四年が経ちました。私は十二歳です
私が黒炎の中で倒れ込んでからさらに二年の月日が流れ。私が夢から覚めた。いや、死に戻りをした日から二年が経ち。私は十二歳になった。
協会が迎えに来て、私は白魔法に覚醒して。本当なら聖女になるはずだった四年前。結局私が覚醒したのは白魔法じゃなく、黒魔法だった。
「君は黒魔法に覚醒したんだよ、おめでとう!」
怪しげな格好の怪しげな男の人がベットの傍らに座っていた。目が覚めたら知らない場所で寝ていて、目の前には知らない人がいて。私が感じたのは恐怖と怯えだった。
「君は特別なんだよ、アンナ。黒魔法は白魔法と同じくらいに貴重だからね!」
その目には狂気が宿っていた。楽しいは楽しいでも、狂っていた。黒く歪んだ、ドロドロしたものが私の中に流れ込んできて。気持ち悪くなる。それでも男の人は話すのをやめなかった。
「君の住んでいた家は全て燃えていてね、君の帰る場所はなくなってしまった。この村で暮らすのも大変だろうし、私の所属する研究所に来ないかい?」
そんなことを言われても、わたしが聖女じゃ無いことは変わらなくて。魅了の魔法だって使えなくなって。
私はちょっと珍しい黒魔法が使える、ちょっと珍しい村娘に変わりはなくて。
何も変わっていないはずだった。私が居たのは村唯一の宿屋だった。宿屋のおばちゃんは私を見るなり、慌ててカウンターの奥に引っ込んでしまった。家に向かうため宿屋から外に出ると、いつもと変わらない村の景色が広がっていた。買い物をするおばちゃん達がいて、商品を売るおじちゃんがいて。遊びまわる子供がいて。
でも、誰も私と目を合わせてくれなかった。子供は私を見ると逃げ出して。買い物をしていたおばちゃん達は、通り過ぎた私をちらちら見ながら何かを話していた。何を言っているか小声で聞き取れなくて。
でも私の悪口なんだとわかった。声じゃない、何かが伝わってきた。心の声みたいな、何かが。それは、おばちゃん達だけじゃない。子供も、商品を売るおじちゃんも。宿屋のおばちゃんも。全員が私を怖がっていた。避けていた。
わかるようになってしまった。どこに行っても、悪意が付いて回った。私の居場所はこの村にはないのだと追い立てるように。悪意が付いて回った。悪意から逃げるように家に着くと。いや、家があった場所に着くと。何もなかった。ただ乾いた地面が広がってるだけで。私の帰る場所が無くなっていた。
家も両親も燃やした私は、住む場所も居場所すら無くなった。村中が私を嫌い、村から追い出そうとしていた。私には魔法研究所とやらに行くしか、選択肢が無かった。
「あなたについて行きます」
「そうか、良かったよ!」
魔法研究所は王都にあった。王子様がいる王都。ゲームの舞台である学校も王都にあって。私は王都に聖女としてじゃなく、魔法研究所の実験体としていくことになった。行きたかった王都に実験体としていくなんて。
ヒロインじゃない私に、王都にいる意味なんてないのに。皮肉なものだと思った。
「早速、実験を始めようか!」
私の黒魔法を研究する代わりに、私は魔法研究所に居場所を得る。貴重な実験体として。
研究所には当然私の求めていたものなんてなかった。誰も彼も私を実験体として扱う。愛も好意も何も無い。それどころか、黒い感情ばかりが私に向けられる。
黒魔法を手に入れてから、悪感情が私の中に流れ込んでくるようになった。求めていたものとは対局のものが手に入る。
私はなんのために死に戻ったのか。聖女だった頃の全てを失い、普通すらも失った。そんな私が、なんの皮肉か。どんな運命なのか。ゲームの舞台である学校に通うことになるなんて。
ねぇ神様、私を転生させてなにがしたいの。死に戻りまでさせて。全てを失ったのに。私に何を求めるの。最も近づきたくない学園にまで行かせて。私をどうしたいの。
ねぇ、教えてよ神様。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます