六話 痴呆



ボクのなまえは分からない。

そもそも、なまえってなんだろう。


おやつ食べたいなぁ。ご飯食べたいなぁ。だって食べてない気がするから。


ねえ、お姉さん、ご飯まだ?


「タロウ、もう食べたよ。ごめんね。」


からだがなんだかダルいなぁ。

なんでだろう。動くのがむずかしいなぁ。


ねえ、お散歩したいなぁ


「お散歩したいね、お外出たいね。あと少ししたら行こうね」


なんだか眠いなぁ、いつも眠ってる気がするな。

いつも?いつもってなに?よくわかんないや


ねえ、ご飯まだ?


「ご飯はこれ以上あげられないんだ。ごめんね。」


ボク、喋らないと気が済まないな。

なんでだろ。


「うん、大丈夫だよ。タロウ。大丈夫。もう、もう、おじいちゃんなんだね。」


ボクのなまえはわからない。

そもそも、なまえってなんだろう。


「ママはね、タロウのこと大好きだからね。」


ねえ、お姉さん。ご飯まだ?





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