第97話元王妃side
「私は
陛下の声音が変わった気がした。その顔に浮かぶ笑みの種類も変わったような気がするわ。けれど今の私にはそれを気にしている余裕がないの。何故なら……何故……。
「フェリックスの命を守る
「あ……ああ……」
「夫以外の子を産み王位簒奪を図ろうとしたそなたは既に廃妃だ。祖国であるチェスター王国は存亡の危機にある。それを知ったそなたはその現実に耐えきれず心を病み、そして亡くなる。どうだ?そなたのような女には勿体ないほどの素晴らしい筋書きだろう」
「私は生きております!」
「残念ながらな。これから、そなたは生きながら死んでもらうことになる。そなた罪に相応しい最期を用意してある」
「そんなっ……そんなこと許されません!」
「そなた如きに許される必要など無い。さあ、来るが良い。この地下牢の奥に隠し扉がある。そこから更に下へと続く階段を下りると最下層の牢だ」
「嫌……嫌よ……助けて……誰か……マックス……」
私を縛り付けている護衛の男に無理矢理歩かされた。私の口から悲鳴にも似た声が漏れるのが止まらない。この男は私が知っている護衛とは違う存在だわ。顔はフードを深く被っているせいで見えないだけじゃない。存在そのものがお兄様にお願いして来てもらった暗殺者に似ているのよ!殺す事をなんとも思わない類のもの!
「嫌よ……行きたくない……」
必死に抵抗する私を無視して男が私を連れて行く。嫌よ。こんなところ行きたくなんてないわ。なのに身体が全く言うことを聞かない。足を引きずるようにして男の背中を追いかけるしかない。まるで幽霊になったみたいね。身体中が重いわ。息苦しくて胸が痛い。心臓を直接握られているようだわ。
ああ……もうダメかもしれない。恐怖のせいで上手く呼吸が出来ていないのかしら。視界まで霞んできたわ。怖い。このまま死ぬの?この男に殺されて?嫌よ。どうして私が殺されないといけないの!?
いつの間にか階段をおりていた。
そこは今まで見た事もない程大きな牢獄だった。しかもその壁一面には赤黒いものがべったりと塗られていて気味が悪い。冥府の世界だと言われても信じてしまいそうだわ。だって、ここには生きている者の気配というものが何も無いもの。それに血や腐臭に似た酷い臭いが立ち込めていて鼻と喉を痛めつけられそう。とても苦しいし気分が悪くなってきた。
「安心すると言い。そなた一人ではない。そなたの孫娘も一緒だ」
「孫……?」
そういえばマックスに娘が産まれたと聞いたわ。それも随分と前に。下賤な血を引いた孫なんかに会いたくなかったから生まれてから一度も会ったことがなかったけれど。あの子は今何歳くらいなのかしら?
「流石はそなたの血を引いているだけあってよく似ている。ああ、言っておくが姿形ではない。中身がな。それも、そなた同様に愛し合う者同士を卑劣極まる方法で別れさせようと目論んだ。そのような輩の娘だから仕方ないのだがな」
陛下の言葉の意味がよく分からない。一体何を言っているのかしら。そもそも陛下が話していることは全て真実だと誰が保証してくれるの?私は誰を信じたらいいの?私はどうしたら……。
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