいるんじゃないか、という疑念を晴らす材料もなかった。
館の中身はどうなっているんだろう。窓も見当たらない。私の想像力では、コンサートホールかサッカー場以外の用途が思い浮かばなかった。
美雪が門に備えてあるインターフォンを鳴らすと、程なくして応答があった。はっきりとした口調の、男の声だった。美雪が名乗り、依頼件で来たという趣旨を伝えた。まもなくして、館の派手さの割に質素な門の鍵が、解除された音が聞こえた。
尻込みしながら、敷地内に足を踏み入れて、庭園を歩いた。わざとらしく、花壇にいくつかのカラフルな花が植えられていた。あとは芝生ばかりだった。寝転がると、気持ちが良いのかも知れないが、今は雨に濡れて見る影もなかった。
門から中庭を通って館への道は、想像よりも距離があった。きっと、あの半円の建物は、門の外から見たときよりも、実際はかなり大きいのだろう。私は、そこへ近づくたびに何処か恐怖心すら覚えていた。
庭園の先には、男性が一人、私達を迎えるために立っていた。さっき応答した人間だろうか。短く整えられている没個性的な髪型のせいで、彼に対して印象的な部分は見当たらなかった。
「ようこそ、フリーフォール館へ」
フリーフォールだなんて仰々しい名前を、彼は面白みもなく平然と口にした。
「調査員の八頭司美雪さんと、加賀谷彩佳さんですね?」
知らない人間が、私の名前を口にしたのが気持ち悪かったが、美雪は彼の言葉に頷いた。
彼は、岡芹と名乗った。名前は良樹だという。自分のことを、使用人だと説明した。
岡芹に案内されて、玄関に足を踏み入れた。ここではまだ、靴は脱がなくていいと言われた。私の自宅がすっぽりと収まりそうなくらいのスペースが、この玄関にはあった。よくわからない機械や、高そうな壺と何を描いてあるのか理解できない絵画が飾ってあった。
そのまま中へ入れてくれるのかと私は期待していたのに、岡芹は玄関の先、ただ一つの扉の前で、私達を振り返って、失礼にも値踏みするように眺め始めた。
「こちらから依頼した身で申し訳ありませんが、この館に立ち入る前に、ここでのルールを説明させていただきます。もちろん、ここを訪れるのは初めてですよね?」
「はい」美雪が明瞭に答えたが、釈然としない表情をしていた。「ルールって、私達の調査は自由にやらせてもらえるんですか?」
「それはまあ、完全に自由とはいきませんが、ある程度は保証されます。暗号解読は槇石家の悲願ですから」
言いながら、岡芹は真っ直ぐに指を立てた。人差し指が一つ。
「ルールは簡潔で、一つしかありません。『夜に館の外を出歩いてはいけません』」
「夜?」美雪が首を傾げた。
「正確には、十九時以降ですね。この時間を過ぎて、絶対に、夜にこの館の外を、出歩いてはいけません」
岡芹の顔を見る。どうも、冗談や和ませで言っているのではない。彼が心底本気で、そう口にしていることはわかった。
「従わなかったら?」
「もちろん、罰則が発生します。これは、区の法律でも定められています。抵触した場合は、警察に身柄を引き渡されます。捕まると……数年は刑務所暮らしでしょうね」
急に物騒な話をされて、私は身震いをする。
美雪はそれでも納得がいっていないらしく、岡芹に詰め寄った。この女の、こういう部分を私は頼もしいとも恐ろしいとも思う。
「何故出歩いてはいけないんです? なにか、理由があるんですか? 警察ってことは、何かの罪に?」
「それはわかりません、私はただの使用人ですから。けれど、区の法律は全て、中央コンピューターが管理しています。役所に存在する、いわばこの区の頭脳みたいなものです。中央コンピューターは区全体を管理しています」岡芹は端末を使って、誰かと連絡を取りながら説明をした。「十九時にこの扉の先、館の内部に必ずいてください。時間が差し迫っているときに出掛けている場合は、私が迎えに行きますので、なるべく遠出はしないようにしてください」
誰かからの許可が下りたのか、岡芹は端末を閉じて、先の扉に手をかけた。
「しばらくの間、窮屈な思いをさせてしまうかも知れませんが、槇石さんは、暗号解読をしてくれるあなたたちのことを、歓迎していますよ」
館内ではまず、靴を脱いで大きめの靴箱に、自分の運動靴を仕舞った。代わりに用意されたスリッパは、歩いている時に小うるさい音も鳴らないような、作りの良い物だった。
館の内部構造は、きっとあの外観と同じように、きっちりと半円形になっていて、歩き回るだけで酔う恐れすらあるんだろうな、と心配していたが、私の予想に反して、至って普通の住宅の様子がそこにはあった。
真っ直ぐに、奥に向かって廊下が伸びている。その左右にドアがあって、突き当たりにはトイレらしき扉と上への階段が見えた。材質は何処にでもある、寝転がると冷たそうなフローリングだった。
岡芹は私達を導きながら、ついでに説明をする。
「槇石さんは、二階おられます。左側の部屋がリビング、風呂場にも通じています。右側が、キッチンと食堂ですね。食事はこちらで用意しますので、ご心配なく。あとキッチンは奥の扉から倉庫に通じていますが、あまり使用はされません」
彼が話していると、私達が向かっている階段から、一人の子供が降りてくる。
見た目から察すると、女子中学生だった。さすがに、その立ち振る舞いから育ちの良さは感じるが、あどけなさは、私のほとんど絶縁状態にある親戚の子供たちとそうは変わらないように見えた。
彼女は私達に気づくと、しっかりと頭を下げながら、岡芹に目配せをして尋ねた。
「……岡芹さん、この人達が、調査員の……?」
「ええ。先程到着されました」
岡芹は私達に向き直って、彼女を手のひらで指し示した。
「こちらは、槇石セナさんです。依頼人である当主の槇石さん……槇石順吉さんのお孫さんです」
紹介されたので、私達は名前を名乗った。美雪は、自分と年齢の近そうな中学生に対して、ノスタルジアにも似た不思議な共感を覚えているらしかったのか、笑顔を浮かべていた。
「はじめまして」セナは頭をまた下げた。「槇石セナです。今年で、十五になります」
茅島さんくらいの身長(百五十九センチ程度だったか)をしており、短めのボブヘアが似合っていた。年齢を聞いたときに、変な食い合わせの悪さを感じたから、見た目が大人びているのだろう。服装も、私が同じ年齢の頃にしていた格好とは大きく違って、都会的で無駄がなかった。
彼女は、二階を指して口を開いた。
「おじいちゃんは、自分の部屋にいます。さっき喋ってた時も、調査員の人はまだかって、待ちわびていました」
彼女に会釈をしながら、岡芹について、私達は二階へ上がった。
二階は、幅の広くなった、ほとんど小部屋のような廊下と、そこから通じる扉が八つ。岡芹は「二階は、みなさんの個人的な部屋が集まっています」と口にした。
辺りを見るために首を回していた美雪が、岡芹に尋ねる。
「それで、槇石さんの部屋は?」
「突き当たりの、この部屋ですね」岡芹が、突き当たりで立ち止まって答えた。「ここに隣接する左右の部屋が、セナさんとそのお父様、敏弘さんの部屋です。あとは……倉庫の二階部分に通じてるドアと……残りは全部客間ですね。お二人に泊まっていただくお部屋へは、後ほどご案内しますので」
荷物は、指定された客間の前に置いてくれ、と岡芹は付け加えた。私はずっと引きずってきた大きなスーツケースを他人の家で手放した瞬間に、少しだけ不安になってしまった。
私達がそうしたのを確認すると、岡芹が当主の部屋をノックした。心の準備もしていなかった私は、身をすくめてしまった。
「岡芹です。調査員の方がお見えに」
「……入ってくれ」
中からは、年齢を感じるがはっきりとした声が聞こえた。
私達は意外にも狭い扉を抜けて、当主の部屋へ身体を押し込んだ。
部屋の中は、ほとんど書斎だった。中央には仰々しい机があり、背面には大きな棚がいくつか並べられており、そこにはファイルや模型や、なんだかよくわからない趣味やビジネスのものが収納されていた。机には、大きめのデスクトップコンピューターが設置されていた。他にはソファやテレビなどの暇をつぶすためのものも、当然存在した。
当主の槇石順吉は、机の向こうにある大きめの椅子に座っていた。私達を認めると、歓迎というよりも小骨が喉から抜け落ちたような顔になった。
「待ってたよ、君たち」
順吉はそそくさと立ち上がった。丸坊主で、筋肉質の老人だった。年齢のほどはわからないが、まだ世間から取り残されるほど弱っている様子はなかった。かなりの身長があって、私は変に身構えてしまった。
私達は名乗る。セナにしたものと、同じような言葉が口から出た。
順吉はさっそく、と口にしてからコンピューターのディスプレイに画像を表示させた。
「これを見て貰いたいんだが、こっちに回ってきてくれ」
私達は頷いて、机を回り込んで順吉の横に立って、チカチカする画面を覗き込んだ。岡芹は、入り口でじっと直立していた。
見た途端に、美雪が気づいて、口にする。
「これが暗号ですか?」
「そうだ。仕事の内容は、既に聞いているね? この暗号を解読してもらいたいんだ」
暗号と言うからにはテキストデータだとばかり思っていたが、私の目の前に表示されているものは画像データのようだった。写りが、それほど明瞭でもなかった。
書かれている内容は、ただ短い一文だけだった。
――Suituranomitoka.
頭の中で読んでみたが、私の使用する言語に、それに近い単語はない。日本語ではないということだけは理解できた。
美雪もさっぱりわからないと言った顔をしていた。彼女は首を傾げてから、順吉に尋ねる。
「これって……なんですか?」
「わからんか、そうだよな」順吉は一人で頷いた。威圧感のある見た目の割に、人に寄り添っていそうな態度が、胡散臭さを感じた。「これは、前区長が残した暗号なんだが、詳細は教えられん。だが、こちらには手掛かりもない。お手上げってことだ」
順吉は手のひらを広げた。ひらひらと。
「前の区長は……亡くなったんでしたっけ」
「ああ……去年に、この暗号だけを残してな……」順吉は、残念そうな表情を見せる。「調査はしてほしいんだが、一つ頼みがあるんだ。このこと……つまり私達が暗号を解けないでいることと、暗号が存在することは、他言しないでほしいんだ。特に……あの馬郡の連中に知られたら、私達はなめられてしまうだろう」
「なめられる?」美雪が首を傾げる。「馬郡っていうのは、確か……下層に名前が通ってる資産家でしたよね」
「ああ、そうだ……あのクズ野郎たちには、絶対に知られてはいかん」
槇石順吉はしっかりと、血が出そうなほど拳を握り込んで、怒りを顕わにした。
ぎりぎりと、馬郡とかいう奴らの顔を思い浮かべて、そのままゴミ箱にでも捨てる勢いだった。
予習をしてきた美雪と違って、何も知らない私は、よくわからなくなって訊いた。
「その……馬郡って、どういう人なんですか?」
「屑だ」はっきりと坊主頭の当主はそう言った。「この槇石家に、昔から因縁をつけてきた奴らでな。私達が前区長からの暗号を受け取ったと知れば、奴らはそれを妨害しに動くだろう。そういう奴らなんだ。下層を味方につけているが、所詮は烏合の衆だ。区長と一丸となって、街を良くしようと考えている我々に楯突くなんていうのは、正気の沙汰じゃない。気に入らないだけだ」
順吉はそう熱弁した。私が理解できたのは、槇石と馬郡の折り合いが悪いということだった。それはつまり、この区は上層と下層で大きな分断が起こっているという現状を指し示していた。
下層……。
茅島さん側への依頼内容は、美雪から聞いている。
美楽華区下層に影響力を持ち、レディファンタジー館に住む馬郡家に送られた殺人予告の調査、および護衛。
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