黒魔法を私的利用してもいいじゃない。村娘だもの。

 メリジェーン様と王子からは逃げることができた。でも私は食堂に行けなくなっていた。食堂に行けば必ずメリジェーン様とその他攻略対象達が、もれなくスペシャルセットで居るに違いない。

 私からすれば、最悪の二文字しか出てこない。食堂には他の生徒達も沢山いるけど、私の姿は嫌でも目立ってしまう。

 容姿だけはヒロインだった一回目と変わらないから。桃色の髪は視界に入ったらわかりやすい色だし、容姿そのものが庇護欲をそそるから目立つ。だからアンナとして食堂に行くことはできない。

 だから、黒魔法を使う。本当は魔法の私的利用は禁止されてるんだけど。一回目の時は使いまくってたし。今回だって攻撃系じゃないから問題ないでしょ。黒魔法の基本的な使い方は攻撃じゃない。感情を操り、自分を変化させること。


「シャドーメイク」


 見た目を変えるのは、黒魔法の基本らしい。悪用できる魔法しか、黒魔法にはないんだから。国の研究所が私を欲しがるわけよね。もう私の未来はは黒雲で暗くなってる。

 変化した容姿は、貴族にはよくいる赤茶色の髪にぱっとしない容姿のモブ姿。

 さらに───


「シャドーベール」


 気配を薄くする魔法。暗殺とかコソコソするのに使える魔法ね。本当黒魔法は悪用し放題の危険な魔法だわ。魅了の魔法も悪用し放題だけど、あれって白魔法なのかしら。禁術って言ってたけど、過ぎたことを気にしても仕方ないわよね。とにかく早く食堂に行かないと、お腹が空いたわ。


 魔法はしっかり私の存在感を薄くしてくれて、食堂の隅っこで静かにお昼を食べていたかった。でも、食堂が静かなわけがなかった。だってメリジェーン様とその他攻略対象達がいるんだもん。他の生徒たちは取り入ろうとざわついているし。メリジェーン様とその。面倒だし、ヒロインと攻略対象達でいいや。ヒロインと攻略対象達は楽しそうに食事をしているし。

 ちょっと何話しているのか気になるし、盗み聞きしようかな。もちろん黒魔法を使って。周りには聞こえないように、小声で。


「メアリーイヤー」


 壁に耳あり、障子にメアリー。って言うことらしい。研究者が説明の時に言ってたのよね。魔法の名前考えた開発者、絶対遊んでたでしょ。耳は壁の方で、メアリーは目をもじっただけなのに。まあ、これで遠くの会話が盗み聞きができる。もちろん悪用目的の魔法よ、今回みたいに。


「それにしても、アンナさんと一緒にお昼を食べたかったですわ」

「また誘えばいいさ、メリジェーン。彼女は平民だと聞く、一緒に食事は大変なんだろう」

「そうですわね、フォルスター様。また明日誘ってみますわ」


 何でそうなってるの⁉

 おかしい。私は「一緒に食事なんて無理」って言ったはず。嫌われるような言葉を選んだのに、何で嫌われるどころか好感度が上がってるの。おかしくない?

 私は非攻略対象なんだよ。好感度システムバグってるんじゃないの‼

 いや、悪役令嬢がヒロインの時点でゲームはバグってるけど。


「そのアンナが使う魔法、黒魔法と言っていましたが。初めて耳にしました。私は家庭教師からも習ってはいません」


 この声は確か、財務大臣の子息だっけ。もちろん攻略対象。


「ヒューズは知らないか。俺は父から聞かされたことがある。確かメリジェーンの白魔法と対を成す、珍しい魔法だと聞いた」

「メリジェーン様の白魔法と対を成すとは。いったいどんな魔法なのでございましょうか。癒しの力を持つ白魔法なのですから、やはり破壊や攻撃に特化した魔法なのですか殿下」


 今度は騎士団総帥の子息か。ほんと逆ハーレムじゃない。しかもまだ三人くらい他に攻略対象いるし。


「黒魔法の内容は、父も教えてはくださらなかった。いずれ分かる日も来るとは言っていたが」



 そりゃ国王も、まだ子供の王子には教えないよね。悪事をするための魔法なんて。就職先は、国の暗部が確定してますよーだ。そう思うと腹が立ってきたし、盗み聞きはやめよ。

王子に仕えるとか、考えただけで悪寒がする。ちょうどお昼ご飯も食べ終わったし、さっさと食堂から逃げよ。午後はたしかオリエンテーションだっけ。話を聞くだけだし、何も起きないわよね。

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