第28話とある子爵side
息子が死んだ。
処刑された。
容疑は、王族への暴行行為。
貴族子弟だから公開処刑ではなく毒杯を飲まされた。
息子の最期を近衛兵から聞かされた。
王女暴行後は駆け付けた護衛の指示に大人しく従っていたようだ。
「御子息は覚悟の上でした」
全て分かった上で王女を殴り殺そうとしたらしい。
子供の拳だ。
王女の一つ上の八歳。
「看守にも丁寧な態度でした」
息子が入れられたのは貴族専用の牢ではなく一般の牢だった。
嘗て友人だった者達も入った事がある場所だ。
地下牢でないだけマシだろう。
「毒杯を飲まれた時も毅然としていました。『家族に迷惑をかけてしまって申し訳ない。しかし自分は間違った事は一切しておらず、後悔もありません。これからは天国で妹と一緒に見守っているので安心して欲しい』と最後に言っていました」
「そうですか」
娘が死んで、息子が死罪を命じられた日から妻はベッドから起き上がれなくなった。事態を知った両親も同様だ。孫を二人同時に失ったのだから。
「御遺体の方は……申し訳ありませんがお返しする事はできません」
「分かっています」
息子はただの罪人ではない。
王族に危害を加えた
「
娘が死んだ原因は王女にある。
彼は王女を犯罪者として訴えるかどうかを聞いているのだ。診断書もある。多数の目撃者もいる。シンは証言台に立つと言ってくれている。
「王太子殿下は
王女を訴える事はできない。
王女に裁きを与える事は王太子殿下に弓引くのと同じ事だ。
目の前の騎士は王太子殿下の言葉をそのまま伝えてくれている。少し困惑した表情だ。意味を図りかねているのだろう。王太子殿下の言葉は、親として娘の仕出かした責任を取る様な言い方だが、一方で便宜を図るので不問にするようにとも取れる。
王太子殿下の言葉の意図は両方だろう。
もしも、俺たち子爵家が王女を罪人として訴えた場合、息子の過去をばらされる。嘗て息子が娘を虐めた令嬢を半殺しにした件が蒸し返されてしまう。相手の令嬢に非があったとしても息子のやった事は暴行罪に値する。それを王太子夫妻に不問にしてもらったのだ。
それだけではない。
子爵家の品々が特産品にまでなったのは王太子殿下が大勢の人々に商品を紹介してくださったからだ。そうでなければ、こんな短期間で莫大な利益を得られない。
領民の暮らしを守るのが領主としての務めでもある。王太子夫妻の贔屓によってだが、領内は豊かになった。飢える領民はいない。今の立場を失う訳にはいかない。
子供達はもういないのだから。
「王太子殿下にお伝えください。これからもよろしくお願いします、と」
俺は最低な父親だ。
だがもう、他に選択肢はない。その手段さえ思い付かない。
今更、元の貧乏生活に戻れる筈もない。貧乏な領には戻れない。だから大人しく従うしかない。シンが知ればまた殴られるな。それとも殴る価値のない男だと思われるか……。
自分は大丈夫だと、上手くやれていると思っていた。お調子者の友人達と同じ轍は踏まない……そう思っていたが、どうやら俺も「愚か者」だったようだ。
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