第65話宰相side
修道院から苦情が届いた。
寄付金が多過ぎると。
そのせいであらぬ疑いを掛けられているとも。
王女の名前で寄付をしたらいいと提案したのは私だ。
だが、まさか
王太子殿下は何をしているんだ!
「すまない、宰相。手間をかけさせてしまった」
首を垂れる王太子殿下に対して強く言う事はできなかった。
「……修道院に寄付をするのはお控えください」
「ああ……。まさか寄付の仕方を知らなかったとは思わなかった」
私もです。
ですが、恐らく王太子妃も「正しい寄付の仕方」を御存知ないでしょう。
あの手の女性は「寄付をする位なら自分で金を使う」の典型ですから。目の前にいる殿下が知っているかどうかは分かりませんが、王妃も同じタイプ。なので嫌でも想像がついてしまう。
ふっ、私がこんなことを考えていると王妃が知れば、チェスター王国一の美貌と謳われた美しい顔を歪めるだろう。「高貴な自分が卑しい男爵家出身者と同じだというのか」と甲高い声で叫ぶだろう。
チェスター王国より嫁いできた王妃は『絶世』といわれるほどに美しかった。その美貌においては内外に高く評価されたものの、それ以外の面においては一国の王女とは到底思えない振る舞いであった。妃としての公務の半分を放棄し、自由奔放に振る舞う。機嫌が悪ければ周囲に当たり散らす。時には手をあげる事もあった。諸外国に招かれても傲慢で不遜な態度が目に余る程で、我が国の『王妃の評価』は恐ろしく低い。王妃としての品格を何度疑われたか知れない。当初は、チェスター王国の王女を歓迎した数多くの貴族達が早々に失望を露わにしたのは言うまでもない。
なまじ、陛下の元婚約者が優秀だったからこそ、その落胆は激しかった。
エリーゼ・コードウェル公爵令嬢。
陛下の最初の婚約者。
彼女は優秀で優しく、美しかった。
容貌だけでいうならば王妃の方が上だろう。
しかし、それ以外の全ての面でエリーゼ嬢は勝っていた。
陛下のエリーゼ嬢は相思相愛の婚約者同士だった。
当時の我が国の窮状を考えればチェスター王国の王女を娶るしかなかった。それがこの国を救う唯一の方法だった。分かっていても後悔は後から波のように押し寄せてくる。
陛下は、きっと今でもエリーゼ嬢を大切に想っているのだろう。
彼女の月命日には好きだった花を部屋に飾る習慣があるほどに……。
そして、それは王妃も知っている。
だからこそ、亡くなった公爵令嬢を憎んだ。
死してなお、陛下の心を捕えて離さないエリーゼ・コードウェル公爵令嬢を心の底から憎み恨んでいる。
一目惚れした陛下の元に無理やり嫁いできた王妃は何年も子供ができず、周囲から冷ややかに見られていた。また、公爵令嬢の死因が王妃のせいだとまことしやかに噂されていたことも拍車がかかった。一国の王女故に冷遇はなかったが人気が全くなかった。確たる証拠もないが、その疑いは晴れる事もなかった。
我が王家は呪われているのではないか?
よからぬ女性ばかりが王家に嫁いでくる。
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