第5話過去2

 

「『学園内においては身分の隔たりなし。全ての学生が皆等しく平等である』という理念の元で学生生活を送っているんです。その理念を蔑ろにする行為こそ恥ずべきものです」


 当時の王立学園は貴賤を問わず王侯貴族と平民が同じ場所で机を並べて学業に励む場所であった。国内の優秀な子供のみならず、国外からも広く門戸を開いていた。多様な国籍、あらゆる階級の子供達が集まって切磋琢磨に学問を学んでいた。学問だけではない。一芸に秀でた者達も多くいた。スポーツが得意な生徒、音楽の才能がある生徒、武術に長けた生徒、と様々だ。



 自主・自立・平等。


 それが王立学園の基本的理念であった。

 学園にあって全ての学生が同じであるとし、友好を深めあう。

 現に私も多くの友人に恵まれた。

 王妃である母は私が王立学園に入るのを最後まで反対していたが、それを押し切って入学した甲斐があるというものだ。王宮では得られなかった日々は新鮮であった。下位貴族や平民の友人も多くできた。なのに学園の理念を蔑ろにして身分を笠に着るセーラの行いこそ罰するべきなのだ!



「マクシミリアン、何か勘違いしておらぬか?」


「勘違いなどしてはおりません!」


「では何故、そのような愚かな事を言うのだ? 確かに学園は『学生同士は平等』だ。“身分で人を差別する行為は、学園の規則でも厳罰に処する”とある」


「なら!」


「だが、それは身分の低い者が身分の高い者を寄ってたかって辱めて良いというものではない。そなたとその友人達は侯爵令嬢であるという一点だけでセーラ嬢を責め立ていたそうではないか」


「それは!」


「ああ、そなた達の独善的な正義感の話はどうでもいい。セーラ嬢もオルヴィス侯爵家も“学生間での出来事だから”と言って広い心で不問にしてくれていたのをいい事に、学園の理念をはき違える者達によってここまで歪まされるとはな……」


「は……はき違えた……?」


「まぁ、セーラ嬢が穏便に済まそうとしても学園側がそうはさせない。卒業間近に各家に抗議している」


「なっ!?」


「何を驚く事がある。もう彼らは学園を卒業しているのだぞ? 学生気分で高位貴族を中傷すれば貴族として立ち行かなくなる。もう“王太子殿下の後ろ盾がある状態ではない”のだからな。自分達の行動はそのまま自分達と家に返って来るというものだ。学園側に対しておかしな逆恨みをするでないぞ。卒業生のの事なのだからな」


 平等は、飽く迄も学生の間だけだと言われた気がした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る