第4話過去1

 

「父上、結婚したい女性がいます。学園で出会ったサリーという名の男爵令嬢です。彼女を私の妻としたいので、セーラとの婚約を解消したいと考えています。男爵家の身分のままでは妃に出来ませんので、どこかの侯爵家の養女にしたいのですが何処かに良い家はありませんか?」



 恋に浮かれ切っていた当時の私は父上が怒りを抑え込んでいる事も知らずに、自分のありのままの気持ちを宣言していた。

 驕っていたのだろう。

 王家の唯一人の王子であり王太子である事に。

 両親、特に王妃である母上に溺愛されていた事に。


 この国で自分の思い通りにならない事などありはしないと……恥ずかしいが当時は本気でそう思っていた。

 だからこそ父上の忠告の意味に気付かなかった。



「マクシミリアン、そなたは以前言っていたな。将来の国王として名を馳せたいと。国民が自慢できる君主になりたいと言っておったな。よいか、良い君主というのは自我をコントロールして決して本心を曝したりはせん。怒りも悲しみも全て己の心一つに飲み込んで国と民に奉仕するものだ。そこに個人の意志など必要ない。そなたが本当に国王として即位したいのなら、この先に起こる事をしっかりと見ておく事だ。そして、その対応を己で考えるといい。どうしてそうなったのか。これからどう行動すればよいのか……じっくりと検討すればいい……もっとも、行動した先が最善とは限らんがな」




 父上の不吉な言葉は、まるで予言のように現実となり始めた。

 まず、サリーの養子先がなかった。


「何故だ? 王太子妃の実家になれるのだぞ? 次期王妃の実家になるチャンスなのだぞ?」


 三大公爵家だけでなく、侯爵家全てから断わられた。

 仕方なく伯爵家に声をかけたが――。


「王妃になれる資格を有するのはの令嬢と王室規定に記載されております。なら『側妃制度』がございましたので伯爵家程度なら側妃として娘を後宮入りさせる家もあったでしょうが、今は時代が違いますからな。まことに残念です」


 この時、私は気付くべきだった。

 高位貴族の私達を見る目を。

 そして、これ以上ないほどセーラの実家であるオルヴィス侯爵家を怒らせていた事を。


 オルヴィス侯爵家は婚約者である私の不貞が原因での婚約解消として王太子有責での慰謝料を請求してきた。王家に対して無礼極まりない。更に、浮気相手としてサリーにも慰謝料を請求する始末。


 そんなものは突っぱねてしまえばいい……とはいかなかった。

 国王父上がそれを認めたからだ。


「婚約を解消した訳でもないというのに、あそこまで表立って浮気相手との結婚に動いていたんだ。今更、『違います』とは言えん。裏工作しようにもそなたも相手も全く隠れもせずに堂々としていたからな。侯爵家は証拠を山のように持っているだろう」


 父上の言葉通り、オルヴィス侯爵家は王家相手に一歩も引く事はなかった。


「王族に対して不敬過ぎます! 不敬罪で捕えましょう!」


「そなたが婚約者に筋を立てていれば何の問題もなかった事だ。大体、不敬罪というのなら、そなたの相手と取り巻き連中こそ不敬罪で牢屋行きだ。侯爵令嬢相手に随分とを繰り返していたそうじゃないか」


「学園での事です!」


「ほぉ」


を重んじる学園内での事は『侮辱』にはなりません!」


 自主・自立・平等をかの学園は謳っている。

 本当に愚かとしか言いようがない。

 学園の素晴らしい校風を台無しにしたのはだ。

 本来の意味を理解しないままでいた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る