第102話崩壊3
医者は診断を終えるなり沈痛な表情を浮かべた。
『これは……私の力では如何ともし難いです』
『……つまり治せないと?』
『はっきり申し上げるとそういうことになります』
『そんな!』
『残念ではありますが、現状ではこれが限界ですね』
『そんな……』
医者の口から残酷な言葉が放たれるとサリーは崩れ落ちた。
『あぁ!そんなっ!!』
サリーは床に座り込むなり大声で泣き叫んだ。
『いやよ!こんな顔なんて嫌っ!!お願いだから何とかしてよぉ!!!』
泣き叫ぶサリーを見かねて看護師が駆け寄ってきた。落ち着かせようとしているが、サリーは泣き止まずに尚も喚いている。医者にどうにかできないものか尋ねてみたが、やはり難しいという返事しかもらえなかった。
『奥方はボーテ王国で手術をされたと聞きました。恐らく手術を行った医師の腕も相当のものです。そうでなければメンテナンスもなしに今まで何事もなく過ごせるはずもありません。普通なら手術を受けた三年後位で皮膚の異変が起こってもおかしくありません。よほど腕のいい医師が執刀なさったのでしょう。その方に相談すれば、或いは何らかの解決策は見いだせたのかもしれませんが……。他国の医師ですからね。直ぐにとはいかないでしょう。それと、奥方は顔面麻痺を患っているようです。この状態で手術を行ってはかえって悪化させてしまう恐れがあります。よって、現状では治療は諦めてもらうしかありません。どうか御理解ください』
医者は丁寧に説明してくれたが納得できなかった。サリーのあの変わり果てた姿を見る度に胸が張り裂けそうになるのだ。あんな姿で生きていくしかないと思うと哀れでならない。
『本当に何も手立てはないのか?』
『今の状態で手術を受けるのは自殺行為です』
『それでも何とか……』
『無理なものは無理なんです』
食い下がってみても一蹴されるだけであった。医者の言葉に更にサリーが泣き叫び、収拾がつかなくなったため看護師が鎮静剤を打ち漸く静かになったが、室内の沈黙が逆に私の心を重くさせた。
『男爵、こちらをお持ちください』
『これは?』
『抗生剤と痛み止めの薬です。今の状態がいつまで続くのか分かりませんが、万が一、症状が悪化した場合に備えて持っておくべきです。手術は出来ませんが、投薬による緩和治療ならばできるかもしれません。ただ、根本的な解決にならない為、あまりお勧めできませんが……。他に方法がない以上、今は少しでも症状を抑え、回復を待った方が良いでしょう』
『分かった。……感謝する』
こうして私とサリーは失意の中帰宅した。その日からサリーは部屋から出てこなくなってしまったのだ。食事や必要なものは私が持って行くしかない。だが、扉越しに声をかけても返事がない。ノックをしても反応はない。鍵がかかっており、無理やり入ろうにも入れない状況だった。
それは、今も続いている。
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