一度目は聖女として、二度目は村娘として

 初めて学園に来た時は、聖女だった。ゲームのヒロインで、聖女で、白魔法が使えて。

 二度目の私は、実験体。ただのモブで、実験体で、黒魔法が使える。あとは、人が怖くなった。

 人の悪感情が流れ込んで来る度に、気持ち悪くなって。だから人が怖くなった。話すことも出来ればしたくないし、近づきたくもない。まだ黒魔法を扱えきれてないから、誰かの悪感情を拒否できない。多感な年頃の子供が集まるこの学園は、私にとって最も近づきたくない場所だった。

 魔法が使えるなら、平民だろうと強制入学しなくては行けない学園。私は実験体だし行かなくてもいいと思ってたのに、例外はなかった。

 一度目はあんなに望んでいたって言うのに、今では来たくない場所なんだから不思議。


「今日この素晴らしい日に」


 入学式で、王子の挨拶を聞くのも二回目。一回目の時私はここで恋に落ちた。攻略対象を選べなくて、実際に見て決めようと思っていた。そして、入学式で王子と目が合って好きになった。

 でも今日は王子の話なんて聞いてる余裕はなかった。悪感情渦巻くこの講堂で、私は悪感情と戦うので精一杯だった。私の中に入ってこないでと押し返す。集中しないと私の中に入ってくるから、王子の話なんて聞いていられない。

 1回目はキラキラして見えたこの学園も、今になってみればどこもかしこも真っ黒だった。あいつが嫌いだ、あいつが憎い、あの貴族に取り入らなきゃ。

 野心に、嫌悪に、憎悪に。私の中に入ってこようとする多くの感情と戦っていると入学式は終わった。


 クラス分けは学園が独自に決定している。だからどのクラスになるか分からない。出来れば王子様の居ないクラスがいい。王子様の周りは悪意が渦巻いて居るから。

 私を転生させた神様に一応祈ってみた。別のクラスにしてくださいと。なのにこの運命だけは変わってくれなかった。私のクラスは王子のいるクラスだった。私はもうヒロインでも、聖女でもないのに。


 クラス内は見知った顔ばかり。男性の担任に王子とその婚約者。あとは王子の側近と、爵位の高い子息令嬢ばかり。絶対に仲良くなったら最悪な学生生活になる。今はまだいい、高位貴族しかいないから。廊下に出ればすぐに悪意の渦が出来上がる。

 関わらないようにしなきゃ。無難な自己紹介をして。無難な自己紹介ってなんだろ。魔法と名前でいいかな。いいよね?

 男の子たちの自己紹介が終わって、私は女の子の最初の自己紹介だった。


「アンナ、です。黒魔法が、使えます」


 人が嫌いになった私は、話すことも無くなった。だって話しかけたら、仲が深まるかもしれないから。魔法研究所内だとそもそも話さないし、だから話すのが下手になっていた。名前と魔法を言うだけでも突っかかって上手く話せない。

 周りの反応を伺ってみたけど。変わりないような気がする。悪意は感じないから、興味はもたれなかったのかな。そうだと嬉しいけど。

 他の女の子自己紹介も進んでた。名前も魔法もまだ覚えてたけど。一人だけ自己紹介が違った。いや違っただけならよかった。


「メリジェーン・ヒュルミェメールですわ。フォルスター様の婚約者で白魔法が使えますの。教会からは聖女の地位を頂いております。皆様よろしくお願いしますわ」


 かつて私が王子様を奪った相手。メリジェーン様。一度目は青魔法を使ってたはずなのに。白魔法で聖女って。まるで私の代わりのように。私に無いものを全て手に入れて。王子様の婚約者としてこれ以上ない力を手に入れていた。

 私が聖女じゃなくなったのは、メリジェーン様が聖女だったからだとしたら。魔法研究所ないじゃ外の噂話は聞こえてこないから知らなかったけど。周りはメリジェーン様が聖女であることを、当然のように受け入れている。

 ってことは、聖女に覚醒したのは最近の事じゃないんだと思う。

 そっか。ヒロインはもうメリジェーン様になったんだ。ゲームのシナリオは破綻した。王子ルートなら、メリジェーン様が妨害してるく悪役令嬢役だったし。ゲームの世界じゃなくて、現実の世界になったんだ。

 でも、良かったかもしれない。攻略対象はみんなヒロインのメリジェーン様と仲良くするだろうし。私はひっそり過ごそう。メリジェーン様に近づかなければ、私は平穏に学園生活を過ごせる。

 私はそう思っていたのに……


「アンナさん、お昼をご一緒にいかがかしら?」


 どうして、メリジェーン様は私に話しかけてくるの。早く教室から逃げようと席を立った瞬間に。

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