第98話元王妃side

「この最下層の地下にはそなたのもいる。退屈はしない筈だ。そなたの口車に乗せられて破滅した者達……その親族達ばかりを特別に集めた。に花が咲くことだろう。彼らとここで死ぬまで一緒に暮らすといい。まぁどちらにせよ、楽に死ねるとは思わない事だ」


 陛下は喉を鳴らし、笑いながら出ていってしまう。縋るように陛下に手を伸ばした私を振り返りもせず。

 

「嫌よ!嫌!!ここから出して!!お願いです陛下っ!!!」

 

 私は一人、叫び続けるしかなかった……。

 ……どうしてこんな事に。

 私が一体何をしたというの?誰か教えて欲しいわ。私はただ幸せになりたかっただけなのに。

 愛する人と結婚して、可愛い子供に囲まれて過ごしていく。王妃として崇められ讃えられて生きる。そんな普通の幸せを望んだだけなのに。それが何故こんな惨めで恐ろしい場所で過ごさなくてはいけないの? 分からない。何度考えても分からない事ばかり。


 叫び続けていた私には気付かなかった。みすぼらしい姿の男達がおぼつかない足取りで近づいてくるのを。気付いた時には既に囲まれてしまっていたわ。



「お前だ……お前のせいだ……」


 囚人の一人に口を何かで塞がれて、次に起こったのは大勢からのいわれなき暴言と暴力の嵐だった。


「お前のせいで俺達は全てを奪われたんだ!!」


「俺達は知らなかったのに!お前が勝手にやったことなのに……お前と奴らと親しかっただけで!!!」


「これからだったんだぞ!! 折角、領内も豊かになって子供も出来てこれからだっていう時に!!」


「隣国の王女だから……王妃だから……大丈夫だって言ったのに……お前のせいで妻や娘があんな最後を……お前のせいだ!!!」


 骨と皮だけの老人といってもいい男達。何処にそんな力があるのか分からない。彼らは容赦なく私の全身を痛めつけ続けた。


 痛い。苦しい。助けて……。

 そう願っても誰にも届かない。次第に薄れる意識の中、最後に聞いたのは自分の断末魔のような悲鳴だけだった。


 どれくらい時間が経っただろうか。気が付くと、あれ程いた囚人達が全員姿を消していた。体中が悲鳴をあげているみたいで辛いわ。もう指一本も動かせない。朦朧とする意識の中、若い女性の悲鳴と男達の荒い息遣いが聞こえたきがした。


 でも確認する事はできなかったわ。だって私自身がもうどうなっているのか分からないもの。瞼が重くて仕方がないわ。このまま死ぬのかしら? いいえ。この私がこんな処で終わるはずがないわ。きっとチェスター王国が助けに来てくれる。お兄様やお姉様が私を助け出して陛下を叱ってくれる筈だわ。ふふふっ。陛下はきっと私に許しを請う筈だわ。ええ、大丈夫。私はどんなことがあっても陛下を愛していますもの。ちゃんと許して差し上げるわ。私達は夫婦ですもの。神の前で誓い合った夫婦。それは決して変わらない真実ですもの。


 ああ、もう意識が保てなくなってきたわ。


 大丈夫。次に目が覚めたら全てが終わっているわ。きっと……。



 


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