第11話過去8


 サリーの妃教育はやはりというか困難を極めた。


 ガチャガチャ。


「サリー妃、食事中に音を立ててはなりません」


「音? 何のこと?」


「先ほどから音を立てて食事をなさっていらっしゃいます」


「こんなのは音の内に入らないわ」


「……サリー妃は王太子妃です。男爵令嬢であった頃ならまだしも“妃殿下”になるにはマナーは高度なものを求められるのです。音を立てて食事をなさるなど論外でございます」


「ワザとではないのに酷いわ」


「ならば、直す努力をなさいませ。このような事は高位貴族の令嬢ならば誰しもが幼少期に修得している初歩のものです」


「私は男爵家の娘よ?そんな高度なマナーを受けられる訳ないでしょう!」


「ですから、それを今直すようにしているのです」


「食事が楽しくないわ」


「食事を楽しめるようになるまで訓練は受けて頂きます」



 隣室で聞こえてくるサリーと教育係の言葉の応酬に溜息がでる。

 教育係達に発破をかけた手前、サリーの味方をしてやれない。念書にサインして以降はサリーだけが別室で食事を取っている。正しい食事マナーが出来るまでは王族と同じ場所で食事をしてはならないという契約内容だから致し方ない。

 



 


 


「サリー妃、挨拶だけをすればいいという訳ではありません」

 

「でも帝国語なんて喋れないわ」


「今、勉強していますから何れは話せるようになります」


「それって何時になるの?」


「……サリー妃の頑張りようです」


 集中力が散漫になるサリーのために教育は完全マンツーマンで行われた。

 サリーの横には常に監視役の侍女が傍にいる。

 それというのも、サリーはよく居眠りをするためだ。コクリコクリと首がふらつき眠りそうになるサリーを注意するのは教育係だけでは足りないらしい。それだけ眠りこけるサリーだった。


 


 


「北方に位置する聖ミカエル帝国は来年で建国千年という節目の年になります」


「千年……長いのね。そんなに長い国他にないんじゃない?」


「サリー妃、我が国も八百年の歴史を持っております」


「なっ!? で、でも二百年も差があるじゃない!」


 教育係はもはや呆れを通り越していた。

 逆に傍にいる侍女が絶句している。


 どうやらサリーは自国の歴史詳しくなかった。






 

「我が国は四方を山に囲まれております。そのため国自体が難攻不落の要所と呼ばれ……「ねぇ」……何でしょう、サリー妃」


「山に囲まれているって何? うちの国には海があるでしょう。海から敵が来たらどうするのよ?」


「はっ!? 海?」


「そうよ!東にあるでしょう!死海とか言ってたわ」


「……それは“ヨル湖”です。海ではなく“湖”です」


「そんなはずないわ! 地元の者達は『死海』と言っていたし、もの!海はでしょう?」


海ですからね。塩辛いのは当然です」


「ほら!やっぱり海なんじゃない!」


「元は海だと申し上げているのです」


「どっちでも一緒でしょう?」


「全然違います」 


 

 地理弱かったとは。

 それにしても海と湖の違いが分からないとは……どうするべきか。

 

 




 最近、王宮の者達が気まずそうに私と接するのは気のせいではないだろう。

 半年も経てばサリーの出来の悪さは王宮中に知れ渡っていた。





 


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