第101話崩壊2


 翌日の昼過ぎに外科医がきた。

 来て早々に原因が分かったようだ。



『整形の副作用のようですね』

 

 医者の言葉の意味がよく理解できなかった。


『ふ……くさよ……う……?』 


『はい。恐らく手術の際に骨を削ったりしたのでしょう。その結果、皮膚が引っ張られて傷跡のような状態になったと考えるのが妥当でしょう。酷い場合は顔全体が歪んでしまう事もありますからね。幸い、男爵夫人の場合はそこまでではないみたいです。もっとも、このまま放置すれば徐々に広がっていく可能性もあるでしょうから油断はできませんが』


『そんな……!』


『なんでよ!今まで何ともなかったのに!』 


 話の途中に割り込んで騒ぎ出したサリーを止めに入ろうとしたが遅かった。医者の腕に掴みかかるとサリーは叫び続けた。


『私はどうなるの!?治せるのよね?……ねぇ!何とか言って頂戴!!』


 興奮しているサリーをどうにか落ち着かせようとするも上手くいかない。

 結局は鎮静剤を打つ羽目になり、その間に話を聞く事ができた。


 

 曰く、ボーテ王国での手術が原因だと。


 

『どういう事だ?』

 

『言葉の通りですよ。本来、手術は顔の表面だけを綺麗にする為にするものではありません。骨格や筋肉、内臓、それら全ての状態を把握した上で施術します。今回のように、ただ顔だけを綺麗にしただけだとすぐに元に戻ってしまうんです。それでも顔全体を治療するには多額の費用と時間がかかるので、大抵の患者は一部だけの美容整形だけを行うのが一般的です。ただ、男爵夫人の場合は少々特殊なようです』

 

『……特殊とは?』

 

『まず第一に挙げられるのは男爵夫人がした手術は皺とほうれい線に関する手術である事です。』

 

『それはどういった手術なんだ?』

 

『簡単に言えば老化現象の衰えを取り除く手術と言ったものでしょうか。目元の皺、たるみ……兎に角、見た目にも年齢が現れやすい部分を中心に手術を行うもののようです。それらの手術を受けた場合、当然のことながら皮膚を引っ張る事になります。若い頃は大丈夫でしょうが、年老いてその状態のまま放置すると、やがて皮膚が引きつったような状態になってしまいます。そうならない為には定期的にメンテナンスを欠かさない事でしょう。男爵夫人の場合、メンテナンスを全く行っていなかったようですし、それが今回の原因に繋がった要因の一つと言えましょう』

 

『メンテナンス……。それをすれば妻は元の姿に戻るのか?』


『専門家に診てもらわない事には何とも言えませんが……。最悪の事態も覚悟しておいた方が良いかもしれません』


『最悪……?』


 医者から不穏な言葉がでてきた。

 今よりも酷くなるという事だろうか? 全く想像もつかない。サリーの顔面は今でも酷い有り様なのだ。これよりも酷いとなると一体どんなものなんだ? 混乱する中で、医者が静かに話し始めた。


『二度と元の顔に戻らない覚悟だけはしておいた方がいいでしょう。私も詳しくは分かりませんが、そういった症例があるのは事実です。勿論、手術で元に戻せる可能性もあるでしょうが……その場合、多額に費用が掛かってきます。それならば新たに整形した方が費用面は幾分マシにはなるでしょう。ただ、同じ処に手を加える事は皮膚事態に大変な負担を強いるものです。少しずつ皮膚が歪んでいき、最終的には顔全体の形が変わってしまう可能性は十分にあるでしょう。お気の毒だとは思いますが、これが現実です。……兎に角、一度専門医に診察してもらって下さい』


 その内容は考えていた以上のものだった。

 医者に言われた通り、私はその足でサリーを連れ専門の病院へと訪れた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る