第18話過去15 ~宰相side~

 

 孤児院の院長から苦情が届いた。

 絡みだ。


 子供達の教育に悪いから二度と連れてくるな、という内容だった。

 かなりオブラートに包みこんで書かれていたが直訳するとこうなる。


 外務大臣から「外交に興味を抱かさないために国内公務に厳選して欲しい」という依頼があったから当たり障りのないものにしたのだが……。どうしたらここまで酷い評価を受けるんだ? 孤児院だって王家の支援している所だぞ? 相手側も来訪者が王太子妃と分かった上でもてなしてくれる。それがどうして……。


 セーラ嬢が王太子妃だったら苦情などこなかっただろう。


 

 王太子であるマクシミリアン殿下は

 文武両道の自慢の王子だった。

 帝王学を学び、立派に成長していた……はずだった。


 それが、恋愛に溺れるとは。


 いや、王太子に恋人がいる事は知っていた。

 だが所詮は「若気の至り」、「学生の時だけの恋人」、「青春時代の思い出」と思って甘く見てしまった。

 まさか、婚姻を考えていたなど思いもしなかったのだ。


 下位貴族の出身。

 成績も芳しくない。

 

 それでも、あの王太子殿下が夢中になった女性だ。

 何かしらの才能はあるだろうと思った。


 今思うと、そう思いたかったのだろう。


 「賢王」になるだろうと謳われた王太子が選んだ女性の武器が「顔と豊満な肢体だけ」とは思いたくなかったのだ。


 王太子妃の妃教育の成果は最悪だった。


 貴族教育を本当に受けたのか疑問に思うほどだ。王太子妃付きの侍女が決まらないのはそのせいだろう。今も侍女長の元に苦情と嘆願書の山が出来上がっている。財務大臣からは「仕事しない王族の予算を減らそうと思っているんですけど良いですよね?」と素晴らしい笑顔で言われた。

 最近では外務大臣も「王太子殿下は外交に必要ないです」と青筋立てながら言ってきた。あれだな。セーラ嬢が結んだ契約を殿下がダメにしたせいだな。気持ちは分かる。だが、もう少しオブラートに包んで言ってくれ!


 コツコツと地道に実績と評価を上げてきた王太子殿下。


 まさか女で躓くとは。


 王太子殿下の今までの功績は王太子妃のせいでマイナスだ。


 これ以上は無理だ。

 大臣達の我慢も限界だろう。

 私も王太子殿下を庇う事は出来ない。

 出来る事なら王太子殿下自身が過ちに気付き目を覚ましてくれる事を願うばかりだ。それは遅ければ遅いほど取り返しがつかなくなる。そう分かっているのに殿下に進言しない私も心のどこかで殿下を見限っているのだろう。王太子の「外交公務禁止」と王太子妃の「公務禁止」についての手続きを始めた。


 

 


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