第10話過去7
側妃制度の復活は無理だった。
これには私の両親が関係していた。
私の母である王妃は、隣国のチェスター王国の王女だった。
王女であり末の子供であった母はそれはもう大切に育てられた。
両親だけでなく、兄弟からも愛されていたため嫁ぎ先は近場の周辺国へと考えていた程に。
そんな中で母は父に恋をした。
度重なる自然災害で困窮していたティレーヌ王国。支援の申し出をしにきた使者団の中に王太子であった父も訪れていた。
『ティレーヌ王国の王太子の元に嫁ぎたい』
母はチェスター国王に懇願した。
当時は隣国の方が国力が上であった。
その上、支援をする条件として末の王女との結婚を隣国は推し進めた。
チェスター王国としては溺愛する王女が隣国の王妃になるのは喜ばしい事であった。父には婚約者がいたが国のために婚約を解消したと聞く。
母は父を深く愛している。
それは息子の私もよく知っていた。
だが、まさか……夫を愛するあまり「側妃制度の永久廃止」を議会で承認させていたとは思わなかった。
しかも、これには聖ミカエル帝国が関わっている。側妃制度を復活させるにはティレーヌ王国とチェスター王国の承認だけでなく聖ミカエル帝国の承認もいる。これは恐らくチェスター王国の策謀だろう。
聖ミカエル帝国は一夫一妻制。
愛人の存在すらタブーとされている。
結婚という名の契約を一方的に破った場合は無期懲役になるとも伝え聞く。
それだけ「婚姻関係」に厳しい国が。
私が書簡を送れば激怒して貿易を即時停止してくるのは目に見えている。
そんな事になれば我が国はたちまち立ち行かなくなるし、国際的に孤立する羽目になりかねない。
結局、男爵令嬢としての教養しか身につけていないサリーを早急に高度な教養を身につけさせる他に方法がなかった。
私は選りすぐりに教育係達に促した。
「王太子妃の教育に全力で取り組んで欲しい」
「畏まりました。全力を持ってあたらせて頂きます。ただ、その前にこちらにサインをいただいても宜しいでしょうか」
目の前に差し出された一枚の紙。『念書』であった。
「何だコレは?」
「念書でございます」
「それは見れば分かる。私が言いたいのは何故このような物が必要なのかと聞いているんだ」
「マクシミリアン殿下は仰いました。『例え何年かかろうと構わない。王太子妃を見捨てないでやって欲しい。だが、君達にもそれぞれの家庭があり事情も異なっている。病気は怪我で王宮に来れない場合もあるだろう。その時は直ぐに報告してくれ。教育係から外そう。その場合、妃教育がどの程度の過程であっても君達を咎めるような事はしない』」
私自身が彼らに言った言葉だ。一言一句間違わずに言う。
「確かに言ったな」
「殿下、我々は口約束という言葉ほど信用できない物はないと考えております」
「私が約束を違えてそなた達を罰するとでもいうのか?」
「そのようには思っておりません。ですが、サリー妃の考えは違うかもしれませんよ?」
「サリーがそなた達に何かするとでもいうのか?」
バカバカしい。
被害妄想でもあるのか?
サリーが何かするはずないだろうに。
「殿下がサリー妃に信を置かれていらっしゃるなら念書にサインをしても問題ないのではありませんか? それともやはり卑しい男爵家出身の妃では信用できませんか?」
「そんな訳ないだろ」
私に念書まで書かせるとは。
この連中は煽るのが上手いな。
何故、教育係などやっているのか……交渉の仕事の方が向いているのではないか?
こうして、妃教育を施す過程の条件を受け入れる形となった。
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