私の平穏はヒロインに奪われる

「アンナさん、お昼をご一緒にいかがかしら?」


 メリジェーン様に声をかけられて、私は絶体絶命の危機に陥っていた。ヒロインに関わることは、すなわち攻略対象と関わることになる。一度目なら喜んだ、だってヒロインだったから。でも今は違う、間違いなく死ぬ。常に悪感情に襲われるとか拷問だ。何とかして断らないと、でもどうやって。


「あ、あの私」


 なんて理由をつければ良いんだろう。他の友人がいるから、とか。ダメだ、その友人も一緒にって言われたら逃げれない。どうせ関わらないんだし、嫌われるようなことを言っても問題ない。なんなら一石二鳥だ。メリジェーン様から逃げれて、攻略対象からも嫌われるかもしれないし。


「メリジェーン様と一緒に───」

「どうしたんだい、メリジェーン」


 私の「お昼食べたくないんです」を、掻き消してくれたのは王子だった。一度目に恋した人。二度目の今は最も会いたくないひと。メリジェーン様は王子の婚約者だから、王子がかならずセットになってやって来る。だからヒロインじゃなくても、メリジェーン様には関わりたくなかったのに。


「フォルスター様。実は今、アンナさんをお昼に誘っていましたの」

「メリジェーンは優しいな。アンナと言ったか、どうだろう一緒に食べないか?」


 どうして王子まで私を誘うんですか。何を考えてるんですか。馬鹿なんですか、馬鹿でしたね。だってヒロインだった私に、メロメロだったんですから。まぁ、魅了魔法の効果もあったんでしょうけど。一回目で魅了魔法が解けたのは、もしかしたら王子が馬鹿だったからかも知れない。もうどうでもいいけど。

 それにしてもなんで二人して、私なんかをお昼に誘うの。黒魔法が使える、ただの村娘なのに。


「これから、学園のテラスでお昼を食べるんだ。君以外にも招いているから気負うことは無い。大勢で食事をした方が楽しいからな」

「フォルスター様は、彼らとお食事をする予定でしたの?」

「ああ、もともとそのつもりだったんだが。アンナには親しい友人がないようだし、この機会に友人を作れば学園生活も楽しくなるだろうと思ってな。メリジェーンも一緒にどうだ。アンナ一人では心細いだろうから、一緒に来てくれないか」

「アンナさんがいらっしゃるなら、よろこんで。ぜひご一緒させていただきます」


 何で王子とヒロインにこんなにグイグイ、アタックされないといけないんだろう。私、非攻略対象なのに。システム上、非攻略対象は攻略できないのに。二回目だからシナリオなんて関係ないのかな。でも聖女はちゃんといるし。ややこしいことになって来た。ヒロインと攻略対象からアタックされるなんて。

 でも逆に考えよう。王子とその婚約者の誘いを断ったとなれば。私はクラスメイトに良い目では見られなくなる。クラスの半分は王子の側近。つまり攻略対象だし。攻略対象その他と、距離が置けるってことになる。

 誘いを断って直ぐに逃げれば、無礼な女と認知されるに違いない。一度目の人生は無駄じゃなかった。こんな形で役に立つなんて。一度目はこれとは逆の方法で、他の攻略対象と仲を深めた。王子に頼まれれば、攻略対象達は断れないから。もちろん王子が一番カッコいいんだけど。たまには他の攻略対象はどうなのかなと思うこともあったわけで。結果王子には敵わなかったけれど。

 とにかく、誘いを断ろう。恐れ多くてとか言っておけば良いよね。


「お、お二人と。食事を、するなんて。恐れ、多くて。一緒に、食事なんて、無理です!」


 完璧だ、よし逃げよう。メリジェーン様と王子の、静止の声を聞かずに。回れ右をして、私は教室から逃げた。お昼ご飯をどうするか、あてもなく。



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