第64話修道院の院長side


 ここ最近、溜息が増えてしまった。

 原因はこの国の王女。

 彼女の名前で定期的に修道院に寄付金が送られてくる。それはいい、とても助かっている。だけど……問題があった。寄付金の額だ。大金過ぎる。どうやら王女は寄付の仕方を知らないらしい。


「本人は熱心に寄付をしている敬虔な王女というポーズをとっているのも問題だわ」


「寄付はこの修道院へ入るための布石ではありませんか?」


 副院長が恐ろしい事を言う。

 けれど、あの王太子夫妻の娘。有り得る話だった。


「かもしれないわね。もっとも、候補はうちだけではないようだけど……」


「そうですね。うちを入れて数ヶ所の修道院の寄付をしていると聞きます」


「何処もお金だけ渡して『してやった』とされているわ」


「あの規格外の大金をですか?」


「そうらしいわね。何人かが王女の寄付金を着服した容疑で捕まったそうよ」


「王家は王女に教育を施さなかったのですか?」


「どうかしら? 普通に考えて王女が特殊だと思うわ。母君の王太子妃も妃教育が未だに修了出来ない方のようだし……」


「母君の血筋と言う訳ですか」


「貴族でも王女のような非常識な寄付はしないから、そうとしか考えられないわね」


 貴族だけじゃない。裕福な商人でも王女のような無茶な寄付はしない。普通は小分けにして寄付をしたり、月毎で上限を設けて寄付する。それか物品の寄付。王女のように大金を寄付するのは「成り上がりの無作法者」のする事だとされている。とても一国の王女のする行為とは思えない。王家の紋章入りのケースに大金が入っていなければ裏組織の人間からの寄付かと勘違いしてしまっただろう。

 

「王女からの寄付を止めさせてもらってはどうですか?」


「承諾すると思う? 場合によっては責め立てに来るかもしれないわ」


「それは……」


 副院長も良い澱んでいる。

 無理もない。

 断りを入れる先は王太子一家。

 苦言を呈して果たして聞き届けられるか……。

 こちらの意図を勝手に解釈されてくる恐れもある。

 慣例破りの常習犯王太子夫妻が人の話を聞いてくれるとは思わない。


  

「ここは宰相閣下に手紙を送りましょう」 



 



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