村娘は、ヒロインからは逃げられない。

 話を聞くだけだし、何も起きないわよね。そう思った後に、フラグがたったかも。と、身構えていた私だけど。午後のオリエンテーションは、メリジェーン様から話しかけられることも無く。

 とても平和に、平穏な授業でした。委員会だのクラス委員だのは、ヒロインと攻略対象達が埋めてくれて。委員会は二人選出されるから、足りないところは他の生徒が奪い合っていた。


「メリジェーン様と一緒に」

「フォルスター様に取り入って甘い汁を」

「あいつより俺の方がふさわしい」

「あんな女より私の方が綺麗で胸も大きいのよ」


 その他もろもろ欲望が盛れ出してて。友達になりたいとかよりも、金とか地位に執着するなんて。素直よね、見苦しくないだけまし。まあ悪感情の対処に苦労してた記憶しかない、オリエンテーションだったけど。

 ヒロインと攻略対象達に関わる可能性もだいぶ減った。突発的なことが起きない限りは。大丈夫でしょう。

 オリエンテーションの最後は、学校の注意事項で締めくくられた。


「最後に、寮に入る生徒は。寮でもオリエンテーションがあるので、時間の確認と部屋番号を寮母さんに確認しておくように。荷物は既に部屋に運び込まれているから大丈夫だ」


 貴族なんて王都にお屋敷があるんだから、お屋敷から通うんでしょ。そんなこと思ったら、大間違い。ほかの貴族はそうかもだけど、ヒロインと攻略対象は寮生活をする。そうしないとイベントが発生しないから。

 規則として男女共に寮間の移動は出来ないから、気をつけないといけないのはメリジェーン様ね。村娘の私は当然寮生活だし。メリジェーン様と会う可能性が高いから。

 よし、メリジェーン様をそれとなく尾行しよう。部屋が分かれば、寮内でメリジェーン様と会う可能性も少なくなる。

 帰りの号令をした後、直ぐに私は教室を飛び出した。後ろから───


「アンナさん」


 メリジェーン様の声が聞こえたけど、聞こえてないふりをして逃走。これでも実験をしてたから逃げ足だけは早い。なんの実験かは思い出したくもない。

 まずは寮母さんに、オリエンテーションの時間と部屋番号を聞いた。


「りょ、寮母さん。こんに、ちは」

「こんにちは、新入生だねあんた」

「は、はい。ええと、部屋の番、号と。オリエン、テーションの。時間を。聞き、たくて」

「もっとゆっくり話した方が、いいんじゃないかい。せっかく可愛いんだからさ、台無しになっちゃうよ」

「あ、あはは」


 台無しの方が平和に学園生活を遅れるので大丈夫です。


「部屋番号と時間だね。部屋は七〇二だよ、時間は一時間後だからね」

「ありがとう、ございます」

「あたしの名前はグリンデだ。なんかあったら頼ってくるんだよ」

「はい。し、失礼します」


 寮母さんから離れて、シャドーメイクを使う。後ろを向いた寮母さんの隙をついて、寮から出て物陰に隠れる。シャドーメイクで姿を変えて、メリジェーン様を待つだけ。

 たった一人でメリジェーン様が来るはずも無く、お友達という名目の取り巻きを連れてやってきた。

 元悪役令嬢で、現ヒロイン。取り巻きが居ない方がおかしい。しれっと取り巻きの一人のフリして紛れ込む。常に誰かの影に隠れるように動き、部屋を確認するために解散した後を追う。

 二階建ての寮は。一階に部屋番号の百番台から四百番台がある。二階が五百番台から八百番台の部屋。と分けられてて、メリジェーン様は二階に上がって行った。

 七百番台の私と同じ二階だなんて、運が悪い。後はどこの部屋かだけど。できるだけ遠くでありますように。


「七〇二は、こっちですわね」


 ん?

 待って

 七〇二って言った。まさか、気の所為だよね。ありえない、有り得るはずがない。


「アンナさんと部屋が一緒だなんて幸運ですわ。教室では避けられてましたし」


 私と部屋一緒って、聞こえた。よ?

 急いで確認しなくては、寮母さんに!

 階段を駆け下りてから魔法を解いて、寮母さんに話しかける。


「りょりょりょ、寮母さん!」

「りょりょりょ、寮母さんじゃなくて。グリンデだよ。なんだいそんなに慌てて」

「あのあのあの、私と同室の。人の名前が、知り、たくて。名前だけ、で。いいんで、すけど」


 話してると途中で突っかえるのが、今はもどかしい。


「アンナちゃんの同室は、メリジェーンって子だね。さっき部屋を聞きに来てたよ、綺麗なお嬢様だったね。優しそうだし、良かったじゃないか」


 そんな。嘘だ。ヒロインと同じ部屋なんて、嘘だと言ってよ寮母さん!


「本当に、ですか」

「ああ、階段降りてきたなら。すれ違ってないかい?」

「す、すれち。がわなかった、です」


 尾行してました。


「同室の子とは仲良くした方が良いからね。早く挨拶してきな」


 寮入口のカウンター内から出てきた寮母さんは、私の背中を押してくれた。


「頑張るんだよ。貴族のお嬢様だからって、気後れなんかしちゃダメだよ。学園内は身分関係なし、だからね」


 寮母さんに地獄に落とされた私は、肉にされる動物の気持ちを味わいながら。七〇二号室の前までやってきた。

 せっかくメリジェーン様から逃げることに成功していたのに。なんでこんなことに。私の安息地は何処にあるの……


「あら、アンナさん。遅かったですわね」


 七〇二号室の扉が開き、安息地を探していた私の目の前に。メリジェーン様が現れた。

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